狂死楽園 / Madeth gray'll | 安眠妨害水族館

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狂死楽園/Madeth gray'll

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1. 楽園の黒霧
2. 呪ワレシ華ノ生命
3. missantroop
4. 黒装束ノ調べ
5. 狂死曲
6. 狂死楽園

1998年にリリースされた、マディスグレイルのデモテープ。
1stプレスの4000本を予約完売させており、現代だったら、鳴り物入りでメジャーデビューできるレベルの売り上げですよね。
本当に、良い時代だったんだな。

1曲目と6曲目は、語りが重なるSEで、歌入りの楽曲は4曲。
うち3曲は、1曲入りのデモテープ三部作に収録されていたものですので、実質的には完売集というイメージです。
「狂死曲」は、完全盤としては、これが初収録となるのでしょうか。
配布音源でショートバージョンが発表されていたので、新曲とも言いにくいのだけれど。

何度も同じ楽曲で音源を作っていく手法は、当時のMatinaバンドならではといったところ。
本作に収録されたナンバーでさえも、SEを除き、後にCDで再録されますので、初期の作品は、本当にコレクターズアイテムになってしまいました。
「呪ワレシ華ノ生命」のCD音源だけは入手難易度が高いと思われますが、そのほかは、ベストアルバムを聴いておけば、おさらいが可能。
楽曲の網羅を目的にするのなら、わざわざCT媒体である本作を手に入れる必要はありません。

しかしながら、それでも紹介したいのは、ここにマディスの初期衝動が詰まっていると言っても過言ではないから。
演奏は上手くないし、歌についても、音程が取れないならシャウトで誤魔化す。
そのうえ、CTですから、音質なんて期待できるはずもありません。
所謂、ジャリバンドのテンプレート。

それでも、彼らがこれだけ注目を集めたのは、世界観への徹底した挑戦。
猟奇的で、倒錯的な耽美。
表現したい世界観を、いかに自らの拙いレベルでもそれっぽく見せることができるか、ということだけに特化して、試行錯誤を続けた結果に辿り着いたアプローチの数々が、純粋に衝撃を与えたのです。

クラシカルなフレーズに、不協和音が混ざる独特のギターに、悲劇を語るドロドロしたメロディ、グロテスクなシャウトなど、技術的に未熟な部分を、むしろ"表現のための気持ち悪さ"という強みに変えてしまった。
ドラムは打ち込みでスカスカだし、シャウトも、その後に比べれば音圧が足りないのだけれど、なんだかんだで惹かれてしまう。
そう魅せられたキッズは少なくはなく、シーン全体に与えた影響という意味でも、インディーズバンドとしては、かなり大きかったのではないかと。

個人的には、歌メロが立った本作のシンプルなアレンジも、その後の仰々しさを増した再録バージョンよりも好きだったり。
耽美でクラシカルな「呪ワレシ華ノ生命」、メロディアスな歌モノである「missantroop」、ドロドロダークの「黒装束ノ調べ」と続いて、「狂死曲」は、正当派の発狂系。
代表曲が揃っているだけに、聴きごたえがあります。
何度聴いても、「missantroop」は、名曲だよなぁ。

15年も前の作品なのに、未だに聴きたくなる作品。
実は、CD作品よりも、聴き返す回数は多いかもしれません。
現代のV系ファンに、おススメできるバンドではないというのは、明記しておきたいと思いますが、ダーク系コテコテバンドの一大ムーブメントを作り出した、表には出てこないV系史の聖書となりうる1本。

<過去のMadeth gray'llに関するレビュー>
亡界ノ魔都 ~Entith de marge~
Lucifer ~魔境に映る呪われた罪人達と生命の終焉~