UPPER REGION / 砂月 | 安眠妨害水族館

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UPPER REGION/砂月
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1. AWAKE (UPPER REGION Ver.)

2. 粒子に溶けて流れる涙と眩暈の葬に乱反射する再生の声

3. MOON SPIRAL (ENGLISH Ensemble)

4. Veil of MARIA (UPPER REGION Ver.)

5. Horizon

6. CRYSTAL (UPPER REGION Ver.)

13.シークレットトラック


ex-RENTRER EN SOIの砂月さんによる、ソロワークス。

Storyシリーズと呼ばれる3部作で構成された作品群を経て、活動1周年の集大成としてリリースされた1stミニアルバムです。


砂月さんの在籍していたRENTRER EN SOIは、プロデューサーの紫さんの影響か、BAISERよりの耽美コテからスタートし、初期ラルク風の白系雰囲気モノ、シャウトを多用するニューメタル、スタイリッシュな王道メロディアスと、次々と音楽性を変化させていったバンド。

音源を出すたびに、印象が違っていたため、ともすれば、リエントっぽさなんて存在しないとすら言えるはずなのですが、多くの人が思い浮かべるリエントらしい音楽、それは、「Sphire-Croid」を出したころの、真っ白なサウンドではないでしょうか。


それは何故か。

Vo.砂月さんの透明感、浮遊感のある声質が、何よりも印象的だったからだと思います。


リエント解散後も、表現を追求していった砂月さん。

雰囲気モノの難点は、突き詰めるがあまり、キャッチーさを失ってしまい、難解な自己満足サウンドに陥ってしまうリスクが極めて高いこと。

本作は、そのリスクへ果敢にも挑戦し、結果として、独特の世界観を描ききったと言えるでしょう。


楽曲のタイプは様々ではありますが、そこに、砂月さんの声という唯一無二の武器が重なることで、1本の光の道筋が紡がれていくよう。

リエント時代は、無理にダークさ、激しさを出そうとしていた部分もあってか、気負った強引な歌い方も見られたのですが、本作では、透明感に特化して歌声を選んでいます。

高音が滑らかに、優しく歌えるようになっていたり、当時からの成長もうかがえますね。

完全なる雰囲気モノの「粒子に溶けて流れる涙と眩暈の葬に乱反射する再生の声」や、まるで女性コーラスが歌っているように、高音のゆるやかなフレーズが続く「Veil of MARIA」など、中途半端に手を出すと痛い目を見るような楽曲で、しっかりと存在感を出している。

感情を歌に込めるだけでなく、感情を胸にしまい込み、凛として歌うアプローチを身に着けたと言えるでしょうか。


特に効果的だったのは、バンドサウンドに拘らない、ソロプロジェクトだからこそ可能になった、アレンジの幅。

ピアノ、バイオリンなど、通常のバンド編成ではメインにならないような楽器が、ソロパートを担当していたり、叙情的なアコースティックギターが、雰囲気を盛り上げたり、自由ではあるのだけれど、雑多にはならない絶妙なバランスで、音が詰め込まれている。

メロディだけだと、ほんのり初期ラルクっぽさを感じますが、こういった音使いが独特であるため、オリジナルとして昇華できているなと感じます。


上手いのは、導入の「AWAKE」と、本編ラストの「CRYSTAL」が、とてもメロディアスでキャッチーであること。

世界観路線だけでなく、こういった聴きやすく、風に吹かれるような清々しい楽曲が、耳に残るポイントで入っていることで、アルバムとしても引き締まります。

お互いが、お互いの長所を際立たせるために存在しているようで、これ以上ない構成。

ちょっと、爽やかに終わりすぎたな、という後味を、シークレットトラックとして挿入されているオルゴールのインストが薄めているのも、意図的ではないにしても、効いています。

歌モノとしては、キャッチーに終わるのだけれど、世界観としては、幻想的に幕を閉じるのですよ。


こういう音楽が評価されるようになると、ヴィジュアル系も捨てたものじゃないですね。

英語の発音や、ピッチについては、もう少し改善の余地はありそうですが、これはなかなかクオリティが高い。


一方、DVD付きとはいえ、再録曲が中心の本作が、フルアルバム並の価格。これまた、高い(笑)

Storyシリーズにしてもそうですが、価格設定が、敷居を高くしているようでもったいないなぁ。


KISAKIプロジェクトの、二代目ボーカルにも抜擢され、今後の活動も楽しみな砂月さん。

ジュイさんの後任ということで、プレッシャーもあるでしょうが、強みとなる部分も違いますので、澄んだ声を武器に、頑張ってほしいものです。