「10月は青空」という事でスタンダードの「ブルースカイ(Blue Skies)」をご紹介したが、同じスタンダードで「私の青空(My Blue Heaven)」があるじゃないか、と思われる向きもあろう。確かにこの曲は戦前から日本でも有名な超スタンダードだし、まさに「青空」ド真ん中のタイトルなのだが、ちょっと引っかかる事がある。

 

この曲は1927年に出版され、翌年ジーン・オースティン盤が大ヒット、日本でも昭和3年(1928年)に堀内敬三氏が訳詞を作り、二村貞一、エノケンこと榎本健一ほか数多くの歌唱で知られている。歌詞は温かい家庭の素晴らしさを称える内容で「狭いながらも楽しい我が家」という堀内敬三氏の名フレーズでも有名である

 

【数多ある音源の中で私のイチオシはビング・クロスビー盤】

 

ところがところが、タイトルの“Blue Heaven”をどう訳すか、堀内敬三氏もきっと悩んだであろう挙句に「青空」と訳しているが、果たしてどうなのか、怪しいのだ。“Heaven”=「天国」だから“Blue Heaven”⇒青い天国⇒晴天となって“My Blue Heaven”⇒「私の青空」ということなのだろうが、それではどうも合点がいかないのだ。

 

堀内敬三氏は、“Blue Heaven”を「青空」と和訳しても辻褄が合うように上手に意訳している。だが、原詞は歌詞専門サイトでご参照の通りで、“My Blue Heaven”以外の部分を出来るだけ原詞に忠実にナンチャッテ和訳を試みると下記の様な感じになり、“Blue Heaven”を「青空」と置き換えると意味が通じない

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My Blue Heaven

 

ヨタカが鳴きだすと夜は近い
私はMy Blue Heavenに急ぐ
右に曲がれば、小さな白い光が

My Blue Heavenに導いてくれる

笑顔、暖炉、居心地の良い部屋
私と妻と子供の3人だけの

バラが咲く小さな愛の巣

私はMy Blue Heavenで幸せだ

 

(translated by Saigottimo)

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結論から言えば、原詞の“Blue Heaven”は「青空」ではないと思う。“Heaven”に相当する日本語の「天」という概念には特定の宗教的色彩は余りないが、“Heaven”という英語にはどうやらキリスト教的な意味合いが含まれているようだ。「理想の家庭こそ天国(=キリスト教的価値観の理想境)」だという境地なのかも知れない。

 

そういえば随分昔「青空」という名前を付けた某メーカーの洗濯機のTV-CMでこの曲のエンディング部分を「替え歌」にして「○○のあおぞら~」と歌っていたことを思い出した。宗教や信仰を生活の基軸に置かない我々日本人にとっては、こんな牧歌的な雰囲気が相応しい。だから堀内敬三氏意訳は名作だと思う!

 

♪My Blue Heaven・・・2010年3月22日、茅ケ崎「Hi-Hat」での前週リハ♪

 

♪My Blue Heaven・・・2022年10月8日、松戸「Corcovado」にて♪

※2コーラス目は覚えたてのハーモニカで窒息しそうになった(複音ハーモニカなので「吹く/吸う」の見通しを誤るとそうなる)。

 

Saigottimo