働くもののいのちと健康を守る埼玉センター第25回総会 記念講演 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

2024年は、再生の年です。

不正にまみれた政治を刷新し、コロナ禍で疲弊した医療・介護現場を立て直し、社会保障削減や負担増を撤回させ、防衛費倍増ではなく国民生活を豊かにするために税金を使わせ、憲法改悪を阻止し、安心して働き続けられる職場をつくるため、行動し、声を上げることを提起します。そして、戦争・紛争が一日も早く終結し、避難している人々の生活が立て直されることを願います。

そして、能登半島大地震で被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、一日も早く生活が立て直されるよう祈ります。

 

 

5月24日、働くもののいのちと健康を守る埼玉センターの第25回総会に参加しました。

そこで行なわれた記念講演「医師の働き方改革の経験と現状報告」の概要をご報告致します。

講師は医師ユニオン事務局長の土谷良樹先生でした。

 

 

2024年4月から、医師の働き方改革が開始されました。

X、旧Twitterでは、様々な医師の声があがっているそうです。「今まで業務だったものが自己研鑽となり、残業代が減っただけ」、「医師が足らず、夜間救急不可の病院も」、「応援の医師がキャンセルになった」、「収入が100万円下がった」、「80時間分の時間外労働手当を含むとされ、基本給が半分以下になった」などだそうです。

医師の働き方については、「ガイアの夜明け」のシリーズ「命の現場が危ない」で取り上げられ、土谷先生も登場しているとのことで、その映像『働きすぎ-医師を救え!』の一部が紹介されました。

国は医師の時間労働の上限を1860時間としましたが、それは一般人の720時間の2倍以上です。

1月7日、土谷先生は当直後の日勤で、入院患者の対応などを行ない、タイムカードを押したのは18時28分で、35時間の連続勤務だったそうです。休みは、1月は3日だけだったそうです。

これは、特に大変なのではなく、世の中の一般的な医師の働き方だそうです。

かつては出勤簿にハンコを押すのみで、事務が目視で医師の出勤を確認するのみだったそうです。それではまずいとタイムカードやICカードが導入されましたが、しかし、医師の労働時間は出退勤時間とは別とされ、時間外労働が自動的につく訳ではないそうです。

病院には常に最低1人は医師をおかなければならないため、当直はどうしても必要です。

当直は、「宿直」として誤魔化されてきましたが、仕事がない当直もありますが、二次救急や三次救急の病院でも当直が行なわれていると指摘しました。

多くの二次救急病院では当直医が入院患者の対応と救急外来の対応を行なうそうです。夜間救急外来は普通の外来と同じです。入院患者が急変で亡くなった時などは大変ですが、1日の3分の2は当直時であり、急変の3分の2は当直時に起こることになります。しかも、朝から働いてから当直に入り、次の日も通常勤務です。若い医師は昼で帰らせることができますが、中堅医師になると責任があって帰れないそうです。

当直は週1回がギリギリだと思うが、週2回の病院もあると述べました。

かつては許可のない当直も行なわれていましたが、「宿直」として手当だけは出すという意図的な勘違いが風習扱いで横行しているそうです。

厚生労働者が医師の勤務実態を調査したところ、6割の医師の残業は年960時間未満だったそうです。4割は年960時間超というということは、月80時間超であり、過労死ラインを超えていることになります。しかも、宿日直中は労働時間から除外されているそうです。つまり、全ての当直労働が除外されているということであり、それを加えると9割の医師が月80時間を超えて時間外労働をしていると推定されるそうです。

医師の働き方は元々労務管理がなく、当たり前という圧力があり、実態として、それなしで地域医療は回らないという現実があると指摘しました。

そうした中で、医師数が変動するとどうなるかというと、医師が減った分仕事を減らすということには滅多にならず、頑張って患者を診てしまい、過労死が頻発することになると述べました。

 

厚労省は「医師の働き方改革ガイド」をつくったそうです。その中で、医師は労働者であり、医師には労働基準法が適用され、労務管理を雇用主に義務化するということが明記されているそうです。

ホームページで公開されているパンフレットによると、医師の労働時間水準がA、B、Cに分けられ、Aは時間外労働が年960時間を上限とし、B、Cは年1860時間を上限としているそうです。

Aは臨床研修医1年目を想定しており、月曜朝は始業前の7時30分からカンファレンスがあったり、17時30分以降に病棟業務があったり、土日に宿日直許可のない当直をしたりしているそうです。

B水準の例では、地域医療を担う病院の医師の働き方として、休みは月3、4日で、宿直が月4回ありますが、やはり始業前からカンファレンスをしていたり、勉強会は労働時間から外されていますが、実際は勉強しないと医師の仕事は成り立たないそうです。また、オンコールは労働時間ではないとされていますが、ずっと病院に縛られていることになります。それらの間に、学会や論文執筆もあるそうです。

B水準のもう一つの例は泌尿器科医で、土日は全て休みとされていますが、年の時間外労働は1860日超で、オンコールもあり、19時に帰れる日が月2日くらいしかないそうです。

