図書館で予約して数か月待ち、堀川惠子「暁の宇品~陸軍船舶司令官たちのヒロシマ~」講談社(2021)を読了した。「人類初の原子爆弾は何故ヒロシマに投下されたのか?」との疑問から広島出身のノンフィクション作家が戦争を支えた輸送基地(宇品港)の司令官達に光を当てた壮大な労作である。




日本を亡国に導いた軍部の失敗の数々については野中幾次郎氏等の共著「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」という名著があり下記のブログでも紹介した。そこには現在にも通じる日本の組織の構造的な問題が見事に検証されている。
・チャレンジには失敗なんか無い | Saigottimoのブログ

今作は上述書でも指摘された“補給や兵站を軽視した日本軍”のアキレス腱ともいうべき船舶輸送という地味な分野の壮絶な話だ。私は知らなかったが、日本では陸軍の将兵や武器や糧秣の船舶輸送は海軍ではなく陸軍自らが担当し、その拠点は広島湾に面した宇品の陸軍船舶輸送司令部だった。

そしてこの分野にも優れた人材は居た。先ず“船舶の神”とまで崇められた田尻中将。彼は世界の軍事船舶輸送をリードする先進的かつ柔軟な思考を持ち、部下思いの誠実な将官として日清、日露、日中戦を通して辣腕を奮った名司令官だったが上層部への意見具申によって日米開戦間際に罷免される。

その半年後から終戦まで司令官を務めた佐伯中将は、田尻が築いた輸送部隊が壊滅するまで死力を尽くし、原爆被災時には迅速な救援救護で獅子奮迅の活躍をして軍人の矜持を示した。一方で大戦中の輸送船団への陸軍上層部の余りの無策ぶりや船員達の悲哀などは読めば読むほど涙を禁じ得ない。


戦後生まれの私だが、終戦記念日が近くなるとこれまでも戦争に関する作品に触れてきた今作に上記の「失敗の本質」「真珠湾の真実」「そのとき、空母はいなかった」「原爆を投下するまで日本を降伏させるな」「アメリカの鏡・日本」、漫画「紫電改のタカ」、映画「永遠のゼロ」等である。

私にとって歴史を学ぶ事は「過去」を知る事を手段として「現在」や「未来」を考える事が目的である。戦後の日本、特にマスメディアはGHQのWGIPの呪縛から逃れずに東京裁判史観のまま思考停止している。軍国主義の“行き過ぎた忌避“からは将来に向けた“正しい学習”は出来ないと思う。

堀川氏によって光が当たった田尻佐伯両中将、兵站と共に日本が弱いとされた情報部門で将校として日露戦争を勝利に導いた明石元二郎大将、そして杉原千畝と共にユダヤ人を救い、終戦以降に侵攻してきたソ連軍から北海道を守り抜いた樋口季一郎中将等は軍人でも公正に評価すべき人物だろう。

Saigottimo