第9回「With You さいたま フェスティバル」 埼玉婦人問題会議ワークショップ報告 | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

2月4日から6日まで、埼玉県男女共同参画センター「With You さいたま」にて、第9回「With You さいたま フェスティバル」が開催されています。その企画の一つとして、2月5日に埼玉婦人問題会議のワークショップが行なわれました。

埼玉婦人問題会議とは、1977年に発足した女性の地位向上のために主義主張を越えて埼玉県内の様々な団体が参加して活動している組織です。今回は弁護士の岸松江さんを講師にお迎えし、「いっしょに考えてみませんか? 女性の視点で 働き方・子育て・老後」というテーマで講演が行なわれました。

以下、講演の内容をまとめます。



まず始めに、岸さんは今が日本の進路の転換点であるという考えを提起しました。

2009年に政権交代が行なわれましたが、それは今までの政治はこりごりだ、社会を変えたいという国民の思いによるものでした。しかし、菅首相は与謝野馨氏を経済財政政策担当大臣に起用し、「税と社会保障の一体改革」を進めようとしていますが、与謝野氏は麻生内閣の財務大臣・金融担当大臣であり、小泉内閣でも内閣府特命担当大臣として金融・経済財政政策を担当していました。つまり、国民がもうこりごりだと思っていた古い政治そのものです。こうした状況に、多くの国民は閉塞感を感じています。その閉塞感を打ち破るためには、ちゃんと方針転換し、新しい社会をつくっていく必要があります。新しい社会をつくるには、毎日の生活を考え、支えている女性の視点が大事であり、女性の声を政治へ反映すべきだと岸さんは指摘しました。そして、女性が声を上げていくためには、「妻」、「母」、「パートさん」、「派遣さん」といった役割を打ち破り、自分自身の価値に気付く必要があると指摘しました。


岸さんは、「女性の視点」とは女性差別撤廃条約と日本国憲法が基本だという考えを示しました。

現在の岸さんは弁護士として多くの労働事件を担当していますが、かつて民間企業に勤めていたときには解雇された経験があり、そのときの理由は子育てのために残業ができないからという不当なものだったそうです。そして、「明日から来なくていい」と言われ、当時は解雇予告手当のことも知らなかったので泣き寝入りしてしまったそうです。その後、公務員試験を受験して面接まで行ったそうですが、夫が転勤になったらどうするのか、子育てと仕事を両立できるのかといった、自分の能力とは関係ない属性についてのことばかりを聞かれ、不合格とされてしまったそうです。正社員の仕事は見つからなかったので派遣社員としてしばらく働いた後、女性団体の新聞の記者となり、法律を勉強する機会やいろいろな運動をしている人たちと出会うことになったそうです。その仕事の中で、岸さんは女性差別撤廃条約に出会いました。

女性差別撤廃条約は、あらゆる女性差別をなくすためにつくられた国際条約で、日本は1985年に批准しています。条約について学び、岸さんは「女性だから」「子どもがいるから」といった理由でチャンスも与えられないのは差別であるということを認識し、解雇されたときや子育てを理由に仕事を得られなかったときに感じた「怒り」は正しかったという思いに至ったそうです。差別に気付くことで、あの時の怒りは自分の尊厳を傷つける理不尽なものに対する怒りだということに気付いたのです。

そして、条約には差別は個人の尊厳を傷つけるだけでなく、社会全体の発展を阻害するもの、社会の損失であるということも書かれていました。国の発展、世界平和のためにも女性の権利が守られることが必要です。

岸さんは、女性差別撤廃条約には自分自身のことが書かれていると思うと同時に、世界中の女性が同じ思いであり、世界中の女性とつながっているのだと思ったそうです。

もう一つ、基本となるのは日本国憲法です。日本国憲法の理念には、第13条の幸福追求権、第14条の差別されない権利、第28条の働く者の権利などがあります。「権利」は、英語では”Rights”、「正しいこと」の複数形です。権利を主張することは我がままであるとか、我慢するべきだというようなことが言われますが、自分が権利を実現するということは、社会の正義を実現することでもあります。

