私がヴォーカリストのホームグラウンドにしている渋谷・SEABIRDはライブハウスではない。週末などライブ演奏がある日を除けばアナログレコードやCDやDVDなどが良い音で流れているジャズ喫茶である。先日、店のマスターに「THIS IS BOSSA NOVA」というタイトルの音楽映画を観せてもらい、とても興味深かった。

 

 

2005年に製作されたこのドキュメンタリー映画は、ブラジル音楽の大御所2人(カルロス・リラとホベルト・メネスカル)がホスト役。インタビューやエピソード紹介等で、ボサノヴァの音楽的特徴や1950年代に遡って誕生からの歴史を紹介していく。またジョビンやシナトラなど有名ミュージシャンの映像でボサノヴァの名曲も楽しめる。

 

私の認識では、ボサノヴァは「じゃ、これボサでお願いします」と、ワルツ(3拍子)やスイング(4beat)などと並ぶ「リズム選択肢の一つ」でしかなかった。しかし「イパネマの娘」などボサノヴァならではの曲目もあることから「ボサノヴァには独特の世界観がありそうだ」とは感じていたが、この映画を観てその背景が理解出来た。

 

まず、ボサノヴァという命名経緯が面白かった。ブラジルの言葉(ポルトガル語)でBossa Novaは「新しい傾向(Bossa=隆起、Nova=新しい)」を意味しており、こうした音楽を始めたミュージシャン達を“従来とは違う音楽を志向する連中”という意味で“ボサノヴァグループ”と紹介していたことが名前の由来だという

 

 
そしてボサノヴァと言えば、「Chega de Saudade(シェガ・ジ・サウダージ)」「イパネマの娘」「Wave」等の作曲者アントニオ・カルロス・ジョビン(別名トム・ジョビン)。そして、サンバのリズムをギター1本で奏でるバチーダ奏法を編み出して囁くように歌ったギタリスト、ジョアン・ジルベルトの2人を外して語ることは出来ない。
 
 

但し既に故人だった2人は映画の中では関係者へのインタビューと既存映像だけだったが、それが逆に突出した存在だったことを浮き彫りにしている。スタン・ゲッツやシナトラも登場するが「ボサノヴァはジャズの一種ではなくサンバの一種だ」と皆言うし、ジョビンにはむしろクラシックの影響が大きかったとの証言もあった。

 

昔は夏と言えばハワイアンかラテン音楽だったが今はボサノヴァ。そして何より音楽としてのリラクゼーション(癒し)効果は抜群だ。なので私が最も不思議に思っていたのは、サンバと同じ(1小節に16回刻む)16beat(*1)なのに、サンバがカーニバル等で人を興奮させるのに対し、ボサノヴァは静かに人を癒すという真逆さである。

 

その疑問に対し、映画の中で「なるほど」と唸ったのは、ボサノヴァ黎明期に彼らが根城にしていた(歌手で女優の)ナラ・レオンのアパートは隣の部屋との壁が5㎝程度しかないので「大きな音が出せなかった」こと。従ってサンバを静かに演るにはアコースティックギター1本で囁くように小さな声で歌う必要があったという。

 


SEABIRD第二金曜ライブでメインヴォーカルを務める出雲井裕美さんはブラジル在住経験もあるネイティブポルトギーでボサノヴァをはじめブラジル音楽への造詣が深い。以前、私が彼女にポルトガル語で歌う*2)コツを聞いた際「ボソボソ言ってりゃいいのよ」と言われたが、この映画を観て改めて「なるほど!」と肚落ちした。

-----------*----------*-----------

*1:「サンバもボサノヴァも2beat」という見解もある。カーニバル等での行進リズムだから2beatとも考えられるし、そもそもbeatは定義がない感覚的なものだし、刻み方も人によって異なる。

*2:私が「星を求めて」をポルトガル語で歌うことは別記事でご紹介の通り。

 

Saigottimo