前回からの続きです。



 




『大宮』にまつわる

「女性神」「神社」についてみてきました。



 

 『大宮神社』に祀られることがある



 ・女性神『アメノウズメ』

 (「天宇受売命」「天鈿女命」などと漢字表記します)



「天岩戸(あめのいわと)神話で

 活躍する神です。



Amaterasu cave.JPG 『wikipedia』より


 また神名に()宮』を持つ女性神



 ・『大宮姫命(おおみやひめのみこと)

 ・『大宮賣神(おおみやめのかみ)

 ・『大宮能売神(おおみやひめのかみ)

 ・『宮比神(みやびのかみ)




これらの神々は


互いに「同じ神」・「別名」であるなど

(例えば「大宮能売」の別名は「アメノウズメ」など)



著しい混乱と混淆がみられます。




私の先祖が暮らした、群馬県高崎市吉井町

(あざ)にある『大宮神社』には


『アメノウズメ』が祀られています。




・群馬県吉井町『大宮神社』
 (群馬県高崎市吉井町池1226)






この吉井町・大宮神社は

由緒も創建年も不詳ですが



地元の人びとに「羊さま」と呼ばれ



吉井町の民間伝承にある謎の豪族

「羊太夫(ひつじだゆう)との関連が窺われ


とても重要だと考えています。



・『羊神社(ひつじじんじゃ)』

 (群馬県安中市野谷1751)

祭神 天児屋根命、多胡羊太夫(藤原宗勝)




この「大宮神社」

祭神「アメノウズメ」について



調べることが、吉井町の歴史の謎を解く

ヒントになると考えています。


 


(個人的な考えとなりますが)


より糸のように絡み合った①と②の女神


この両者を、私は『別神』と考えています。




今回は「この両者が別神である」

ことについて書くにあたり




まず②


 ・『大宮姫命(おおみやひめのみこと)

 ・『大宮賣神(おおみやめのかみ)

 ・『大宮能売神(おおみやひめのかみ)

 ・『宮比神(みやびのかみ)




これら『大宮姫』の実体について

書きたいと思います。






 


妻には、①からじゃなくて②からなの?

と突っ込まれました。この順番の方が理解が

深まると考えていまして


『アメノウズメ』

その子孫が女子を供出して務めさせた


『猿女(さるめ)の君』について


次回以降で書きたいと思います。




 



これらの女性神


「稲」「酒」「織物」「養蚕」など

きわめて多彩な神格を有しており






その実体について



幕末から明治にかけての

国学者、系譜研究家

鈴木真年(すずきまとし)氏は

(その著作『日本事物原始』において)



②の「宮能売神(みやのめのかみ)別名




食物の女神

 『豊受大神(とようけおおかみ)としています。

 

 

宮能売(みやのめ)トハ豊宇気神亦名ニシテ

  稲ノ気ヲ以テヲ醸ル物ナレハ~」

 

(意味)「宮能売神」とは、「豊受大神」の別名であり

   「稲魂」をもってを作る神である~


(『越と出雲の夜明け』

 日本海沿岸地域の創世史 (宝賀寿男)より引用 )





では、(その「宮能売神」と同神とされる)

『豊受大神(とようけおおかみ)とは

どのような神でしょうか。



 

伊勢神宮・外宮(げくう)に祀られる

食物神であり



京都北部の京丹後市に鎮座する

「籠神社(この・こもりじんじゃ)」の奥宮


「真名井神社(まないじんじゃ)」にも祀られ

「稲」の神格(シンボル)化した神とも

いわれます。



『真名井神社・磐座(いわくら)』


Manai-jinja (Kono-jinja okumiya) iwakura.JPG 

『wikipedia』



古代氏族系譜研究者の宝賀寿男氏は

この『豊受大神』のほかに



『大宮能売神(おおみやのめのかみ)

『保食神(うけもちのかみ)

その別名とされる『大宜都比売神(おおげつひめ)

『若宇迦売神(わかうかめ)など




これら似た神格をもつ

「食物神の女神」たちの実体とは



古代に「稲」「養蚕」「織物」などの

技術を携えて、日本列島に来着した





『海神族』の流れを引く人びとによって

奉祭された神々なのではないかと


提唱しています。




つまり②の「大宮姫」系統の神々が

もつ経緯や由緒、例えば




・稲荷神社に御饌津(みけつ)神として祀られる


・養蚕・織物の神など


・日神(アマテラス)に仕える


・君臣の間を取り持つ、宮廷の神格化した姿とされる


 

これらは


 

・作付けが成功してお米がたくさん

 実って欲しい


・良い蚕(かいこ)がたくさん育って

良い絹織物ができて欲しい





 海神族の願いの反映なのでしょう。


(海神族は稲や養蚕技術を携えて、内陸深くまで

良い土地をもとめ入りこんでいました。

長野県の「安曇(あずみ)村」は、海神族安曇氏に

由来します。安曇は葦積(あしつみ)とも)






また




アマテラスに仕えるなど

宮廷にからむ由緒は


 

