「ゆきめぐり あふを松浦の鏡には 誰をかけつつ祈るとか知る」
(遠い土地を巡り、再会を待つ私ですが、私は松浦の鏡に、誰のことを思って祈るのか、知っていますか。貴方との再会を祈っています)
『光る君へ』の第24回で、まひろに届いた手紙にあった親友「さわ」の歌です。まひろは、さわが肥前で亡くなったことを知り、「この歌を大切にします」と語っていました。
実際、この歌は、「紫式部集」に筑紫にいる友人との贈答歌として遺されています。松浦というのは、佐賀県唐津市にある「鏡神社」のことで、古くから土地の大社として尊崇されている神社です。
紫式部が越前から送った、
「あひ見むと思ふこころはまつらなる 鏡の神や空に見るらむ
(会いたいと思う心は、松浦にある鏡の神が空から見ているでしょう)
という歌に対して、翌年に届いたのが、冒頭の歌です。
さわの歌を大切にするといった言葉通りに、まひろは後々、自分の歌集に遺したという流れが想定されていますね。
また、「松浦の鏡神社」は、『源氏物語』の中半「玉鬘」の帖でも舞台になっており、玉鬘という大変美しい女性への求婚歌として、「君にもし心たがはば松浦なる鏡の神にかけてちかはむ」(君に対して、もし心変わりをしたならば、どんな神罰でも受けると、松浦の鏡の神にかけて誓いましょう)という歌が記されています。
まひろとさわとの歌の贈答が、その後の『源氏物語』の玉鬘の帖の創作の下敷きになっていったというこっそりとした仕掛けですね。
引用される歌、とても楽しみです。
今後、間違いなく、定子や一条天皇の切ない歌が語られるだろうなあ。
(かすかにネタバレですが、ぜひ、楽しみにしてください。)