中村八大といえばジャズ・ピアニストであると共に、このブログでも紹介したが全米ヒットチャートNo.1となった「スキヤキ」こと「上を向いて歩こう」の作曲者だ。だが、生涯で数多くの曲を生み出した彼が自分の作品の中で最も好きだったのは「上を向いて歩こう」ではなく、「黄昏(たそがれ)のビギン」だった。
中村八大もそうだが、この曲は何故かジャズミュージシャンに愛されている。私は以前一緒にバンド活動をしていたベテランのジャズ・ギタリストから「『黄昏のビギン』っていう良い曲があるんだ。いつか歌ってよ」と言われてこの曲の存在を知ったのだが、その後も何人ものジャズミュージシャンから「好きだ」という声を聴いた。
今でこそこの曲は、ちあきなおみの歌唱によって日本のスタンダードとして広く知られているが、もとは1959年の水原弘のデビュー第2弾シングルB面の曲。そんな地味な曲がどのようにして現在まで脚光を浴びてきたのか。その経緯は「黄昏のビギンの物語」(佐藤剛・小学館新書2014年)という書籍に詳述されている。
この本には作曲者の中村八大の生い立ちから作詞者の永六輔との出会い、そしてこの曲の誕生秘話からその後の音楽界での変遷まで書かれている。この本での永六輔の言によれば、中村八大に「君にしておくね」と言われたものの実際の作詞者は中村八大で、彼は作詞も作曲もしたから一番好きなのだろうとの事。
元々は低予算のロカビリー映画のために永六輔と二人で短納期で作った数ある挿入曲のうちの1つで題名すらない曲だったとの事。それを後に中村八大が構成し直し水原弘の楽曲として世に出した。その後は全国の盛り場で「流し」のプロ達によって歌い継がれ、1991年にちあきなおみの歌唱でブレイクしたという。
このちあきなおみ盤で私が知りたかったのは「あなたの瞳 うつる星影」という原詞を「~うるむ星影」と歌っている点だ。でもこの本では全く触れてないので特に何の理由もないただの間違いだったのだろう。アルバムリリースの翌年に彼女が原詞通り「うつる星影」と歌っているライブ動画も最近になって見つけたし…。
さて、映画の挿入歌として誕生した時には名もなく歌詞も部分的にしか出来ていなかったこの曲だが、中村八大によって楽曲として整えられ、水原弘の歌でリリースされる際に「黄昏のビギン」というタイトルが付いた。「ビギン(Beguine)」というのは「ツタータ、ツタ、ツタ」というビートを刻む4拍子のリズムを指す音楽用語だ。
このリズムで最も有名な曲はおそらく「ビギン・ザ・ビギン(Begin The Beguine)」という1935年のコール・ポーターの曲だろう。この曲名は「ビギン(Begineの曲)を始めよう(Begin)」という英語のシャレになっている。ジャズのスタンダードなので様々なアーティストがカバーしているが極めつけはフリオ・イグレシアス盤だろう。
リズムを指定したようなタイトルを付けた曲を、違うリズムにアレンジされたちあきなおみ盤、作曲者&命名者の中村八大はどう思ったのかが気になったが、前述の本には編曲者の服部隆之が「八大さんに『このアレンジが一番好きだ』と言われて嬉しかった」とあるので彼は特にリズムはビギンに拘っていなかったようだ。
ちあきなおみ以外にも様々な人がカバーしているが、セルジオ・メンデス&Sumireは16beat、尾崎紀世彦と高橋真梨子は8beat、大橋純子、岩崎宏美、薬師丸ひろ子、由紀さおり、菅原洋一はスロウバラッドと、リズムは様々である。タイトルのままの「ビギン」で歌っているのは長谷川きよし、堀内孝雄、前川清など少数派だ。
私もこの曲をレパートリーにして何度も歌っているがリズムを「ビギン」とは指定しない。歌う際にバンドに「リズムは何でもいいです」とテンポだけ出すと大抵はスロウだったりラテンだったりでビギンにはならない。以下はSEABIRD一金ライブでのマッキーとのDuetだが、リズムはバンドにお任せしたところ「ラテン」だった。
♪黄昏のビギン Duet with 牧かおる 2019年11月1日・渋谷「SEABIRD」一金ライブにて♪
※私の声が大きく(マッキーの声が小さく)聞こえるのは私の胸ポッケの中のスマホで録音したためです。
Saigottimo