また、日本国憲法の重要な理念に「国民主権」があります。それは、国民が主人公ということであり、最終的な決定権は国民にあるということです。特に女性は、「女らしく」といった型にはまった状態から抜け出し、かけがえのない特別な個性としての自分自身の人生の主人公となるべきだと、岸さんは述べました。


実際に女性が声を上げたことで、世界を動かしたこともあります。

女性差別撤廃条約が締結されたことで、世界の女性の交流が始まりました。1980年にはNGOフォーラムが開催され、世界中から20万人が集まりました。そこで、女性への暴力についての交流が行なわれました。それをきっかけに、女性への暴力は国連が取り組むべき重要課題であるということが認識され、世界的な流れができました。そして、1993年に女性に対する暴力撤廃宣言が出されたそうです。

日本でも、2000年のストーカー防止法、2001年のDV法と、女性への暴力を防止する法律がつくられました。


しかし、女性差別撤廃条約を批准してから26年も経過しているのに、日本女性が置かれている現状はあまり改善していません。

ジェンダーエンパワーメント指数では、日本は109カ国・地域中57位であり、ジェンダーギャップ指数では134カ国中101位です。

働く女性の半数以上が非正規雇用であり、年収200万円以下の労働者の4人に3人が女性です。

女性国会議員は2010年6月時点で13.3%であり、地方議員の女性議員は2009年時点で10.9%です。女性都道府県知事は6.4%です。これは、意思決定機関における女性の割合が少ないということです。

国家公務員管理職は、2007年時点で女性が2.1%であり、地方公務員管理職は2009年時点で女性が5.7%です。

女性裁判官は16%、女性検察官は12.9%、女性弁護士は15.4%、女性の研究社は13%、100人以上の民間企業の女性役職者は4.9%、女性新聞記者は14.8%です。これは、社会的な影響力を持つ分野で女性が圧倒的に少ないということです。

NHK全従業員の中の女性の割合も11.5%と低く、管理職専門職の女性は2.9%しかいないそうです。

欧州では、日本より一足先に労働人口が減少し、産業構造を転換する必要が生じ、女性の能力活用が進められました。ジェンダーエンパワーメント指数2位のノルウェーでは、企業の取締役の40%以上を女性とするという法律があり、守らない会社は解散を命じられるそうです。これは、公教育が無料のノルウェーでは国が女性の教育に多額の費用を掛けているのだから、企業が女性を活用しないのはおかしいという考え方に基づいているそうです。

日本でも、仕事と家庭が両立できる社会をつくっていく必要があると岸さんは指摘しました。女性が”男性並み”に働くことを目指すのではなく、発想の転換が必要だということです。男女共に残業をしない仕組みにすれば、ワークシェアリングが実現して雇用が増えますし、仕事も家庭も両立させることは社会保障を充実させれば実現します。

女性差別撤廃条約でも、女性の社会進出のための社会サービスを整備することは締約国の義務とされていますし、日本国憲法第25条でも、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定められています。社会保障の充実には法的根拠があります。


しかし、いくら日本国憲法が権利を保障する条文を持っていても、それが実現されていないことはあります。

ハンセン病患者がその例です。ハンセン病は感染力が弱いことがわかり、治療法も確立されたにも関わらず、強制収容・強制労働、結婚の自由の制限などを定めた「らい予防法」が戦後50年も廃止されずに残されてきました。これは、科学的根拠がないにも関わらず、患者に対する「偏見」、差別が残っていたということです。ハンセン病患者の方々は、薬害エイズ訴訟の原告の人たちと交流したことで初めて自分達にも権利があることに気付き、訴訟を起こしたそうです。

このように、「偏見」は差別を引き起こすだけでなく、当事者自身が声を上げることも難しくします。しかし、「偏見」にとらわれていては何も変えることができません。

「偏見」を乗り越えて声を上げるには勇気がいりますが、当事者が声を上げることを社会が必要としています。自分に対する「偏見」を乗り越えて声を上げることが、社会全体をよりよくしていくことにつながるということを提起して、岸さんの講演は締めくくられました。


以上で講演の報告を終わります。