証明、終わり。 / 蒼井春 | 安眠妨害水族館

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証明、終わり。/蒼井春
 

1.qp
2.on D
3.やみ
4.オーヴァー・ドーズ
5.ワレモノ

マイナス人生オーケストラのボーカリスト、ハルさんのソロ・ミニアルバム。
会場限定での販売です。

蒼井春名義での活動は、基本的にインストがメイン。
本作も、過去に発表しているミニアルバム同様、インスト4曲、歌モノを1曲という構成です。
1枚1,000円ということで、良心的な価格設定ではありますが、インストに興味が持てないという方は、その辺を踏まえて、購入を検討したほうがよいでしょう。

もっとも、インストと言っても、ダークバンドが曲数の水増しで挿入しているような、とってつけたサウンドのパッケージではないことは記しておきます。
ピコピコ系の打ち込みによる音作りではありますが、スリリングだったり、穏やかだったり、バランスのとれた曲運び。
オルゴール風の淡々としたサウンドだけで構成された「やみ」なんかは、音数こそ少なく、予告編的なイメージを与えるのですが、なぞっているメロディは美しく、ここから広げて歌モノを完成させることができそうなくらいです。

良くも悪くも、未完成なのだろうな。
今このタイミングで浮かんだのであろうアイディアを、一旦、とにかく形にしてみたといったところ。
あれこれ詰め込む前の、原石がここにある。
まだ足りないのだけれど、イマジネーションが広がっていきます。

さて、その中で、一際高いクオリティを放っているのが、唯一の歌モノナンバーである「オーヴァー・ドーズ」。
メインのバンドであるマイナス人生オーケストラとしてリリースされた人間の証明」。
これに収録された「虫人間ひかる」の続編となる、所謂アンサーソングとして作成された楽曲なのです。

精神的な重さのある「虫人間ひかる」に対して、陽気でポップで、楽しげに展開される「オーヴァー・ドーズ」は、さらっと聴いただけでは、続き物かどうかはわからない。
しかしながら、歌詞を追いながら聴いていくと、ラストのオチで理解することができるストーリーには、ブラックさを孕みつつも、切ない人間の心理を歌った彼らしいセンスが隠されています。
生と死。 正解と不正解。
登場人物が、幸福なのか不幸なのかは、すべてリスナーの耳と感性に任されていて、道徳の教科書のような奥深さを感じずにはいられません。

本作には歌詞カードがついていないため、言葉のひとつひとつは、すべて耳から取得することになる。
インスト中心の構成であることにより、聴覚が研ぎ澄まされ、その結果、クライマックスに待っている歌モノに、どっぷりと浸かっていくことができると考えるのは、ちょっと深読みしすぎでしょうか。
どうしても歌詞を目で読みたいという人は、ハルさんがブログ内で歌詞を公開しているので、そちらを覗いてみるのがよいかと思います。