夏秋 / HEROINE | 安眠妨害水族館

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夏秋/HEROINE


1. 夏秋
2. 深森の湿度
3. 浸蝕
4. みちかけ
5. 焰

ex-cocklobinのボーカリスト、niguさんによるソロプロジェクト。
本作は、通販限定でリリースされた1stミニアルバムです。

桜村 眞(m:a.ture)、ryo(HOLLOWGRAM、KEEL、TAG、DALLE)、yuya(Develop One's Faculties)、wayne(ex-amber gris )、久喜(ex-cocklobin)、Kunoo(tosinn)と、niguさんと親交が深いメンバーもゲストミュージシャンとして集結。
眞さん、yuyaさん、wayneさんについては楽曲提供も行っており、ソロワークスでありながら、コラボレーション作品という意味合いもありそうですな。

しかしながら、まったく雑多な感覚を受けないのが面白い。
全5曲を、niguさんを含めて4人のコンポーザーで制作しているのだから、もっと個々の趣味が出ても良いはず。
それなのに、すべて通して夏から秋に移り変わる物悲しさ、空気の冷たさを漂わせているのですよ。
もちろん、各作曲家たちが個性を押し殺したというわけではなく、niguさんが歌うことで、歌詞やアートワークで世界観を紡ぐことで演出される統一感。
コンセプチュアルなミニアルバムとして、心地良く聴くことができるのです。

表題曲である「夏秋」は、niguさんが自ら作曲したミディアムナンバー。
出だしの雰囲気からインストかな、とも思ったのですが、そこからどんどんドラマティックに展開されて、壮大さのある歌モノへと変化していきます。
マニアックなギミックも随所に入っていて、さすがniguさん、求められているもの、追及すべき音楽をわかっていらっしゃる。
久喜さん、Kunooさんなどが参加しているのも、昔からのファンにはポイントでしょう。

眞さんがコンポーズした「深森の湿度」は、語りのようなフレーズも織り込んで、テンポは速くないものの、カオティックさを増していく。
突如として入ってくるオリエンタルなサウンドにも度肝を抜かれます。
「浸蝕」は、cocklobinで共に活動していたyuyaさんの楽曲。
そりゃ、ツボを知っているわけだ、と唸りたくなる痒い所に手が届く構成になっており、あえてメロディアスに仕上げなかったことで、アルバムの流れとしてもちょうどよい。
引き出しもたくさんあっただろうに、ここを狙った判断に拍手を送りたいところですね。

wayneさんによる「みちかけ」は、デジタルな質感を強めて、ダウナーに進行。
ダークでディープ、ライト層向けではありませんが、ハマる人にはハマるだろう味わい深さがたまらない。
先ほど、統一感があると書いてはいるのだが、ひとつひとつの楽曲に目を移せばアプローチは多岐に渡っており、ただ闇雲にniguさんに似合いそうな音楽の寄せ集めにはなっていないのだよなぁ。

最後は、再びniguさんが担当した「焰」でクロージングへ。
ダンサブルなリズムに、尖ったniguさんの歌声を活かす滑らかなメロディ。
ここにきて、nigu節の真骨頂を見せつけると言わんばかりのキラーチューンを配置しているのだから、本当に抜け目のない作品である。

リリースとツアーを連続して行い、リスナーに休む間を与えない戦略がセオリーとなりつつある音楽シーン。
そこへのアンチテーゼとして、ライブも行わない、次回作の制作も予告しない、じっくり本作の世界観を堪能するためのツールの充実を図っていくとのことで、その試みも興味深いです。
曲数は5曲と、もっともっと聴きたいというのが本音ではありますが、聴き込むことで発見がある「夏秋」の楽曲たち。
しっかり向き合って、niguさんの音楽を耳に、心に焼き付けておこうではありませんか。