くらしの明日「医療を日本の一大産業に」(毎日新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

”医療を日本の一大産業に”と聞くと、医療観光の推進などが提唱されていることが頭に浮かんで、「そんなものより医師不足や地域医療の崩壊への対策が先でしょう!」と思ってしまうのですが、現場の医師が考えるとそれとは違った視点からのものになるようです。

毎日新聞の毎週金曜日の連載「くらしの明日 私の社会保障論」で、今週は埼玉県済生会栗橋病院副院長の本田宏先生が、医療による雇用の創出や産業の活性化について述べていらっしゃいますのでご紹介したいと思います。引用部分は青で表記します。



くらしの明日 私の社会保障論

医療を日本の一大産業に   本田 宏 埼玉県済生会栗橋病院副院長

毎日新聞  2010年7月23日(10面)


 去る6月29日、長妻昭厚生労働相が視察のために私が勤務する病院を訪れた。目的は医療秘書(クラーク)が多くの事務作業(入院・退院計画書や紹介状、保険診断書の作成等)を担当することで、勤務医の労働環境改善に貢献している現場を知り、人手不足の医療現場が雇用の受け皿となることが可能かどうかを確認することのようだった。


(中略)


 本音を言えば、医療観光を推進する前に、各地で崩壊している日本の医療を救うため、医師を含めた医療スタッフを増員できるよう医療費増を優先すべきだ。しかし、80年代初頭の「医療費亡国論」に象徴されるように、長年経済の足を引っ張る邪魔者のように扱われてきた医療が、まがりなりにも経済発展に貢献できるというポジティブな見方でとらえられるよう方針転換される可能性が出てきた動きは、素直に歓迎したい。


 日本医師会総合政策研究機構の09年5月の発表によれば、医療は他産業にもたらす生産波及効果が他のサービス産業に比べ高く、雇用誘発効果も公共事業より高い。医療、介護、公共事業にそれぞれ税金1兆円を投入すれば医療は51万8000人、介護は62万9000人、公共事業は16万5000人の雇用を誘発すると試算している。失業対策も急務の現在、公的資金2兆円(医療、介護に各1兆円)を投入すれば100万人以上の雇用を創出できる計算だ。

 実際に医療機関を設立し、維持していくには多くの業界と人がかかわる。一般的に病院関連といえば、医薬品や医療機器、検査業界を連想する人が多いが、他にも建設業や電子カルテ等のIT業界、給食やリネン、さらに人材派遣や売店、コンビニ等の販売業に金融やリース……。このように医療は医師や看護師、事務職員等の院内職員だけでなく、幅広い地域や医療関連産業にも大きく貢献している。

 人類がいまだ経験したことがない超高齢社会が、先進国最速で目前に迫る日本。世界は、日本がいかに未曾有の超高齢社会を乗り切るか、かたずをのんで注目している。「医療で経済を活性」というと、いかに外資を獲得するかという短期的な目標に終始しがちだが、超高齢社会に対応する医療・介護・福祉機器、そして社会モデルを実現できれば、長期的にそれらが海外に輸出され、日本が誇る一大産業に育つことも夢ではない。



医療がポジティブなとらえ方がされるように方針転換されるなら、医療観光などの「新成長戦略」も素直に歓迎するという本田先生は心が広いなぁと思いますが……

実際、わざわざ医療観光などに手を出さなくても、病院を運営するために多くの人手が必要となりますので、医療に税金を投入すれば雇用創出の効果は十分見込めると思います。公共事業と違うところは、病院はつくるときよりも維持するために多くの人手が必要なので、継続的な雇用を創出できるというところでしょう。本田先生が挙げていらっしゃる関連産業以外にも、ユニフォームのクリーニング、施設内清掃、特殊廃棄物処理、駐車場の誘導・警備、多くの帳票類の印刷などなど、様々な仕事が派生していきます。

病院運営のためには継続的な雇用の創出が必要であることは明らかなので、ここに適切な処遇のレベルを保障するために税金を投入するならば、安定した納税者が増えることにもなります。安定した消費者が増えることにもなります。そうして税収も上がり、景気にもよい影響が出てくることになるのではないでしょうか。

医療は国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために必要不可欠なものですから、そこに税金を投入することは国の当然の責任ですが、雇用の創出、税収の増加、景気の改善のためにも、医療に税金を投入することは有益だという考え方を広めていきたいと思います。

また、介護は医療ほど関連産業の広がりはないものの、事業費用のほとんどが人件費となるような、人によってほとんどが成り立っている事業ですので、介護に税金を投入することによる雇用創出効果は大きいでしょう。そして、せっかく雇用を増やしても、税金も納められなければ結婚も子育てもできないような低処遇の雇用ばかりを増やしても波及効果は起こらないので、せめて結婚と子育てが可能なレベルに処遇を引き上げる必要があると思います。

逆に言えば、医療・介護の労働者の処遇改善を勝ち取るには、雇用創出が求められている今こそが絶好のチャンスであると言えるかもしれません。




2010年9月16日予定の判決日まで、こちらもご支援よろしくお願いします。


緊急報告「爪ケアを考える北九州の会」からのアピール

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10310539150.html


2009年12月18日、第2回公判が行なわれました。「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様から新聞記事をご紹介していただきました。



毎日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5054.html



朝日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5058.html



当ブログでは、2010年6月24日に結審した際のasahi.comの記事をご紹介しています。



福岡爪ケア事件控訴審、6月24日結審(asahi.comより)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10572938282.html



事件の経過と裁判の意義についてまとめた下記エントリーも参考になさってください。


爪ケア事件を看護・介護労働者が考える意義

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10595936190.html