朗読家は言葉をどう読むかだし、ヴォーカリストも歌詞をどう扱うかが問われる。このブログでも洋楽スタンダードの歌詞をどう訳すのか訳した日本語詞で歌わないとしても原詞の意味をどう解釈するかという点について、翻訳家でもない私が自分なりに訳したり解釈したことを、このブログで幾つかご紹介してきた

 

しかし、この分野においてはバイブルとされている書物がある。村尾陸男・著「ジャス詩大全」(中央アート出版社・刊)だ。なんと全22巻+αもあり、約1千曲に及ぶ洋楽スタンダードについて、作詞・作曲者や曲にまつわるエピソード、歌詞の和訳とイディオム等の用語解説、名盤紹介から主な歌手の歌い方までが綴られている。

 

私にはこのバイブルを全巻保有している歌仲間が居る。だから私のような「なんちゃって」ヴォーカリストは新しい曲に取り組む際に彼女に頼んでその曲のページを見せてもらったりしている(毎度すんまへん!)。大抵のスタンダードは載ってるし、辞書を引いても分からない言い回しなども、このバイブルを見れば殆ど氷解する。

 

 

しかし、私にはこのバイブルでも解決できなかった事が1回だけあった。曲は代表的なジャズ・スタンダードで1930年作レビューの劇中歌「On The Sunny Side Of The Street」だった。この曲は1929年の世界恐慌真っ只中の世相を表している。だから「そういう時こそ、同じ道でも日陰側ではなく日向側を歩こうよ」という歌だ。

 

この曲には「明るい表通りで」という邦題もあるが「表通りだから明るい、裏通りだから暗い」という歌ではない。同じ通りでも「片側は建物の日陰、反対側が日向」という場合に日向側を歩こうという意味なので、この邦題はちょっと違うなと思っていたが、そのせいかどうか「ジャズ詩大全」には、この邦題は載っていなかった。

 

原詞は歌詞サイトご参照。以下は「ジャズ詩大全」の和訳を引用させて戴く。冒頭「~ Leave your worries on the door step/悩み事は敷居のところに置いて」で始まり、後半の「If I never have a cent I'll be rich as Rockefeller/お金が1セントもなくたって僕はロックフェラーのように金持ちさ」うんうん、でも問題はその後だ。

 

「Gold dust at my feet on the sunny side of the street/道の陽のあたるところには足元に金(きん)の埃が舞っているから」ん?どういうこと?意味が分からない。金の埃って?何故、足元に舞っているの・・・?他のWebなどを調べても「足元から黄金の喜びがこみ上げてくる」等の意訳はあったが、やっぱり意味が分からない。

 

【数多あるこの曲の音源の中で私のイチオシはこれ↓】

【↑シナトラらしく2つのBig Bandを左右に従えて】

 

ところが、この謎が体験的に解けたのだ。もう10年以上前の通勤途上、渋谷駅から国道246号線沿いに西に10分ほど坂を上った先にあるオフィスに向かって歩いていた時、その瞬間は訪れた。目の前の登り坂のアスファルトの道が朝陽にキラキラと煌めいたのだ。「あ、これかっ!これが、あのGold dustだったのか!」

 

アスファルトはコールタールに石英(ガラス)粒等を含む砂利を混ぜてあるので朝陽を浴び乱反射する。ああ、確かにGold dust at my feetだ。しかも、これは日陰の側では(陽が指さないから)見えない。なるほど、On the Sunny side of the Streetならではだ!「分かったぞー!」と叫びたい、正にアルキメデスの心境だった。

 

♪明るい表通りで 2020年2月14日・渋谷「SEABIRD」第二金曜ライブにて♪

 

Saigottimo