私たちsakaguraは絵本専門士2人のユニットです。
日々、働く大人にも絵本を届けたいと願い、活動をしています。
「やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい」
田島征三
童心社 1993年 1300円
先日sakaguraでは、絵本「あたごの浦」といっしょにSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)についてご紹介しました。この記事とちょうど時期を同じくして、欧州では海洋ゴミを減らすためにストローやお皿など一部の使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する方針がだされました。環境の持続可能性(サステイナビリティ)への動きが、世界的に高まっていることが感じられます。
環境の持続可能性とは、地球の再生能力を超えた消費をしない、つまり、未来の世代が受け取るべきものを犠牲にしないということ。
私たちが仕事をしていく上でも、持続可能性への配慮が従来以上に求められています。
そこで、1993年に出版されたこの絵本。
四半世紀前の本ですが、いまでも古くなっていないなぁと感じ、ご紹介することにしました。
「やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい」というタイトルからして、なんだろう?と思いますよね。「やまからにげてきた」と「ごみをぽいぽい」がなぜ並んで書かれているのでしょう。
絵本を手にとって見ると、おもてうら、ひっくり返してみても、どちらも表紙です。
背を左にしておくと「やまからにげてきた」と横書きになった表紙。「やまからにげてきた」の側から見開き8場面は横書きで、山から動物や鳥や昆虫が逃げてくるようすを描いています。
片側からは「やまからにげてきた」お話が、もう片側からは「ゴミをぽいぽい」するお話が進行し、この二つのストーリーがぶつかる、真ん中の場面には山の中の廃棄物処分場の絵があるという作り!
前から真ん中まで読んで後ろから真ん中まで読んで、その二つがぶつかる真ん中でおしまい、という読み方でも、前から一気に最後のページまで読む、後ろから一気に最後のページまで読むという読み方でも。いずれの読み方でも読むことができます。
田島征三さんは1940年大阪府堺市生まれの絵本作家。同じく絵本作家の兄征彦さんとと一卵性双生児で、主な作品に「しばてん」「ちからたろう」「とべバッタ」などがあり、力強い絵が愛されています。
1969年に東京都西多摩郡日の出村(現日の出町)に移り住みましたが、1989年に日の出町に残る美しい谷間が巨大ゴミ処分場計画候補地になっていることを知り、反対運動を起こし、その活動を通じて森の植物や小動物との連帯を強く感じ、インスピレーションを得たとのこと。
「やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい」は、自然破壊について特定の誰かを責めるのではなく、私たち一人ひとりの消費行動が自然破壊とつながっていることがわかりやすく表現されています。そして山を追われる動物や昆虫の必死さや悲しみが、人間の感情と同じように濃密に、絵と手書きの文字から伝わってきます。いままさに課題となっている環境の持続可能性に取り組んでいく際に大切なことを、おとなにもこどもにも伝えようとしている絵本だと感じます。
この本のお話が昔話になってしまうくらい、環境と調和した社会の仕組みを作り上げる。そこに向けて、働くわたしたちは、仕事を通して自分なりになんらかの役割を果たしていきたいとも思いました。
なお、新潟県十日町市の鉢集落には「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」という絵本美術館があるそうです。そのホームページには「美術館は丸ごと、絵本作家の田島征三さんが長年思い描いてきた空間絵本です」と書かれています。空間絵本の美術館ってどんなでしょう。いつか訪れてみたいです
参考:http://ehontokinomi-museum.jp/
(最終確認日 2018年7月3日)