双対のカレント / Annabyss Coast | 安眠妨害水族館

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双対のカレント/Annabyss Coast
¥1,500
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1. 回帰 
2. サキエル
3. 鳥籠
4. coincide with silence
5. float~葬送の鎮魂歌~
6. 契り詩
7. 水の中で見つめる夢
8. a ripple

福岡バンド、Annabyss Coastの1stミニアルバム。
過去のリリース音源等の再録を中心とした全8曲。
最初と最後はSEですが、しっかりした内容なので、これで1,500円なら安いのではないかと。

浅瀬の風と感じる現実。深部の水圧と忘れる現実。
双方に感じるベクトルの違う息苦しさと双方に存在する美しき世界。

そんな二面性をコンセプトに、活動しているようです。
メタル、ラウドといった、硬派なサウンドをベースにしつつ、ゴリゴリと畳み掛ける部分と、繊細な表現の世界にのめり込む部分との使い分けが絶妙。
エフェクトや打ち込みも、アクセントとして上手に用いていて、世界観を引き立てている。
激しいようで、メロディアスでもあり、ナイーブなようで、力強さもあり。
九州では、こんなバンドが育っていたのか。

地方シーンでは、首都圏バンドの流行とは違ったアプローチが主流になることも多い。
都内では、とうの昔に廃れてしまったはずの音楽や文化が、地方に行くと、しれっと残っていたりするという場面もあるでしょう。
彼らの場合、世界観の演出への意識の強さを持ったまま、現代風のメタル、ラウドの音楽に傾向したことで、なんとも不思議な聴き心地を持つ、稀有なバンドになっていったと考えられる。
白さも黒さも纏っていて、聴き込みたくなる楽曲ばかりです。

その中でも、このAnnabyss Coastは、歌メロの乗せ方が抜群に上手いなぁ、と。
シンプルすぎず、難解すぎず、キャッチーとマニアックの隙間を突いてくるような。
表現込みで歌われているという要因はあるにしても、ドラマティックな楽曲に映えるよう、工夫されているような気がします。
決してストレートではないのだけれど、耳馴染みが良いのですよね。

「契り詩」が、集大成的な楽曲かな。
ダークなギターリフと、透明なメロディラインが混ざり合って、混沌とした雰囲気が出ている。
展開が多い組曲的な構成も、彼らのスタイルにはハマっています。
好きな曲という意味では、シャウトも取り入れ、ハードさに振れた「サキエル」や、三拍子で進行する、白さを際立たせた「float~葬送の鎮魂歌~」も捨てがたい。

強いて言うなら、これらの楽曲を踏まえたうえで、王道的なキラーチューンがあっても良かったでしょうか。
シングルが多い中でも、アルバムとしてまとめっており、今のままでも、十分に男受けはしそうなのだけれど、地方バンドから、全国区にレベルアップするには、名詞代わりの代表曲も求めたいところ。
最近、元気がなかった地方シーンを盛り上げるバンドとして、どうかこのまま飛躍してほしいものですな。