くらしの明日「環境税導入、介護に活用を」(毎日新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

毎週金曜日の毎日新聞の連載「くらしの明日 私の社会保障」ですが、今日は介護の問題が取り上げられていました。とてもユニークな提案がされていると思いますのでご紹介いたします。引用部分は青で表記します。



くらしの明日 私の社会保障論

環境税導入、介護に活用を  広井 良典 千葉大法経済学部教授

毎日新聞  2010年7月30日(11面)


世界に誇る日本発の政策に


 タイトルを見て奇異な印象を抱いた方がいるかもしれないが、福祉や社会保障の財源として環境税を導入し、それを特に介護に活用しようという提案だ。

 ヨーロッパの多くの国々は、環境税を導入した場合にその税収を社会保障に充てている。デンマーク、オランダなどが先駆け、99年にはドイツも同様の政策を実施した。これはエコロジー税制改革と呼ばれるもので、ドイツの場合、環境税の税収を年金の財源に使い、年金の保険料を引き下げた。


(中略)


 さらにこの改革にはもっと根本的な思想が存在していた。それは「労働生産性から環境効率性へのシフト」という考え方だ。わかりにくく聞こえるかもしれないが、意味は明快である。

 すなわち、昔は人手が不足し、自然資源は十分存在していたので「少ない労働力で多くの生産を上げる」こと、つまり労働生産性が重要だった。ところが今ではまったく状況が変わり、人手は余り(慢性的な失業)、むしろ足りないのは自然資源である。このような時代には、人はどんどん積極的に使い、逆に自然資源は節約するという経済の姿が求められる。

 つまり「環境効率性」が重要になるわけで、それを促す仕組みとして「労働への課税から自然資源消費(環境負荷)に対する課税へ」という改革が行われたのである。


 私はこうした理念に立った改革を日本でも行うべきだと思う。ただしその場合、税収はドイツのような年金にではなく、介護に活用するのが妥当と考える。

 なぜならば、年金制度は規模も大きく(50兆円を超える)長期の安定が必要なので、環境税という変動的なものと結びつけるには問題がある。他方、介護保険の規模は7兆円程度だが、そこに環境税の税収が加われば、低賃金が大きな問題となっている介護従事者の待遇、ひいては介護サービスの質と量をかなり改善できる。これは理論的に言えば、市場に任せると低く評価されがちな介護(ケア)労働を、公的価格により適正に評価することでもある。

 高齢化のフロントランナーで人口減少社会に最も早く移行した日本が、こうした仕組みを導入すれば、間違いなく世界に誇れる「日本発」の政策になるものと確信している。


介護従事者の賃金


 平均賃金が全産業平均の約8割と低く、政府は昨年4月、介護報酬のアップで1人月平均9000円を増額。追加経済対策でも同1万5000円を増やした。民主党は昨年衆院選のマニフェストで4万円アップを掲げ、残り1万6000円の増額を目指すが、今後の高齢社会を担う人材確保にはなお不十分との声もある。




介護は現時点では人間の手を中心に行なわれるものですから、環境にやさしい事業であると言えると思います。まさに、積極的に人を使い、自然資源は節約している事業です。(将来的に機械化されればそうではなくなるかもしれませんが) 

そうした事業である介護のために環境税の税収を用いるというのは、ふさわしい配分なのではないかと思います。そして、介護労働者の低賃金が解消され、人手不足も解決し、介護保険料の引き下げや自己負担の軽減まで実現できれば万々歳なのですけど……そこまでの税収は見込めるのでしょうか?


とにかく介護分野は問題が山積みですので、何らかのてこ入れで状況を改善していくことが急務です。

自己負担の高さや介護保険の利用限度額の縛りなども重大な問題ですが、労働組合としては第一に問題としているのが介護労働者の低賃金です。介護分野は人手不足なのですから、実は市場に任せると賃金は上がりそうなものだと思うのですが、介護報酬の低さが人件費の引き上げを阻んでいます。また、介護労働の専門性を認めず、”家事の延長”と見なす考え方、家事労働への世間的評価の低さがそれを助長していると言えるでしょう。

それでも、ここ数年は介護労働者の賃金を上げるための政策が行なわれてきた訳ですが、介護報酬の引き上げは何ら人件費のアップを保障するものではありませんでしたので、「介護報酬のアップで1人月平均9000円を増額」はまやかしです。介護分野には労働組合がある職場は少ないので、多くの事業所で介護報酬アップ分は賃上げではなく、過去の赤字の補填や設備投資などに回ったと思われます。

追加経済対策」は介護職員処遇改善交付金のことだと思いますが、これは処遇改善を前提としていますので実施されれば確実に賃上げにつながりますが、申請制のうえに制度が複雑で申請を見送る事業所があったようですし、実施している事業の種類によって交付金の率が違うのでどの事業所にも「1万5000円」の賃上げを保障するものではありません。しかも、2009年3月の賃金との比較ということなので、介護報酬アップによって賃金が引き上げられた事業所は早くても2009年4月からの賃上げですから、その分も介護職員処遇改善交付金の対象となってしまいます。ですから、「介護報酬のアップで1人月平均9000円を増額」はここでも相殺されることになり、実質的な賃上げは最高でも1万5000円程度です。

ですから、以前も書いたと思いますが、民主党のマニフェスト、介護労働者の賃上げ4万円を達成するには「残り1万6000円の増額」ではなく、少なくとも残り2万5000円の増額が必要なのです。

環境税を新設して、その税収をすべて介護に注ぎ込むことにでもしなければ実現できそうにありませんね。


介護労働者の処遇改善のためには、これからもどんどん知恵を絞ることが必要だと思います。またこの分野で新しいユニークな提案があればご紹介したいと思います。



2010年9月16日予定の判決日まで、こちらもご支援よろしくお願いします。


緊急報告「爪ケアを考える北九州の会」からのアピール

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10310539150.html


2009年12月18日、第2回公判が行なわれました。「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様から新聞記事をご紹介していただきました。



毎日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5054.html



朝日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5058.html



当ブログでは、2010年6月24日に結審した際のasahi.comの記事をご紹介しています。



福岡爪ケア事件控訴審、6月24日結審(asahi.comより)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10572938282.html



事件の経過と裁判の意義についてまとめた下記エントリーも参考になさってください。


爪ケア事件を看護・介護労働者が考える意義

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10595936190.html