この映画、公開されてから、まわりの友達から賛否両論、色々な意見を聞かされていたわけですが、今年の邦画の中で、一番いいと思う。
ただ、最初に断っておくと、その暴力的に過激なバイオレンス映画としての部分を評価しているわけではもちろんなく、人間の本質を浮かび上がらせている監督の三池崇史であったり、伊藤英明の演技のハマリッぷりなどの、あくまでもエンターテインメントとしてのこの映画を楽しめたってことです。
自分自身、頭がふらふらするくらいの恐怖で、上映中の心拍数の高まりはすごかった。
最近の総じて低調な日本映画の中で、一際に輝きを放っているのでは?っていうくらい、観た後もしばらく興奮がおさまらなかった。
ストーリーは、生徒たちから「ハスミン」の愛称で親しまれ人気者の英語教師、蓮見(伊藤英明)が、学校生活の中での生徒や教師、モンスターペアレンツなどの問題に直面し、「完璧なクラスを作りたい」という思いから、徐々にサイコパス(反社会的人格障害)としての一面をみせていくともの。
サイコパスとは、”共感性の欠如、良心の呵責を感じない、人を騙し操作しようとするなどの特徴をもつ病気の一種” で、”自己のコントロールがきかない”という傾向をもっているもの。
NAVERまとめでサイコパス診断があったので参考に。
http://matome.naver.jp/odai/2133631583008573001
で、この「ハスミン」を演じた伊藤英明が相当ハマッていてかっこいいと思ってしまうわけ。おそらく、上映中、本当はその暴力性・残酷さから応援しちゃいけないのに、徐々にハスミン寄りになってしまう人もいるはず。三池監督も、「サイコパスを演じさせたら世界で1,2を争う役者だと思う」と言ってます。
伊藤英明といったら、「海猿」シリーズなどの暑苦しいまでの熱血・正義感の印象が強すぎるけど、今後はこういう変質的な役をどんどんやっていったらいいと思う。
ただ、この映画サイコパスの精神異常者が犯した大量殺人って言う目で見ると、違うと思っていて、おそらく上の診断とかで、あーこれ自分も少し当てはまるかも…みたいな感情は誰しもあると思う。誰だって、損得で動くときっていうのはあるだろうし、自制心の効かない場面は、程度の差こそされあるはず。
だから、自分と切り離した次元で観て、所謂アクションみたいにスカッとするための映画ではないと思う。
だからと言って、そのメッセージ性は、なんで人を殺しちゃいけないの?みたいな哲学的な命題でもなく、人間の本質って何なの?っていう(これももろ哲学だけど)ことを伝えたい映画だと思う。(そもそも、観終わった後に、こういう御託を並べたりしちゃいけないことに留意しつつも。)
特に、やっぱり本当の意味での極限状態でこそ、その人間性って出るのかなっていうこと。
その意味では、この映画と比較されることが多いバトル・ロワイアルとスティーブン・キングのゴールデンボーイがが頭をよぎった。
前者に関しては、悪の教典の中で一人の生徒が死ぬ間際に、「先生、東大に行きたいです」って言って、絶命するんだけど、
バトル・ロワイアルでも、ある生徒が、二次方程式の解の公式を唱えながら、「絶対、いい大学にはいってやるよ」って死んで行きます。
後者に関しては、恵まれたアメリカ人の少年が精神的に荒廃してしまう過程を描いたもので、この作品みたいに先天的に生まれもったサイコパスとは違うけど、主人公と似通っている点が多いと思う。
自分の本質って何なの?それって本当の自分なの?っていうことと、向き合うきっかけにはなると思う。
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それから、この映画、学園ものということで、オーディンションを通して若手の役者の卵さんたちがたくさん出ていて、お気に入りの子を見つけるっていう見方でも楽しめる。(そこはバトルロワイアルと同じ。)
自分がすごいなって思ったのは、まずはヒミズで共演した二階堂ふみと染谷将太。特に染谷将太は、斜に構えていてひねくれているけど、内面は友達思いの生徒を演じていて、人を見下した表情、憎らしい声、一気にファンになってしまった。
もう一人は林遣都。役柄の繊細さであったり、健気さをすごいうまく演じていて、いい演技だなーって思った。
長々と書いたけど、この作品、映画もすごいけど、原作も劇中で端折られた部分とかの理解が進むから読むと面白いかも。
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【追記】
ちょうど今日、アメリカ・コネチカット州で起きた銃乱射事件を受けて、今年に入って立て続けに起きている銃による大量殺人に関して会見を開きました。
“President Obama Makes a Statement on the Shooting in Newtown, Connecticut”
こうした映画が、世間の人、特に若い世代に悪影響を与えてしまうのは否定できないことだし、被害者の人たちはとてもじゃないけど、観ようと思わないでしょう。
フジテレビの「ピカルの定理」が水10に進出するときに「ピカる★フジテレビ」のキャッチコピーが、原爆を連想させるとして問題になったみたいに、エンターテインメントの倫理的な側面も、色々と考えさせられます。

