「月光値千金」(1928年)の原題は“Get Out And Get Under The Moon”。ナット・キング・コール盤が有名だがスタンダードとして多くの歌手が歌っている。原詞は歌詞専門サイトをご覧いただけばお分かりのように、“give me a night in june”という歌詞があるので、「ムーンライト・セレナーデ」と同様に、これも6月の歌である。

 

邦題が漢詩のようで特徴的だが、これは日本でも戦前に流行歌として大ヒットした証でもある。この曲には様々な日本語詞(訳詞、意訳詞、作詞など)が存在しているので、ここではそれらをご紹介することにして、敢えて私のナンチャッテ和訳は控えたい。

 

「♪ただ一人さみしく 悲しい夜は~」で始まるのが一番有名で、邦題(「月光値千金」)の命名者とされている伊庭(いば)孝の訳詞。ディック・ミネ盤がこの歌詞を基本にしており、ロック仕立てのアレンジで攻めている山下久美子盤もこの詞がベースだ。

 

「♪月しろく輝き 青空高く~」で始まるのは三根徳一(ディック・ミネ)の詞。昭和10年(1935年)にレコーディングされた川畑文子盤、そしてこの時代の上海を舞台に1974年からロングランとなった「上海バンスキング」の吉田日出子もこの詞で歌っている。

 

「♪美しい女(ひと)に 出会った時は~」で始まる波島貞の詞は、往時、浅草オペラで一世を風靡したエノケンこと榎本健一に宛て書きしたような一種独特な詞で「エノケンの月光値千金」として知られる。面白いことにジュリーこと沢田研二が、この詞で歌っている動画があった。

 

「♪青い月あかるく 差し込む窓辺~」で始まる詞は作者不詳だが、美空ひばりが歌っており、Wikipediaの「月光値千金」のページでも紹介されているので一般にもかなり知られている。

 

しかし結論を言えば、私はフランキー堺盤が一番好きなのだ。フランキー堺といえば相当年配の方以外は映画「駅前シリーズ」等で活躍した存在感抜群の喜劇役者としてしかご存じないだろうが、元々彼はジョージ川口、白木秀雄と並んで“栄光のドラマー”と称されたジャズ・ミュージシャンである。

 

 

残念ながらネットで音源が見当たらないが、キングレコードの「フランキー堺/この素晴らしき世界」(1976年)に収録されている。そして彼は上記のどれでもない雨宮雄児の訳詞で歌っている。この詞は明るいフランキー堺のイメージにも、原曲の曲調にもピッタリだが、この詞に関してはネットで見つからないので敢えて記す。

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「月光値千金」(雨宮雄児・訳詞)

月影に誘われ 楽しい夜は 二人で手を取り そぞろ歩こう

頬寄せて 貴方の笑顔を見れば この世はバラ色 心は弾む

いま 夢のような いま 愛に燃えて いま 恋の小径

オー 音もなく輝く 月の光が 優しくいつまでも 二人を包む

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私自身も1コーラス目は原詞の英語で、3コーラス目はこの雨宮版の日本語で歌うことにしている。ただ下記の録音を聴くと、ところどころ違っている(「二人で手を取り」⇒「手と手を繋いで」、「二人を包む」⇒「二人を照らす」)のは意識的にアレンジしたのではなく、単純な覚え間違いである。雨宮さん大変失礼しました。

 

♪月光値千金…2016年9月2日、渋谷「SEABIRD」第一金曜ライブにて♪

 

折しも今日、6月10日は、今から25年前の1996年に67歳で他界した稀代のマルチタレント、フランキー堺の命日でもある。合掌。

 

Saigottimo