立春/SCARE CROW | 安眠妨害水族館

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立春/SCARE CROW
安眠妨害水族館-scarecrow

1. 詩箋の上の日本猫
2. きいろ結え
3. ニダイ
4. 鳴り行く雨
5. 籠
6. 陽時計と日々記
7. 美娼

万人受けはしないであろうが、それでも語りたくなる。
1994年にリリースされた、SCARE CROWのミニアルバム。

プログレッシブな楽曲構成と、曲名からも伝わる日本文学的な言葉の響き。
彼らの音楽性は、独特としか言いようがないのですよ。
デジタル音とバンドサウンドの融合であれば、比較的良くあるパターンと言えるのでしょうが、もうひとつ飛び越えて、効果音的な風鈴の音や、雑踏の音までもを上手に昇華。
とりまく空気すら楽器にしてしまうような世界観の構築には、圧倒されるほかありません。

転調や変拍子は当たり前、どこが曲と曲の切れ目なのかもわからない、組曲のような様式美。
難解な音楽でありながら、それでも心地よいから不思議なものだ。
インスト曲も2曲ほど収録されていますが、彼らの音楽性からすれば、歌が入っているかどうかなんて些細な事。
落差なく、流れの中で聞けてしまうのです。

誤解をしないでいただきたいのは、Vo.いずみさんの存在感も十分にあるバンドであるということ。
演奏が穏やかな面を見せているときには、繊細で美しい声色を、激しい展開のときは、内に秘めた狂気を爆発させたようなパワーのある轟音を、まるで季節の変化に合わせて色を変える山林の木々のように使い分けている。
きちんとした歌詞は掲載されていませんが、文学的な詩世界も、これを引き立てています。

一度聴いただけでは、到底理解できないであろう底の深さ。
密度の濃い世界観、作り込まれた雰囲気は、15年経ってもなお、他の追随を許していない。
高尚な音楽にハマれるかどうかの個人差はあるでしょうが、テクニカルな演奏や表現レベルの高さは誰もが認めるところかと。

1曲1曲の演奏時間は短めですので、通して聴いても時間としてはあっという間。
ただし、この濃密な世界観によって、ボリュームはたっぷりと感じられる。
とにかく難解。
だけど、とても美しい。
耳を澄ませば日本の四季がそこに浮かび上がる、まさに玄人向けの1枚。