妖幻鏡 -west- Vol.3 Survive as an Innovator / V.A | 安眠妨害水族館

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妖幻鏡 -west- Vol.3 Survive as an Innovator/V.A

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関西ヴィジュアルシーンを盛り上げるために立ち上げられたプロジェクト、"NANIWA V系連合軍"。
その活動の軸となるオムニバスアルバム、「妖幻鏡 -west-」シリーズの第三弾です。


1. W~貴方を死ぬほど愛してる…貴方は死ぬほど愛せる?~ / FEST VAINQUEUR

シリーズ皆勤賞のFEST VAINQUEUR。
クラシカルな様式美をなぞりつつも、ハードロック的なアプローチに落とし込む。
直接的にエロティシズムを感じさせる歌詞も含めて、久しぶりに彼らがJanne Da Arcのフォロワーバンドだったということを思い出しました。
全体的に勢いをもたらしつつ、演奏面ではメリハリもあって飽きない構成。
激しい中でギターのフレーズはインパクト重視という点もたまりません。
トップバッターとしての役割をしっかり果たしているかと。


2. SNIPER / BLESSCODE

ストレートな王道疾走ロック。
オムニバスではあるのですが、1曲目、2曲目の流れがV系的アルバムのセオリー通りで、印象面で作品全体の評価を底上げしたといったところ。
個性的なバンドが多い中でどのように目立つか、といったところが課題ではあったのですが、あえてど真ん中で勝負。
そのうえで、"NONONO"や"Bang! Bang! Bang!"といった響きの良さをフックに持ってきたのは正解でしょう。


3. 人間失格-0時編- / シェルミィ

Vol.2にはShellmyとして参加していたメンバーが、Vol.3でシェルミィでカムバック。
時間の流れを感じさせます。
ホーン系のサウンドを多用したギラギラしたサウンド。
ゼロ年代の空気感をそのまま現代に引き連れてくるようで、首都圏は異なる発展を遂げている関西発バンドだからこその正統進化系。
これで気になったというリスナーもいるのでは。


4. 鬼サンコチラ手ノ鳴ル方ヘ / メリーバッドエンド

様々な方向から話題を振りまくメリーバッドエンド。
"目隠し鬼"をテーマに、疾走感のある和風ロックに仕上げています。
安定した演奏に、艶のあるVo.ロキさんの歌唱。
新進気鋭のバンドながら、安心して聴くことができる一方で、世界観やサウンドのギミックなどにはいつもハラハラとさせられる。
元ネタそのままで歌われる"鬼サンコチラ手ノ鳴ル方ヘ"というフレーズが、オリジナルとして昇華されて聴こえるから面白いですな。


5. 人魚姫 / FoLLoW

アグレッシブな演奏で攻め立てるバンドが多い中、ここにきて、美しいメロディを押し出すミディアムナンバーを持ってきたFoLLoW。
それだけで、インパクトがひとつ増すようです。
幻想的で、切なく儚い。
終盤にテンポアップするのもツボ。
こういう清涼感がある楽曲で突っ込んでいけるバンドは貴重ですよ。


6. I cherish you / グラムヘイズ

Vo. SaToRuさんの優しく甘い歌声を活かした歌モノ。
鍵盤の音色がキラキラと味付けをして、ロマンティックに仕上げました。
ファルセットを駆使したメロディラインは浮遊感があって、心地良い。
FoLLoWの後で少し印象が薄まってしまった部分があるのはもったいないな。
ここぞ、というタイミングで登場出来れば、もっと効果的だったのですけれどね。


7. 情けない男のテーマ / ザアザア

意外性があって、らしくもあって。
オムニバスだからこそ、ここまではっちゃけることができた、といったところなのでしょうか。
タイトルも歌詞もふざけているようなのだが、作り込んであるサウンドは本気という。
"仕事がない。貯金もない。嫁は逃げた。頭はげた。"
こんな歌詞を絶叫して、格好良いとすら思えるのだからズルいですよ。
世界観が薄いバンドと誤解されないといいのだけれど。


