2023年は、逆転の年です。
ロシアのウクライナ侵攻を言い訳とした軍拡とそれに伴う防衛費倍増を許さず、社会保障の削減や負担増、増税の方針を転換させ、不十分なコロナ対策を見直し、疲弊している医療従事者・介護従事者を支援し、人員増のための施策を行ない、憲法改悪を阻止し、安心して働ける職場をつくるため、行動し、声を上げることを提起します。
1月26日、埼玉県社保協の新春学習決起集会が開催されました。
この日はうっかり当組合の2023年春闘支部代表者会議の予定を入れてしまったため、集会に参加することはできませんでした。会議の終了後、Zoomで学習講演を途中から聴くことができましたので、その範囲で概要をまとめます。
学習講演のテーマは「不況と物価高騰 賃上げや暮らしを守る「財源」を考える ~こうすれば活用できる-大企業の内部留保~」で、講師は桜美林大学教授の藤田実先生でした。労働総研の事務局長でもいらっしゃるそうです。
「はじめに」の部分はほとんど聞くことができなかったため、割愛致します。
なぜ生活が苦しいのかという理由の第一に、賃金停滞があげられました。
コロナ禍でも英米独仏は、日本よりはるかに高い賃金上昇を実現しているそうです。状況は同じで、むしろコロナ禍の経済への影響は欧米の方が大きいそうです。本来なら、こうした時に内部留保を活用すべきと言う議論をするべきだったと指摘しました。
第二に、円安があげられました。
1990年代までは、日本は国内生産が中止で、円安ならば輸出増大で企業の利益を拡大することができ、賃金も上昇していたそうです。
しかし現在は、企業の海外展開が進展し、輸出が減少し、輸入が拡大し、貿易赤字が増大しているそうです。日米金利差から円安が進み、海外生産が増大し、国内産業の空洞化が進んでいます。日銀の金融緩和は、国債の大量購入で低金利を維持しており、金融緩和を縮小すると国債の価格が下落してしまうので緩和できなくなっているそうです。
第三に、最低賃金が上がらないことがあげられました。
非正規労働者や中小零細企業の労働者の賃金は最低賃金に準拠しています。しかし、最低賃金は生計費に見合わない水準であり、生活の切り詰めが必要になっています。
第四に、社会保障「改革」があげられました。
社会保障予算の削減により、ますます生活が厳しくなっています。
日本の賃金は異常な停滞状態にあり、約20年間横ばいが続いているそうです。
全世代にわたって賃金所得が低下していますが、1997年から2018年を比較すると、特に35~60代、中高年層で大きく賃金所得が下がっているそうです。若年単身世帯(25~34歳)の賃金も低下しており、25年前から300~400万円台の年収の人が多かったのですが、200万円台の非正規労働者が増加しているそうです。
夫婦と子世帯の賃金も低下しており、年収600万円層が最も下がっているそうです。高所得者の割合が減っているそうです。また、高所得層の割合が減っているそうです。
また、日本では再分配後も所得が低下するという特徴があります。普通は再分配すれば格差は縮小するものですが、日本の場合は再分配しても効果があまりそうです。これは社会保障の削減のためのだと指摘しました。
なぜ賃金が上がらないのかというと、財界は労働生産性の範囲でしか賃金は上がらないと言いますが、実際は労働生産性が上がっても賃金は上がっていないそうです。他の国では、労働生産性とともに賃金が上がっており、労働生産性の向上以上に賃金があがっている例もあるそうです。
かつては、日本でも春闘で産業別統一闘争が取り組まれていましたが、労働組合が弱まり、経営側の「支払い能力論」を打ち破れなかったそうです。財界は「横並び」の賃上げを否定し、自社だけで賃上げをすると競争力が下がると考えるそうです。労働組合は企業別に交渉するため、経営状況に左右されやすくなります。こうしたことから、賃金の下方への競争が起こってしまっているそうです。
春闘の再構築を行ない、闘う春闘とする必要があります。そして、産業別で賃上げをすれば企業間での競争力の差も起こらないと指摘しました。
また、大企業中心に賃金の個別化戦略が行なわれてきたそうです。
成果主義により、役割と成果で賃金が決まる役割成果給が広がり、春闘で公表される賃上げ率も査定で個別化されるようになったそうです。
2000年代、企業は人件費を削減して利益を増大させるようになり、その結果、株主配当の増加と内部留保の増加がもたらされました。
