闘病記⑤ の続き
闘病記(エピローグ?)
ーfrom darkness(闇の中から)ー
数年に及ぶ闘病中、「羞明」という病気の、光を見ると文字通り体が悲鳴を上げてダウンしてしまうという症状のため、光を見れなかった時期が長い事あった。
出来るだけ家の中で過ごし、外に出たとしても下を向いて歩き、症状が酷い時は目を瞑って、人に手を引いてもらった。
少し良くなった頃、一人で散歩をした。
立派な公園なんかじゃ無く、何て事無い駅前の広場。
絵に描いたようなぽかぽか陽気だ。
子連れの人や犬連れの人、カップルたちで賑わっている。
そんな中、僕は一人立ち止まり、空を見上げる。
久しぶりに見つめる空は、思っていたよりもずっと近い。
なんだか、雲が面白い。
どこまでもどこまでも、優しい風景だ。
今度は、植わっている木々を見る。
ひょろひょろと曲線を描きながら空に向かう枝の格好がユニークだ。
まだ出て来たばかりの小さな木の葉たちが、風に吹かれ、ぱらぱらと揺れている。
芸術だ。
動く絵だなんて何て贅沢なんだ、と、僕は思う。
それから、まるで小さな子どもに戻ったかのように、それらに見入る。
何かを失って、何かに気付く事がある。
目を瞑り、人に引かれながら暗闇の中を歩いた時もそうだった。
頬を撫でる風が、あんなにも心に響く事を、それまでの自分は知らなかった。
僕は昔動画で見た、色盲で色が見えなかった人たちが、特殊な眼鏡をかける事で色が分かるようになって、そのあまりの感動に泣いていたのを思い出す。
見える事、色がある事、美しい自然がある事は恵みだ。
盲目の方たちは、今見えている人たちより、天国での楽しみが多い事だろう。
音、味、匂いだってそうだ。
もっと言うと、健康なら一日の中に身体的な苦痛(例えば消化する度に痛みを伴うとか)が無い事が、そもそも恵みなんだ。
あの時の僕はもう一度、空を見上げる。
空の端では、観覧車がゆっくりと回っている。
闘病7年目が、終わろうとしていた。
(※この文章は当時、将来治った事を想像して作ったもの)
『木』
あとがき↓
https://ameblo.jp/saitouyukisaitouyuki/entry-12836985799.html