C水準ではほとんど家に帰れておらず、日直は書かれておらず、他院での宿直もあるが書かれていないそうです。

これらは、厚労省が医師の働き方の例として公表しているものであり、そのことから、医師の働き方を変えるつもりは一厘もないのだということがわかると指摘しました。

最も大きな問題は「当直」という労働時間隠しだと述べました。「寝当直」と言われても、医師には命を守る責任があり、毎週1回は家へ帰らないということであり、それが休憩時間と言えるのかと問いかけました。

医師の働き方改革により、宿日直許可で救急をやる病院が急増しているそうです。許可を得るためには患者数を届け出る必要があるそうですが、コロナ禍で患者が少なかった時でも1時間に4、5人の患者は来ていたそうです。しかし、重症なら1人に何時間もかかるケースもあり、緊急手術となれば麻酔医を呼び出すことも必要になると指摘しました。

令和4年に宿日直許可数が10倍になったそうですが、厚労省はどんな形でも許可を出していると指摘しました。

2024年4月以降、529病院にアンケートをとったところ、宿日直許可をとっている病院が3分の2で、これから申請する病院も合わせると75%となるそうです。大学病院でも80%が宿日直だそうです。宿日直ということは、夜間帯は労働時間ではないとすることだと指摘しました。

日本産婦人科学会の調査では、「宿日直許可」を取得済が30%、申請中が17%だったそうです。

神奈川県の医師の働き方改革では、宿日直が35%から75%へ増加したということですが、県が指導して急増したそうです。

救急医療が破綻しないために、宿日直は賃金の3分の2程度の手当を支払い、翌日も勤務可であり、週1回までで、定額働かせ放題となっていると指摘しました。

 

当直を外すとA水準の医師が残業時間960時間を超えそうになると、面接指導が義務付けられているそうです。しかし、面接するのは産業医ではなく、動画研修をしただけでよいことになっているそうです。休憩時間の確保やインターバルは「努力義務」とされており、それは「やらなくていい」という意味だと指摘しました。

「自己研鑽」とは、元々労働時間だったものを除外するためのものであり、学会参加、勉強会、奨励検討、手術見学などが労働時間から除外できると例示されているそうです。しかし、手術見学をしていれば手伝うこともありますが、それでも労働時間には該当しないそうです。

厚労省がそうしたことを「労働時間ではない」と宣言し、問題になったのが明大病院だそうです。大学なのに、教育行為の全てを労働時間外とし、国立病院病院長会議もそれを追認していたそうです。問題となったので、厚労省が通達を出し、上司が本人の同意を取ってからやるように指導したそうです。

 

医師の働き方改革で良かったことは何かというと、勤務医の労務管理が雇用主の義務化されたことが成果だと述べました。

労働者であることを自覚した若い医師は、医師の働き方がおかしいことに気付きますが、病院内では言えずに、X、旧Twitterでつぶやいているのが現状だそうです。

結果として、医師の働き方にはほとんど変化はなく、違法な長時間労働が合法化されただけであり、過労死が認定されなくなってしまう恐れがあると指摘しました。

できることは何かというと、若い世代は働き先を変える時は、内部告発キャンペーンをすることだと述べました。労基署に訴えて未払い残業代を受け取るようになれば、問題化すると指摘しました。

医師の働き方を変えるには医師の増員が必要であり、日本の医師は偏在していると言われていますが、確かに東よりも西の方が人口あたりの医師数が多いという傾向はあっても、OECD水準に全ての都道府県が及ばないと指摘しました。

医師の増員には医学部定員が問題となりますが、国は2018年には減員すると言っており、コロナ感染拡大で一時期見直されるかと思われましたが、その後も減員の方針は変わらないそうです。

医療崩壊が問題になり、一時期少し医学部定員が増やされましたが、すぐに減員に戻ってしまったそうです。

ある自民党から議員に立候補する予定の医師は、「少子化になったのだから医師も減らせ」と言っているそうです。

これからどうなるかというと、日本の医学部卒業生は世界一少ないそうです。

真の医師の働き方改革を行なうには、医師を増やすしかないと述べました。

 

続いて、質疑応答が行なわれました。

「辞める時には労基署へ」ということだったが、労働組合としてはどう闘うべきかという質問に対しては、医師は約30万人だが、労働組合に入っている医師は200人くらいであり、労働組合にはまずは医師が入れるように改善してほしいと答えました。課題が異なって一緒に闘えないとしても、入れるようにはしてほしいと述べました。全国医師ユニオンに連絡がくるのは、職場のトラブルがある人や病気で倒れた人であり、加入数はあまり増えないそうです。

医師は労働組合に入れないのかという質問に対しては、日本医労連の組合に入る医師は限られており、医師は経営者側だと考える文化を変える必要があると答えました。今の若い世代は自分は労働者だと考える人が増えてきており、時代は変わっていくと述べました。

 

以上で報告を終わります。