内部留保の使い道は、1990年代は設備投資でしたが、2000年代は投資有価証券の購入、自社株買いやM&Aを積極的に行ない、経済の金融化が進んだそうです。
小栗崇資氏は著作『内部留保の研究』の中で、内部留保は様々な形の資産として存在しており、試算によると換金性資産は2015年度は75.7%となっており、137.9兆円だそうです。つまり、換金性資産は膨大にあるということです。
内部留保の活用は、国民生活、日本経済にとって重大な問題だそうです。全労連は1990年代から活用を主張し、日本経団連は防戦の立場に置かれ、換金できない理由を主張していたそうです。
内部留保は、リーマンショック時のような「雇い止め」をしないで、雇用維持が必要な緊急時には大いに活用すべきだと指摘しました。
2ちゃんねるの創始者のひろゆき氏は、「内部留保は現金じゃない」、「取り崩せというのは企業経営を知らない」などと主張していましたが、現実には換金性資産が膨大だと指摘しました。
内部留保活用運動の意義は、2000年代の企業行動の抜本的な転換を求めることだと述べました。労働者の生み出した富を賃金や設備投資ではなく株主配当やM&Aに回してきたのは、企業は株主のものだという新自由主義と、短期利益を求めるファンド資本主義のためだと指摘し、賃金引き上げなどの労働者を重視した企業経営に転換させる運動をするべきだと述べました。人への投資を怠ってきたことが日本企業の競争力を低下させているのであり、企業は株主だめのものではないと指摘しました。
賃上げが実現した場合の経済効果があげられました。
まず、賃上げによる需要創出です。ベースアップにより、家計最終消費支出が増加し、需要を生み出し、生産も増加することになります。
労働総研の調査によると、1997年のピーク時まで賃金を回復させるには35.98兆円の財源が必要だそうです。
また、賃上げは企業活動の活性化をもたらすと指摘しました。賃上げによって利益は減少しますが、労働節約的技術開発が進み、労働者のモチベーションはアップするため、労働生産性は向上すると指摘しました。
賃上げは消費を増加させ、需要を増やすので、企業の生産性は向上することになります。
最後に、23春闘から新たな社会構造を考えることを呼びかけました。
23春闘は、コロナ禍、物価高騰による生活困難を打開する春闘であり、若者と一緒に立ち上がるためには新たな社会を考えるべきだと指摘しました。
生活困難が明らかにしたのは、日本における賃金分配と社会保障の弱さでした。それを克服するには、福祉国家を20世紀型から21世紀型に進展させる必要があると指摘しました。
20世紀型の福祉国家では、経済成長が前提であり、労使妥協による成長の果実を分配が行なわれてきました。日本では労働組合の弱さから、企業側に押し切られてきました。
21世紀型の福祉国家では、普通に働けば生活できる賃金、労働ではなく、生活に応じた賃金にすべきであり、リスクに対応して社会的サービスを受け取れる社会を構築すべきだと指摘しました。つまり、生活維持が、賃金と基本的福祉サービスによって行なわれる社会です。
政府は「人への投資に力を入れる」とし、衰退産業から成長産業への移動、再教育を支援するとしていますが、移動の間の生活を保障する制度になっていないことが問題だと指摘しました。産業構造の転換に伴う労働移動に対応し、安心して生活できる環境により、消費と投資も拡大することによって、分配重視による安定的な成長が実現すると述べました。
続いて、質疑応答が行なわれました。
企業が株主の方から見ていないのは、消費税によって法人税が下げられたためではないか、株式による利益にも所得税なみに課税すべきではないかとの質問に対しては、人件費を削減したことが利益創出には大きいが、法人税引き下げも影響していると述べ、社会保障拡充のためにも法人税引き上げは必要だと答えました。消費税を引き下げれば消費も増えると述べました。金融投資課税も必要であり、総合課税とすべきだと述べました。企業のあり方も社会のあり方も変える運動にしていこうと呼びかけました。
2000年代に内部留保が拡大したのはなぜか、アベノミクスとの違いは何かとの質問に対しては、アベノミクスでは法人税引き下げと超低金利政策により、株価が上昇しましたが、企業の利益は上がっても設備投資せず、人件費も削減したと述べました。2000年代は、海外への進出が増大し、国内での設備投資がなくなるという企業の変化によって内部留保が拡大したと述べました。
以上で報告を終わります。