8. Nameless / KAVKA

2016年に結成されたばかりのKAVKA。
他の参加バンドに比べて実績はありませんが、先入観がないからこそインパクトを出しやすい部分はあるのかも。
打ち込みを多用して情報量が多いサウンドを実現しているのだけれど、軸としてはメロディ重視なのだろうか。
サビでの爆発力もあり、力を入れてきたのがよくわかる楽曲。
この発掘したぞ、という感覚こそ、オムニバスを聴く醍醐味だったりするのです。


9. 融愛 / DEVIZE

激しさと静寂の対比を意識した楽曲とのこと。
デスヴォイスを駆使しながら、序盤はズタズタとまくし立て、サビになるとテンポを落ち着かせてメロディアスに。
言ってしまえば、バリバリの王道なのだけれど、本作においては誰も手を付けていなかった路線。
アクセントとして効いているのも事実です。
ハードに振り切った楽曲も聴いてみたいと思わせる1曲。


10. Dancing rendez-vous!! / ASTARIA

"名古屋系ネオ・ポップロック"をコンセプトにしたASTARIA。
90年代ダンスポップのようなキャッチーなサビは、インパクトが絶大でした。
V系シーンにありそうでなかった音楽性。
ロック色が強いバンドを好むリスナー層にはチャラチャラしたサウンドに映るのかもしれませんが、本当にチャラチャラしていたら、こんなサウンドには行き着かないでしょう。
とにかくニッチですが、一回聴けば覚えることができ、その場ですぐに盛り上がれるという楽曲スタイルは、ハマれば強そうですね。
個人的には、掘り出し物だったな、と。


11. 愛してください / Deviloof

暴虐性を極め、"最凶最速"を掲げるDeviloof。
ただし、この楽曲については、V系を彼らなりに解釈した新たなチャレンジとのこと。
凶悪なサウンドは維持されているので、彼らの個性は伝わるとは思うのだが、どうせだったら歩み寄るのではなく、突き放す方向で攻めてきてほしかったかなぁ。
もっとも、それでもこの邪悪で歪な"アイシテクダサイ"の連呼は、耳に残って癖になる。
そこはかとなく漂うアングラ感が、妙にリスナーを引き付けていました。


12. RAIN / Rides In ReVellion

正統派の耽美メタルバンド、Rides In ReVellion。
クラシカルなギミックを散りばめつつ、重さ、速さを意識した楽曲構成。
キャッチーなサビはベタすぎるくらいで、ドラマティックに場面を切り替えていくギターのフレーズも効いていますよ。
特に間奏のギターソロは、いかにも、といったところで、古き良きを知るリスナーにはたまりません。
展開が多いながらも、全体的には4分半にまとめ、ダレることなく聴き切れることも重要ですな。


13. トラウマ / SHIVA

Rides In ReVellionとは、また異なるタイプのクラシカルさを持つのがSHIVA。
こちらは、コテコテのヴィジュアルロックを出自としていそう。
Vo.TOKIYAさんの歌声は、少し荒っぽく激情的ですね。
メロディパートよりもシャウトやパフォーマンスで仕掛けていくボーカリストなのかしら。
教会的、神秘的なコーラスで神々しさを纏う中、ギャップを作る彼のハマり具合が鍵を握る。
まだまだ粗削りの域を出ないが、トリということで半強制的に注目を集めたことを、飛躍のきっかけにしたいところです。


相変わらず、クオリティは高い。
この規模のバンドが集まって、ほとんどが新曲。
そうでない場合も、リミックスバージョンなどを収録しているという豪華さは、現代のオムニバスシリーズの中では断トツで良質と言えます。

気になるのは、収録バンドの被り方であろう。
3作目で、早くも半数近くが2回目以上の参加という状況なのですよ。
地域性を絞りすぎて、いつも同じメンツでの企画になっては本末転倒。
発掘という魅力が薄まり、リスナーが固定化してしまう理由になってしまいそう。

このレベルの作品が定期的にドロップされるのは本当にありがたいのだけれど、新鮮さの観点から、参加バンドもちゃんと入れ替わっていてほしい。
そろそろ縛りを緩めるなり、工夫しないといけないフェーズになってきましたかね。