・初期・大和王権がさかんに海神族の

 女性を妃に迎えた(通婚した)


このような事情も

関係しているのではないでしょうか。





大和王権が盟主としての地位を確立した

要因の一つに海神族の協力があり


神話においてその点は示唆されています。



神武天皇の父は

「鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)」

ですが、その母親は(つまり神武天皇の祖母ですね)


海神の娘・豊玉姫です(竜宮城の乙姫とも…)





※姫は「ワニ」の姿で出産したと言われていますが

 これは海神の本宗的な古代氏族

 「和爾(ワニ)氏を比喩しているのかも

 しれませんね。


 




『豊玉姫神社』

(鹿児島県南九州市知覧町郡16510)



Toyotamahime Shrine honden.JPG 「wikipedia」







海神族の協力なしには大和王権が

成立し得なかった、これは過剰な

表現ではないと思います。



ちなみに


『海神族』『女性神』とは親和性が高い


と考えています。



世界遺産に登録された玄界灘の孤島


宗像(むなかた)・沖ノ島にある

宗像大社・沖津宮(おきつみや)では



・『宗像大社・沖津宮』


宗像大社沖津宮.JPG 『wikipedia』


宗像三女神の一柱

「田心姫神(たごりひめのかみ)


が祀られています。



 

宝賀寿男氏は


「海神族は元来は母神を遠祖神として信仰する

形態をもつ種族であったか。」



このように記します。




さて


そろそろ②の『大宮姫』の実体について

まとめに入りたいのですが

(なかなか一義的な理解はむつかしいのですが)





宝賀寿男氏のいわれるように


 


「スサノオ神の妻となった櫛稲田姫

多くの豊受大神・保食神グループの一員と

みるのが実体にあった理解なのであろう。



この「実体にあった理解」

というのがポイントで





今までみてきた

②の『大宮姫』系統の女神以外に



「食物神」「酒」「養蚕」「織物」を司り

海神族に由来すると思われる女性神が他にも

数多く存在します。




例えば


 


・スサノオの妻『櫛稲田姫(くしなだひめ)

 神名には「稲」の言葉が入り

 「稲玉」の神格を示唆し



『瀬織津姫(せおりつひめ)

 水神とされる一方

 その神名にある「織」の字が

 「織物」の神格を示唆します



そのように考えると

群馬県吉井町にある『大宮神社』



不詳とされた境内社

「絹笠社(きぬかさしゃ)






 

海神族がもたらした

養蚕・織物()にまつわる女性神

あったのではないでしょうか。



上野国一宮『貫前神社(ぬきさきじんじゃ)』

祭神「経津主神(ふつぬし)

  『姫大神(ひめおおかみ)』(養蚕機織りの神とも)




(その前宮)「咲前神社(さくさきじんじゃ)

  (群馬県安中市鷺宮3308)




境内社に「絹笠社」があります。




咲前神社には「白蛇」がいるといわれ

蚕の神と伝えられています。


「蛇」が蚕の神とされているのですね。



また蚕神について、東北地方では一説に

「おしらさま」などと呼ばれます。





蚕神は江戸時代に、養蚕業が盛んに

行われるようになり

広く信仰されるようになりますが





Silk raw 01.jpg 『wikipedia』


この蚕神は、その実体は

よくわかっていません。



ですが


以下の実体(事情~実情)をながめてみると

(かなり細かいのですが、興味のある方はぜひ!)



この群馬県吉井町の蚕神信仰の

起こりは、かなり古いと考えています。







養蚕技術が海神族によってもたらされ

 群馬県吉井町の旧名が『多胡郡(たごぐん)

 (多くの「胡(えびす)が住んだ土地の意か)



・「蚕神」は「白蛇」であるという伝承

「咲前神社(貫前神社・前宮)

 境内社『絹笠神社』に伝えられている



・海神族の竜蛇信仰~「ナカ」の地名 

   隣町藤岡市に「中(なか)」あり

 『泡輪(あわ)神社』鎮座 上野国神名帳の記述 

 「率川阿波の御神なり」から

  祭神「事代主(ことしろぬし)」と推定される

  同神は、「恵比須(えびす)さま」といわれる



・上野国一宮「貫前神社(ぬきさきじんじゃ)

 祭神 「経津主神(ふつぬし)

    『姫大神(ひめおおかみ)』


  姫大神は、正確な神名・祀られた由緒も

  不詳(伝わっていない)鎮座地を古くは

 「綾女庄(あやめのしょう)」といい

  養蚕機織の神といわれている

 


・群馬県の吉井町『大宮神社』の祭神

 (『アメノウズメ』『猿田彦命』境内社石神社)

『天孫降臨』神話で出会う二神の組み合わせ


 境内社『絹笠社』について不詳とされる






後に『アメノウズメ』と神婚する猿田彦神は

『天孫の降臨』、アマテラスの孫

「ニニギノミコト」の道案内を務めます。



吉井町の歴史は



神話に語られる


『葦原中国(あしはらなかつくに)


 


にまで、その起源をもとめることが

できるのではないかと考えています。






続きます。