その夜 何を作って食べたのか全く記憶にない。 


ワインを数本買って、赤ワイン1本開けたことしか覚えてない。




スーパーからの帰り道、今一番何がしたいと聞いたら、


“誰も知らない土地に行って、やり直したい。” と言っていた。




どこにでもいけるとしたら今どこに行きたいかと言う私の問いに


“オーストラリア”



何の変哲も無い応えに結構がっかりした。 



それはただ単にオーストラリアには長期滞在で2回も行っているので、


奴が突然


“じゃあ、オーストラリアに行ってくるから!”


と言われてもたぶん一緒に行きたいと思わないからだった。






食事を終わらせてからの奴は具合が悪そうだった。



禁断症状といえば、タバコぐらいしか分からなかったし、タバコですらまともに当時やめられたためしが無かったから


薬物の禁断症状など想像の仕様も無かった。




朝4時過ぎに奴がうなされて汗をびっしょりかいていた。 奴が寝ていた下のシーツまでビショビショになっていて、くさかった。



奴は寒いといってがたがた震えていた。


ビショビショのTシャツから、すべて脱がし、お湯でぬらしたタオルで体を拭いた後、



奴が乾いた服に着替えている間ににシーツを代えた。




そのフラットに引っ越してきて、初めてクイーンサイズのベッドを買って、



奴が始めて一緒に寝た男だった。









シャワーから出てきた奴を見て “ギクッ”とした。 “ドキッ”ではなくやせぎすの申し訳なさそうに出てきた奴は

かわいそうだった。


ヒップ ホップ風のダボダボの洋服の外側からは、そこまでやせていることが分からなかった。 




“悪いけど、今日はココに寝てね”


とソファーを立って自分の部屋に行こうとした時、奴はわたしに抱きついてもう少しそばにいてほしいと言った。




わたしはかなり酔っ払っていたから、奴の頭をヨシヨシしてやりながら


ロードオブザリングを見続けた。





わたしはそのとき薬物にはまった人間が、そんな行動を取るか、まったく知らないまま


もしかしたら自分勝手な正義感を振りかざして、地図も、磁石も持たぬまま、大航海に乗り出してしまったのかもしれない。



奴の体はがりがりで、どうして私の中に入ってくる力が残っていたのか分からないけれど、


白々と朝が開けていく中で、私たちは体を重ねあっていた。






目を覚ましたときはもう午後だった。


わたしはまだ二日酔いでボーっとしながら


今朝方、インスタント焼きそばを買ったのを思い出した。



お湯を沸かしながら



二つあるインスタント焼きそばをながめた。。。。




奴はまだ寝ている。




TVをつけると大して面白い番組はやっていなかった。




今朝のロードオブザリングが気になって、自分の持っていたVCDを引っ張り出して最初から見る。





しばらくすると奴も起きてきて、焼きそばを食べる。





夜になって、冷蔵庫に何も無かったから、近くのスーパーへ買い物に行くことにした。





昔、子供のころ食器洗剤のテレビのCMでルンルン仲良く歩くカップルみたいに、




ウキウキと星空の下を歩いた。 







日曜日の朝4時過ぎはさすがにタクシーがなかなかつかまらず、私たちは歩き始めた。



とまっている世界一長いエスカレーターを上って



途中で水とインスタント焼きそばを買って



結局わたしの部屋まで歩いてしまった。







大家に家を追い出され1週間もストリートで過ごしたという奴に



“じゃ ありがとう、 またね”



とは言えなかった。






部屋に入り、大きな部屋には小さすぎるTVをつけるとHBOでロード オブ ザ リング2をやっていた。



ロードオブザリングを見た事が無いという奴に



“1を見ていないんだったら、これは見ないほうが良いな”



といいながら、ソファーのクッションをどかして奴の寝床をつくる。



シャワーを浴びたいというので、




タオルと、奴が着れそうなTシャツとスウェットを出してやる。




ロードオブザリングを見ながら





部屋が納豆くさいことに気がつく。




納豆は好きだが、異様な匂いに




テレビも見ていられない。






しばらく部屋をうろうろすると





匂いの根源は




奴の靴だった。





1週間おそらくはきっぱなしだったであろう奴のアディダスの靴から




異様な匂いが部屋中に広がっていた。








Dettleを2,3枚の化粧用コットンにひたひたに浸し、奴の靴を拭くと匂いは病院の匂いに変わった。