前にこの病院に来たときは確か







友人のお見舞いだったはず。







特別病棟はひっそりとした棟にあった。









示された階に上がり、エレベーターのドアが開く。









目の前には、見えるのはほかの病棟とは全く違う様相だった。










目の前に立ちはだかる鉄の壁、天井まである。










そしてその左側にはセキュリティーカメラと共にブザーがあり、








その下には何かを差し入れる引き出し。









ブザーを押すと、








電気でロックがはずれ、壁だと思っていた重い鉄のドアが








重々しい音をたてて右側に開く。










中に入るとまた鉄のドアが待っていた。










ただし、そこには窓口にいるオフィサーが見え、










自分のIDカードと刑務所でもらった面会許可の紙を出す。









クリアランスが終わり、中に入ると、男女のオフィサーが4~5人寄ってきて









まだクリアランスをしたオフィサーの手元にある私のIDカードを覗き込む。









本当に日本人なの? どうしちゃったのかしらねぇ見たいな事を女性の警官がぼやいている。









その取り巻きにいた男の警官が歩み寄ってきて、









近くのロッカーへ荷物を入れるように言う。









香港人はとりあえず日本人の女の子には優しくしてくれる。








みんなドラマとAVの見すぎ。 









たぶん日本人の女の子は皆AV女優みたいに










ベッドに入ったら楽しませてくれると妄想を抱いている。










私は素直に、彼の好意をありがたく受け止め、はらはらとベンチに座って待つ。










刑務所の冷たい待遇を受けても、重い鉄のドアを見ても、どこまでも世間知らずの私は











病人なんだから“ベッドまで面会に行く” 画像を頭に描いていた。










数分待って、通されたのは、ガラス張りの部屋でこちら側とあちら側もガラスで仕切ってある。










いわゆるドラマや映画で見る風景と余り変わらない。









しばらくして奴が入ってきた。










出張に行く前に会ったきり、ものすごい年月が流れた気がする。









お互いに口を開くが、何を話しているか聞こえない。









奴がとっさに受話器をとった。










こちら側にも電話機がついている。










またここで、何か重いものが心にのしかかるのを感じる。










そしてさっきから心に引っかかっていた、








“Obsession of the drug"








奴がどうして刑務所に入っているかの理由。









特別病棟に入院中の受刑者への面会申請用紙にそう書いてあった。









どうしてまたドラッグに手をつけたのか、約束したのに。








奴ははボロボロ泣き出した。









その涙は、もうかれこれ10年前、死んだ父親が









アル中患者のリハビリセンターとは聞こえのいい、収容所みたいな施設で








わたしが初めて会いに行ったときに、玄関で出迎えた時に流した








涙とおんなじ色だった。













































登録手続きを済ませ、改めて壁の写真を眺める。





まだ事の次第が良く分からず、とりあえず差し入れしてよい商品の名前を書き出す。





生活するの最低限のもの。






Hiltonのタバコ

歯ブラシと歯ブラシケース

石鹸

アメ

クラッカー

香港特有のポークのスナック

便箋

封筒

タオル

雑誌

本





後で知る事になるが、タバコは中で金として流通する






その日はとても込んでいて、







自分の番号が電光掲示板に出てくるまで







1時間以上待つ。







5人ずつ、また別の建物までオフィサーに連れられて歩いてく。







別の建物のドアまで来ると、







ブザーを鳴らし、しばらくして中から錠があく







重いドアを開けるとすぐにIDカードを出し、







ロッカーの鍵を渡される。







携帯電話とカメラはそこに入れなければいけない。









それからなぜか、液体も持ち込み禁止。







ロッカーにそれらのものをしまった後は、持ち物検査をし








金属探知機を通り、








新たにまた登録しなければならない。








ショックを受けつつも、どこかはじめての体験に興奮を覚えている自分がいた。








警官の無愛想で、威張った態度には閉口だったが、







小綺麗にした日本人の女が来ることは珍しいらしく








IDカードの名前と顔を交互に見て







“日本人が会いにくるなんて珍しいもんだ” とつぶやく。








そして、引き出しを開け、書類を確かめ、








ほかのオフィサーとああでもないこうでもないと話し始めた。 








そして数分後、奴の白黒の写真が前向きと、横向きと








まるで映画で見たそのまんま、番号を持った奴の3枚の写真が張ってある







A4サイズのカードを見せられ、







“あんたの友達はこの人で間違いないね”







“はい。” 食い入るようにちゃんと見てからそう答えた。







“今はここにはいないよ。 昨日の夜病院に運ばれた。”







“どうして? なんで病院に運ばれたの? 重症なの?彼は大丈夫なの?"








などとまくし立て、オフィサーは、まあ落ち着いてという手振りをする。







英語が話せるちょっとナイスなオフィサーが、






“今彼はね。QEのスペシャルウォードにいるんだよ。 QEってわかる? ジョーダンのQueen Elizabeth Hospitalの事だよ。”






うんうんうんうんうなずきながら、オフィサーの説明を聞き、そのスペシャルウォードに面会に行く書類を持って、その場を後にする。







ロッカーから携帯をだし、IDカードを返してもらうと







完全に狼狽って手だか足だか分からないまま走り出し







夢中でタクシーに乗り込んだ。








































証券会社というのは場中、特注な緊張感が漂う。







前場(前場)とうのが香港時間の10時に引ける。







ほっとしてつかの間








携帯電話が鳴った。






また非通知だ。








“ドキッ”として電話に出ると








奴ではなく見知らぬ香港人のおっさんだ。








間違いかと思う隙も与えず








“あなたウォンチーマンのガールフレンドでしょう。 彼の番号はXXXXXXだから








何処何処まで会いにくるように。 訪問時間は水曜日抜かした午前中、12時半まで。








差し入れしたかったら、近くの売店で売ってるから、そこで買いなさい。”







一方的に話をされ、番号だけ確認すると








電話を切った。









一瞬のことで何がなにやら分からなかった。










番号は分かったが、場所がうまく聞き取れなかった。










後場は刑務所検索にほぼ時間を費やした。










結局なにも分からず家に帰ると










一通の手紙がポストに入っていた。













ちょうどその週は日本の祭日があった。 








文化の日。








奴と出会ってから2週間経っていた。









刑務所を病院ぐらいに考えていた私は








オフィサーが差し入れしたいものは近くの売店で買うようにという言葉を完全に無視し









すぐにやってくる奴の誕生日プレゼント(ラッピング付)や、ハードカバーの本や、奴の好きなキャンディーなどを


買い込んで行った。









ドキドキしてやっとの思いで探していくとかなり大きな施設だった。










別の建物で訪問者の登録をする。










準備されている紙に必要事項を記入し










化粧けの無い女性のオフィサーに渡す









何か渡すものは無いのかと聞かれ











持って来たものを見せると









あきれた顔で









“こんなもの渡せるわけ無いでしょう。壁の写真を見なさい!差し入れできるものは決まっているの!”








ときつく窘められる。









ぽかんとしている私を不憫に思った男のオフィサーが









“本はね、ソフトカバーならいいけど、こういうハードは駄目なんだ”










その手振りで、どうしてハードは駄目か分かった。








武器になる。








それにもしかしたらドラッグを中に注入しやすいとか諸々の理由があるのだろう。










人生で初めて、刑務所というところに来て、初めて自分の大事な人が、









惨めな待遇を受けている現実に打ちひしがれ、とても苦しく思った瞬間だった。