regret~消え行く旋律、貌変える詩は夢幻の余韻~ / Annabyss Coast | 安眠妨害水族館

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regret~消え行く旋律、貌変える詩は夢幻の余韻~/Annabyss Coast


1. altar garden
2. 懺咲-zanzaku-
3. alice in thorny maze
4. satanism
5. バフォメット
6. Corpse blind
7. 紙風船
8. uneasiness
9. 咎送り-ritual to bury mourning-
10. ordinary
11. tonight good-night
12. to Birdcage
13. 閃光のヴァージ
14. マリンブルー
15. グライド
16. Ⅻ
17. daemon’s pulse
18. 奈落の鵬
19. 太陽の祈り子 (instrumental ver.)
20. 水の中で見つめる夢 (8bit arrange ver.)

残念ながら、メンバーの脱退により無期限活動休止となってしまったAnnabyss Coast。
本作は、活動休止前のラストライブで配布されたデモ音源集です。

未発表曲、SE等で使われたインストゥルメンタルを含む20曲。
流れてしまった音源制作もあり、これを世に発表できないのはもったいないということで、簡易版デモ音源として急遽発表されたもの。
九州を拠点に活動しているバンドでしたので、それ以外の地域のファンには入手が難しいと思っていたところ、既に受付期間は修了してしまっているものの、郵送での配布も行ってくれて、ありがたい限りでした。

さて、中身についてですが、配布にしてしまっていいのかよ、というボリューム感。
SEを抜いても、フルアルバムサイズの楽曲数があり、そのSEにしたって、きちんと形になったもの。
ドロップの経緯を勘案すれば、コンセプトを定めて選曲をしたわけではないと思われるのですが、クッション的な位置づけでSEが加わることによって、それなりに流れも良くなっていますね。

ブリブリとしたベースからスタートするメロディアスなナンバー、「懺咲-zanzaku-」から勢いを出していく。
ほんのり宗教的な雰囲気を与えつつ、ヴィジュアル系のサウンドメイクに徹しているのが好印象で、これはなかなかのキラーチューンです。
ダーク要素を強める「alice in thorny maze」、ゴリゴリとしたヘヴィーさを重視した「バフォメット」と、魅せ方を変えながらも、Annabyss Coastの持つ異国的な世界観を激しいサウンドに落とし込むアプローチを続け、序盤を聴いただけでも、インパクトは十分。

再び王道風の楽曲である「Corpse blind」で、盛り上がりをピークに持ってくると、浮遊感を意識した「紙風船」、「咎送り-ritual to bury mourning-」といったミディアムナンバーを固めます。
ここは、音楽的にはアクセントをつけるパートなのでしょうが、世界観にじっくり浸らせるという意味でも効いている。
アコースティックサウンドをメインとした「ordinary」まで、とにかく"濃さ"を感じさせるのですよ。

「tonight good-night」はシンプルなロックチューン。
ソフトヴィジュアル的な楽曲だな、と思わせると、「閃光のヴァージ」では、煌びやかで、少し変態的なメロディを聴かせる真逆のアプローチ。
同じ"疾走系ナンバー"に括られるような楽曲でも、アレンジによってイメージがこうも変わるのだから面白い。
「tonight good-night」が90年代後半だとすれば、「閃光のヴァージ」は、00年代中盤的の王道といった印象を受けました。

「マリンブルー」は、幻想的な白系ナンバー。
こういう音楽もできるのか、と驚かされます。
言葉だけで書いていると、節操なく色々な楽曲を取り入れているように見えてしまうかもしれませんが、Annabyss Coastというフィルターを通しているからか、あまり雑多でごちゃごちゃということにはなっていない。

実は、構成力にも強みがあるということなのでしょうね。


その後は、ポップ色を強め、爽やかな風が吹く「グライド」、一転してデスヴォイスを多用し激しくまくしたてる「Ⅻ」と続く。
「Ⅻ」は、本作の中でもやや浮いている楽曲なのですが、それを、もっとも対極にある「グライド」と繋げたところに、意図的なあざとさを感じるな。
お互いの楽曲の個性がもっとも際立つ、絶妙な配置です。

最後のインスト2曲は、ボーナストラック的な位置づけということで、実質的な本編のラストは、「奈落の鵬」。
正式音源だっても、アルバムを締めくくるにはこの曲しかなかったであろうという、壮大なワルツ。
光と闇、その両方を感じ取れ、彼らの世界観の集大成となるのではなかろうか。

さすがに、20曲ともなると、通して聴くのには疲れてしまう点は否めない。
音質にもバラつきがあり、流れの良さにこだわったとしても、それで問題なし、とは言えないのも本音です。

ただし、これを、シングル、ミニアルバム、フルアルバム等に分解して、きちんとした制作環境で完成させることができていたら、と想像すると、ゾッとする。
間違いなく、名盤の2、3枚は出来上がる。
そのくらい、パワーのある楽曲が、正式音源にならないままで葬られてしまうというのは、本当にもったいない。
「水の中で見つめる夢」なんて、8bitバージョンにまでハマってしまっているわけで。

とりあえず、デモ音源集という形であっても、その楽曲たちの痕跡を残してくれたことに感謝。
いつか、この原石たちを、輝かしい宝石に変えて復活してくれることを期待しましょう。

<過去のAnnabyss Coastに関するレビュー>
双対のカレント