くらしの明日「非正規雇用者にワークライフバランスを」(毎日新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

1日遅れになってしまいましたが、毎週金曜日の毎日新聞の連載、「くらしの明日 私の社会保障論」をご紹介します。今回は、少子化を解決するには非正規雇用の問題こそを解決しなければならないということをはっきり指摘してくださっている記事です。引用部分は青で表記します。



くらしの明日 私の社会保障論

非正規雇用者にWLBを  松田 茂樹 第一生命経済研究所主任研究員

毎日新聞  2010年8月13日(8面)


結婚・出産も容易でない現実


 少子化対策を考えたとき、若年未婚者や子育て中の人のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和、以下WLB)の推進は大切だ。だが、WLBの取り組みは、一時期の勢いを失った。これは、深刻な不況で企業の余裕がなくなったこともあるが、根本的には従来のWLB論や政策が、本当にWLBの恵まれない人たちを救っているのか、という人びとの疑問があるためだと思う。

 WLBとは、誰もが仕事、家庭生活、地域生活などのさまざまな活動を、自らの希望するバランスで実施できる状態とされる。実際には、WLB論や政策は専ら正規雇用者を対象にしてきた。ところが不況を経て、実は、WLBが極めて悪いのは、雇用者全体の3分の1、25~44歳女性の約半数を占める非正規雇用者の方だったことが判明した。

 まず「派遣切り」や「雇い止め」という現象の通り、非正規雇用者は正規雇用者よりも雇用が不安定かつ低賃金だ。これでは安定した生活はおろか結婚・出産も容易でない。

 また非正規雇用者は、法律で定められた育児休業を実質的に取得できない。「継続雇用された期間が1年以上で、かつ子が1歳を超えて引き続き雇用されることが見込まれる」ことが条件だからだ。育休取得が可能な正規雇用者は、休業中に雇用保険から賃金の50%が保障されるが、育休を取れない非正規雇用者は休業中の所得保障もない。

 さらに、保育の問題もある。非正規同士の夫婦であれば、生計維持のために共働きの必要性は高い。だが、待機児童の多い地域では、育休を取得して雇用関係が維持されている正規雇用者の子どもの方が認可保育所に入所しやすく、収入が低い非正規雇用者の子どもは入りにくいという実態がある。このため、公的支援が少なく割高な認可外保育施設を利用するしかない、という矛盾が生じている。


 こうしてみると、安定収入がある者のワークとライフをバランスさせる前に、人並みに働けばワーク(生活できる収入)とライフ(起訴的な生活水準と家族形成の機会)を一定程度得られるようにするWLB政策こそが必要だ。

 非正規雇用者のWLBを支えるための施策を3点挙げたい。一つは正規雇用者と非正規雇用者の均等待遇や、非正規雇用者に対する職業訓練と職業紹介の強化で、稼ぐ力を高めること。第二は、非正規雇用者に恩恵のある育休制度の確立。例えば、出産前に一定期間雇用保険に加入して働いていた場合、就労時の収入の一定割合を出産後の休業中に給付するような制度だ。さらに認可外保育施設の利用者負担を軽減し、非正規雇用者も利用しやすくすることだ。


(後略)



実は、大抵の日本の労働に関する法律には、「正規労働者は~~の権利がある」とか、「非正規労働者には~~の権利はない」とかいう書き方はなく、特に労働基準法はすべての労働者に対して最低限の基準として保障されるべき事柄が定められています。ですが、記事中にも「実質的に」とあるように、認められている権利を行使する条件として「継続雇用された期間が1年以上」とか、1年以上雇用される見込みがあるなど、非正規雇用者を除外するような条件が付けられていることによって、結果として非正規雇用者はその権利を行使できないという場合があります。

とは言え、労働に関する法律は最低限守らなければならない基準ですので、労使交渉によって法律で定めているよりもよい条件を協定することには何の問題もありません。ですから、労働組合が強いところでは、非正規労働者にも育児短時間勤務制度が保障されていることもあるそうです。育児休業中の所得保障についても、正規・非正規に関わりなく、会社が一定の補償をする制度をつくっても全く法律上は問題がないのです。

しかしそうはならないのは、日本の雇用慣行として、非正規雇用者とは長く働くことを前提としていない労働者、会社として条件をよくして引き留めようとする人材には含まれない労働者と見なされているからでしょう。会社は長く働いて技術を蓄積し、会社に大きな貢献をする労働者に対しては、転職を防ぐために労働条件をよくしようとします。そうした対象ではない労働者については、労働条件をよくしようとする動機付けをすることは困難です。ですから、労働組合の目指す方向の一つとしては、会社に非正規労働者の会社に対する貢献を認めさせ、引き留めのために労働条件をよくする必要性があることを認めさせることです。対会社との交渉では、そうした要求の出し方をします。

もう一つの方向は、会社が自ら非正規雇用者の労働条件をよくしないのであれば、国に働きかけて会社が労働条件をよくすることを義務付ける法改正をさせることです。たとえば、「継続雇用された期間が1年以上」という条件が2カ月以上に縮まれば、それだけ対象となる労働者の範囲は広がります。そもそも、単に雇用期間に区切りがある、単に労働する時間が短いというだけにしては、日本において正規労働者と非正規労働者の待遇の差は大き過ぎます。この差を縮めていくことが非正規雇用者のWLBを実現するために必要であり、法律が改正されれば差が縮まっていくところはたくさんあると思います。


それにしても……WLB政策を提起するのに、なぜ「認可外保育施設の利用者負担を軽減」を提起して認可保育所の増設は提起しないのか、というのが素朴な疑問です。保育制度の改悪の問題だってありますし。

それから、非正規雇用者のWLBを実現するには、正規労働者の長時間過密労働の問題も避けては通れないと思います。これは、正規労働者が仕事を独占しているという訳ではなく、正規労働者も残業をしないと生活が苦しい低賃金の人が増えていることや、人をもう一人雇うよりも正規労働者に残業をさせた方が安上がり(ついでに残業代を払わなくて済むようにできればもっと安上がり→裁量労働時間制、名ばかり管理職)といった企業の発想にも原因があります。そうした企業の姿勢を規制するような法改正も必要です。

こうした細かい点を除くと、おおむね納得できる論考でした。





2010年9月16日予定の判決日まで、こちらもご支援よろしくお願いします。


緊急報告「爪ケアを考える北九州の会」からのアピール

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10310539150.html


2009年12月18日、第2回公判が行なわれました。「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様から新聞記事をご紹介していただきました。



毎日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5054.html



朝日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5058.html



当ブログでは、2010年6月24日に結審した際のasahi.comの記事をご紹介しています。



福岡爪ケア事件控訴審、6月24日結審(asahi.comより)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10572938282.html



事件の経過と裁判の意義についてまとめた下記エントリーも参考になさってください。


爪ケア事件を看護・介護労働者が考える意義

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10595936190.html