「あたごの浦」脇 和子・脇 明子再話 大道あや絵 福音館書店 1984年 定価900円

 

 

絵本専門士2人のユニット、sakaguraです。働く大人にもぜひ絵本を届けたいと願い、活動をしています。

 

 

唐突ですが、「SDGs(エスディージーズ)」という言葉を知っていますか?

2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にある国際目標で、17の分野別目標と169のターゲット(達成基準)が示されています。

 

「持続可能な開発?アジェンダ?」

何だかとても難しそうな感じがしますが、

これまで紹介してきた絵本の中にそのヒントがたくさん詰まっているような気がして、

sakaguraでは、SDGsをテーマとした絵本のワークショップをやってみたい!と計画を立てたりしています。

ライバルは推進大使のピコ太郎です(笑)

 

前置きが長くなりましたが…、SDGsの中には「海の豊かさを守ろう」という目標があります。

そういえば、ブックレビューの中に「海」の絵本があまりなかったなあということで、海を感じる絵本を。

 

 

「あたごの浦」は、月のきれいな夜に、たこや鯛、ふぐ…といった海の生きものたちが砂浜にあがってきて、次々に松の木にのぼっては、お日様や月などに自分の姿をみたてて、芸を披露していく。それをみている生きものたちは「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)」とはやしたて、最後には誰もいなくなった砂浜がキラキラと光っている、というとてもシンプルな物語です。

 

作者の脇明子さんによると、

「このお話は、讃岐、つまり香川県の高松の私の家で、曽祖母から祖母へ、母へ、私へと、代々語りつがれてきたものです。曽祖母もまたそれを家に伝わるお話として聞いたのだったか、それともそのころはある程度広く知られた民話ででもあったが、ともかく最近いろんな方にうかがってみたところでは、どなたも御存知ではないとのことです。

 ただ、ひとつ、『高松今昔記』という本に、「掘だめの怪談」と題して、このお話と関係の深そうな言い伝えが出ていました。堀だめというのは、高松の港近くの海辺で、「あたごの浦」の舞台である愛宕神社の裏の浜とはすぐ隣りあわせですが、そこにあった畑の野菜がしきりに盗まれるので、ある人が月夜に見張っていたところ、大だこが海からあがってきて、なすびやかぼちゃをムシャムシャと食べはじめたのだそうです。もっともその人はそれを見て冷水を浴びせられたように思ったという話で、やがて楽しい演奏会がはじまるとは夢にも知らなかったようですから、魚たちが「妙々々々々々」とはやしたてるのを耳にしたのは、また別の人だったのでしょう。・・・」「普及版こどものとも9 あたごの浦 折り込みふろく 絵本のたのしみ(1984-9)」

 

波間をただようかのような、方言のやわらかな響き。月の光に照らされた砂浜で、のんびりとくりひろげられる演芸会。以前「大人のための読み聞かせ」の会で、この絵本を読んでもらったのですが、あまりの気持ち良さにしばらく酩酊状態となりました。

(ちなみに、お酒を飲んでもほとんど酔いません♪)

 

作者の脇明子さんは1948年、香川県生まれのファンタジー研究者であり、翻訳家でもあります。

絵を描いた大道あやさんは1909年広島県に生まれ、60歳から絵を描き始めた画家です。

原爆の図で知られる丸木位里さんを兄に持ち、被爆画家とも呼ばれることもありながら、この絵本では明るく優しい平和そのものといった絵で、海に抱かれる命の豊かさを伝えています。