私たちsakaguraは絵本専門士2人のユニットです。働く大人にも絵本を届けたいと願い、活動しています。はじめましての方は、こちらをご覧ください音譜

 

 

 

前回のブックレビューでお届けしたのは、新美南吉原作の「手ぶくろを買いに」。

 

人の世界と狐の世界が交差する温かな物語でした。

 

図書館で絵本を見ていたら、同じく新美南吉さん原作の素敵な絵本を見つけたので、次はこれをご紹介しようと決めました。

 

冬から春へとめぐる季節をとりあげているのも、今の季節にぴったりかなおねがい

 

2019年に出版された絵本です。

 

 

「2ひきのかえる」

にいみなんきち 作 しまだ・しほ 絵

理論社 2019年

 

 

 

 

みどりのカエルときいろのカエルが出会います。

 

「やあ、きみは きいろだね。

 きたない いろだ。」

 

とみどりのカエルが言い出して、二人は喧嘩を始めます。

 

画面いっぱいに繰り広げられる2匹の喧嘩。

 

躍動感と臨場感に満ちています。

 

そのとき、一陣の風が吹き、2匹は冬が来ることを思い出します。

 

これまでベージュだった画面が黒に変わり、白く冷たい風の前に、2匹は小さく無力な存在であることが表現されています。

 

2匹は喧嘩を中断して冬眠に入ります。

 

冷たい冬。

 

そしてようやくやってきた春。

 

目を覚ました2匹の喧嘩の行方はいかに・・・

 

 

 

 

 

出版元の理論社の解説によれば、このお話は、昭和10年、日本が戦争にむかっていたころ、21歳の南吉が書いた「なかなおり」の話だそうです。

 

2匹は仲直りして、物語は

 

「よく ねむったあとでは、

 にんげんでも かえるでも、

 きげんが よくなるものであります。」

 

という言葉で締められます。

 

声高に何かを主張するのではなく、カエルの喧嘩というテーマで、平易な言葉で穏やかに綴っているからこそ、深く沁み入るものがあります。

 

 

 

 

 

工夫がこらされた、しまだ・しほさんの絵は強く惹きつけられるものがありました。

 

2匹のカエルを間近から描いた喧嘩の場面から、冬と春の情景を描いた遠景への構図の変化など、場面転換の巧みさ。

 

白黒グレーの冷たい冬とやさしいパステルカラーの暖かな春の色彩の対比。

 

たんぽぽ、オオイヌフグリなど花に注ぐ眼差しの優しさ、カエルが泳ぐときの光と水の煌めきなど、文章では描かれていない部分まで豊かに描く表現の広がり。

 

文章が語り絵が語る、絵本ならではの表現の厚みを感じました。

 

 

 

 

 

やさしい表現を使いながら深く心に響く、大人にも子どもにもオススメしたい一冊です。

 

新美南吉については、こちらの記事をご覧ください。

 

しまだ・しほさんは、1967年生まれ。「にょき・にょき」「海のやくそく」などたくさんの絵本で活躍されています。