裁判で、罪を認めた後、奴は薬物中毒者専門の刑務所に送られた。









そこへはフェリーを2回乗り継いでいかなければならない。










しつこいが恋の真っ只中にいた私は、そんな週末も自分に使命が与えられたようで心の底ではそんな自分を楽しんですらいた。私しか彼を救えないとか、彼には私が必要なのとか、言葉に出したら陳腐に聞こえるから、出さないけれど、言葉に出しても出さなくてもやっていることは変わらない。







毎回、フェリーに乗る前に売店でミルクティーを買う。


 















金持ちが住んでいる島と、貧乏人が住んでいる島の違いは、フェリー乗り場にも如実にでる。












金持ちが住んでいる島行きのフェリー乗り場には、コンビ二やら、トレンディーなコーヒー屋やら、













きらきらした店構えの店がずらっと並んでいるが、貧乏人のほうは、その一軒の茶店だけ。
















やさしそうな男の人が一人でやっている。














そこのミルクティーを飲むとなんだか心があったまる気がした。














二度目に乗るのは、漁船を改良した、小さい船だ。いわゆるポンポン船。












その船の中で、差し入れに指定された物が買える。

















今回は登録は一度だけ。面会時間は30分。前より長い。













登録をすると、面会人のある人間は島の向こう側にあると思われる施設から











歩くかバスでこちら側にやって来る。













体外30分か45分ぐらい待ち、荷物をロッカーに入れ、















面会室に入る。

















今度は、幅2メートルぐらいのテーブルの真ん中にプラスチックのついたてがあり、隣で話している人の会話もまる聞こえだ。



















意外な開放感に、躊躇しつつ胸をほっとなでおろすも、狭い部屋に6組から7組がいっせいに話すと、部屋中がわんわんとしていつも部屋から出てくるときには、のどが枯れている。





















フェリーは一時間に2本。























タイミングよくフェリーが来ることがしばしばあって、























面会小屋から出てくると、施設に戻っていく奴らをすぐそばに見ることができた。



























今でも思い出すと胸がいたくなる瞬間だ。

























あの時は二人の幸せな将来を信じて疑わなかったから。























































































差し入れ可能な品物を売っている店は、駅を出た目の前にあった。













何も知らなければ普通の雑貨屋だとおもって 通り過ぎてしまう店に










すべて刑務所で定められた品が売られていた。








ヒルトンのタバコ、香港特有の甘しょっぱい豚肉のスナック、タオル、歯ブラシ、歯磨き粉、ノート、便箋、ペン、飴、クラッカー、M&M、雑誌、ボディーソープ、リップクリーム










与えられる数には限りがあった。










他のの面会人から差し入れがあると、持って行ってもつき返される。












2度目の登録を済ませ、差し入れがある場合は、差し入れ物登録のカウンターに行く。









そこには二人の兄ちゃんがいて、各Inmateの記録が残っている登録長に






一品ずつ、品物の登録をしていく。










差し入れの登録が終われば、後は面会人の番号が呼ばれるまで待つだけだ。













番号は、広東語で呼ばれるため、オフィサーがカウンターの横にたって、番号を読み上げるたびに












聞き逃さなよう集中しなければならない。











54043, 59068, 12325, 34453, 87759, 90054, 43342, 54458, 89482, 91123, 43334,












自分の面会する相手の番号が呼ばれたら、呼ばれた順に並び、












オフィサーに、あんたは何番のカウンターと言い渡される。












わけもわからず、19、19、と唱えているとドアが開いた。












おそるおそる入っていくと、細長い部屋の両側から











ボーっと幽霊が立ち上がって前に出てきた。












ぞっとする光景だった。










ガラスが傷や汚れで曇っていて、恐怖というメガネを通すとそれが余計に












幽霊みたいに見える。












奴らが着ていたのは、ハリウッド映画のようにオレンジや黄色でなく茶色の洋服だ。











19のカウンターに行くと誰もまだ来ていなかった。











聞き間違えたか思い、10番や、9番を見に行くが











そこには話し始めているカップルや夫婦がいた。











しょうがなく19番に戻ると、驚いた顔の奴が出てきた。







































































その時父は、私の顔を見るなり、きれいな涙をぽろぽろと流した。







いつも酒を飲んでは、暴れて汚い言葉をののしっていた人間から








毒素と邪気が抜け落ちると、弱者のみが持つ美しい心の破片が零れ落ちてきたかのようだ。










父の中の毒素とは怒り、世間に対する怒り、自分の弱さに対する怒り、母親、弟兄弟に対する怒り、自分の運の悪さへの呪い、そしてそんなちっぽけなどうでいい物事に左右されてしまう自分への情けなさそしてその気持ちを誰もわかってくれないという悲しさ、寂しさ。











わたしはそんな父をみて、情けないとは思わなかった。









本当の父の姿はこうだったなと確信したまでだ。









子供のころ、鉢植えの欄を買ってきて、私の名前を書いてくれた父。








機嫌がいいと魚屋にいいマグロが入ったからと薦められるままに、











マグロだけの刺身を、山盛り買ってきた父。










そんな父を頭のどこかで思い出しながら。 













奴の涙をみていた。











おそらくこの涙の色を見てしまったら、誰しもが、愛おしいと思わずにいられないだろう。














それはある種、愛する人間に与えられた特権かもしれないし、罠かもしれなかった。












与えられた15分はあっという間に過ぎた。












なにも知らない私を引き止めておくために、奴は必死の思いで嘘をついた。











おそらく最初から3ヶ月から6ヶ月は出てこれないだろうとわかっていたいたはずだが、












2ヶ月はかかるかもしれないといった。











それでも私を落胆させるには十分だった。











2ヵ月後は、1月3日。 愛する人とはクリスマスも、ニューイヤーズイブもすごせない。










今度はこちらがハラハラと泣く番だった。










恋に落ちた真っ只中にいる女の子にとって、イベントがどれだけ大事か。












落胆を隠せない私に










奴は、罪を認めるべきかどうか私に問うた。










そうするしか薬物を絶つ方法はないと言う奴の言葉に従い、









裁判で罪を認めることに同意した。











その時は、出てくるのが6ヵ月後になるなんて想像もしていなかったけれど。