大きな木の下で / 美流沙女 | 安眠妨害水族館

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大きな木の下で/美流沙女

¥2,160
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1. 深・霧・森
2. セルロイド~防衛本能~
3. 全ての迷える子供達へ
4. ラビリンス
5. 木漏れ陽の下で
6. スウィートロマンス

Ba.沙羅さんの脱退以降、活動が停止している美流沙女。
本作は、2002年にリリースされた実質的に最後の作品となっているミニアルバムです。
自主レーベルからの発売だったため、流通量が限られていましたが、2009年に再発されていますので、そこまで手に入れにくい作品ではありません。

新曲4曲、再録曲1曲、SE1曲という構成。
特徴的なのは、「ラビリンス」、「スウィートロマンス」といった、横文字タイトルが並んでいるところでしょう。

彼らのコンセプトは、"和"。
着物をベースにした衣装に、和風のモチーフを多用した楽曲は、当時のシーンでは個性的でした。
そのため、楽曲のタイトルも日本語が主軸になるわけですが、本作では、意図的にそこから脱却するようなアプローチも見られ、ロック色を強めてきたことが、こういうところにも現れています。

SEを経て、「セルロイド~防衛本能~」は、疾走ロック。
霧がかかったような和風ホラーな雰囲気は薄れ、ザクザクとしたバンドサウンドが、攻撃的に迫る。
ただし、メロディについては、美流沙女節といったところで、Vo.美鈴さんのハスキーボイスを活かした歌いまわしは相変わらず。
「全ての迷える子供達へ」では、ダークでじっとりした雰囲気を纏っていて、サウンドの変化に唐突感が出ないように、バランスがとられています。

「ラビリンス」は、その中間的な楽曲か。
軽快なリズムには、ロックテイストが強いのだけれど、じとっとした湿度の高さがあり、必ずしも初期の方向性とは同じではないものの、なんだかんだで、どことなく和風な感覚は消えないのだよなぁ。

「木漏れ陽の下で」は、アルバムタイトルとの関連性があるリードトラックとなるのでしょうか。
序盤は淡々と進行していきますが、サビになると、メジャー感が出て盛り上がる。
コーラスワークも使われ、それまでの彼らにはなかったようなタイプの楽曲に仕上がった。
切なくも、優しい、ミディアムバラード。
最後の「スウィートロマンス」は、一体どういうアプローチなのかと想像もつかなかったのですが、ジャジーでアダルティーなナンバーに。
さすがに、ポップに振り切るようなことはしませんでしたな。
彼らの良さを残しつつも、新境地に挑戦したのが、後半2曲ということなのかと。

所属したレーベルの解体、お洒落系世代の台頭等、とりまく環境が変わってきた中での作品。
時代に合わせていこうとする変化も見られる中で、帰るべき軸がはっきりしているからか、安定感が高い。
初期からのファンは、変化に戸惑いがあったのも事実でしょうが、総合的に見たときに、ハズレが少ないバンドという評価は揺るがないのかな、と思います。

明確な解散宣言がないだけに、10年以上音沙汰がなくても、復活を待ちたくなるバンドである。
作品としても、最後という悲壮感はなく、続きがあることを前提にしているような雰囲気。
昨今の再結成ブームに乗じて、どうか次回作を聴けたりしないだろうか、と切に願っています。

<過去の美流沙女に関するレビュー>
約束
美流沙女