戦争へ導く「海賊対処法案」の危険性(「週刊金曜日」より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。


まず、お知らせです。
派遣村マニュアルが下記URLからダウンロードできます。


東京 春の派遣村アクション
派遣村実行委員会パンフレット「あたたかい春を迎えるためのマニュアル」

http://www.k5.dion.ne.jp/~hinky/hakenmura/hakenmura.pamphlet09haru.html


埼玉の「過労死・過労自殺110番」は、下記の日程で行なわれます。


過労死・過労自殺110番  埼玉

 2009年6月20日(土)午前10時~午後3時

 電話:048-862-0330(当日のみ)

 主催:埼玉過労死問題弁護団 働くもののいのちと健康を守る埼玉センター



「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様からの情報提供で、次のような相談活動もあります。


http://sankei.jp.msn.com/region/shikoku/kochi/090528/kch0905280246001-n1.htm

6/6 四国生活保護支援電話相談


http://homepage1.nifty.com/rouben/top.htm

6/6 日本労働弁護団 全国一斉労働トラブルホットライン



先日、「海賊対処法案が参院で審議入り(東京新聞より) 」のエントリーの中で、自衛隊派遣と刑法の関係については更に詳しく調べてエントリーを上げると予告しました。それは、今回のエントリーのタイトルになっている「週刊金曜日」の記事のことが念頭にあったからです。この記事は、正確なタイトルは『戦争へ導く「海賊対処法案」の危険性 ソマリア沖自衛隊は兵に続く実質改憲への道』(「週刊金曜日」2009年5月29日付752号掲載)というもので、専修大学の内藤光博教授の寄稿です。「海賊対処法案」が成立すれば、「いつでもどこでも海外へ自衛隊を派遣でき、武力行使も可能になって、事実上の憲法の死文化をもたらしかねない」という危惧について論じたものです。詳しく見ていきましょう。引用部分は青で表記します。



まず、現在の自衛隊派遣の根拠となっている「海上警備行動」について。

そもそもは日本領海に限られるはずのものだということですが、それを置くとしても大きな問題があります。そのことを、内藤教授は次のように書いていらっしゃいます。


 しかもより重大な点は、「海上警備活動」では、自衛隊法九三条の「海上における警備行動時の権限」に基づき、自衛隊員に警察官職務執行法(警職法)第七条の準用による武器使用が容認される。

 この警職法第七条では、「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪」にあたる行為については、「危害射撃」が認められている。これにより自衛隊員の武器使用要件が、大幅に緩和され「正当防衛」と「緊急避難」のほか、「危害射撃」により、停泊命令に従わず「他の船舶への著しい接近等」を行なう海賊船や、民間船に乗り移ろうとしている海賊に対し、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、任務遂行のための武器使用」(船体攻撃)が許されることになった。さらには、相手に対する「先制攻撃」の可能性すらも排除できない。(「週刊金曜日」2009年5月29日付752号p26)


身代金目的の略取・誘拐罪(刑法225条)は無期、又は3年以上の懲役に相当する罪なので、海賊に対しては「危害射撃」が可能というのが政府の考えだということです。そもそもは警察権を持たない自衛隊を、海外に派遣してまで日本の国内法を適用して他国民を取り締まるということに違和感を感じざるを得ないのですが、更に「危害射撃」という警察官の職務執行上の概念を準用して艦船射撃を行なってよいとすることには愕然としてしまいます。


警職法第七条をここに引用しておきます。


警察官職務執行法

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO136.html

第七条  警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

  死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

  逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

特に、第七条の一をよく読んでおきましょう。「危害射撃」は単にそれに相当する罪を犯していると疑うに足る充分な理由がある者であるというだけでなく、その者の抵抗や逃亡を防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官が信じるに足る相当な理由がある場合に可能となるのです。海賊だから当然武器を使用していいという訳ではないのです。
人の命を奪う可能性がある武器使用については、警職法においても慎重であるべきだということを前提としているはずです。拡大解釈は慎むべきです。


また、内藤教授は暫定措置としてのソマリア沖派遣が「海賊対処法」の制定によって恒久化されることの危惧を次のように書いていらっしゃいます。

 ①これまで自衛隊の海外派兵に関する法律では、憲法九条によりその活動が厳しく限定されていた。テロ特措法やイラク特措法は、派兵期間を定めた特別措置法、時限立法として制定されていた。
 ところが「海賊対処法案」は、「海賊対処」に限定されるものの、地理的限定がなく、しかも今回の「海上警備行動」と同様に施行期間の限定もない。このため、政府が以前から提出を狙っている、内閣の一存で世界中どこでも自衛隊の派兵が可能な「恒久法」として、実質的に制定されることになる。
(中略)
 つまり、いずれも「海賊制圧」という目的を達成するまで自衛隊は派兵され続けることになり、武力紛争に巻き込まれる可能性が極めて高い。武力紛争にはまり込み、泥沼化する危険性がある。(「週刊金曜日」2009年5月29日付752号p27)


そして、自衛隊海外派遣の目的が、従来の正当性の根拠であった「国際協力」から変質してきていることも指摘しています。

 ②法案第一条の「目的」に、「外国貿易の重要度の高いわが国の経済社会及び国民生活にとって……、船舶の航行の安全確保が極めて重要」であることをあげている。
 これまで自衛隊を海外に派遣する際の目的は、曲がりなりにも「国際協力」に限定されていた。確かに法案では、「海賊対処行動」に基づく自衛隊派兵の「目的」として「海上における公共の安全と秩序の維持」をあげ、国連海洋法条約の規定する海賊行為の抑止への「国際協力」に対応するものであるとうたっている。
 ところが法案では、「海賊対策」に限定されてはいるものの、このように初めて「国益」を守ることを堂々と打ち出して、そのために地域を問わず世界中どこにでも自衛隊を派兵することを可能にする内容となっている。
 このことは、永久平和主義をうたった憲法前文の趣旨と、「国益」のための海外派兵を厳しく禁止してきた憲法九条の原則が、大きく転換されてしまうことを意味する。(「週刊金曜日」2009年5月29日付752号p27)



続いて、③として保護すべき船舶を外国船にまで拡大していること、④として自衛隊に対するシビリアン・コントロールが形骸化されていることを挙げていますが、そこは省略し、結びの要約部分をご紹介しましょう。

 つまり、要約すれば以下のように言えるだろう。ソマリア沖の「海賊対策」を口実とした今回の暫定的な自衛隊派兵で、まず「軍事行動」と「警察活動」の融合を図り、「正当防衛」と「緊急避難」に加え、船体射撃としての武器使用を可能とすることで、憲法九条一項の「武力行使の禁止」の縛りをついに突破してしまった。「海賊対処」のための武器使用は「警察行動」だから、「武力の行使」にはあたらない――という建前が可能になるからだ。
 さらにそのような既成事実を利用し、「海賊対処法案」でも、「海賊対処行動」をもっぱら警察活動の一環として位置づけ、「警察行動」として「軍事行動」を正当化し、実施する構図となっている。しかも武力行使が可能になった自衛隊の海外派兵が、これまでのような「暫定措置」、あるいは「特別措置」としてではなく、一挙に法として恒久化されるのである。
 これによって、いつどこでも、船舶の国籍にかかわらず、国会にはからずに内閣の一存で自衛隊を自由に海外に派兵することが可能になる。いわば「自衛隊海外派兵恒久法」の制定に他ならず、その先にある憲法九条の改正、さらには海外における自衛隊の武力行使を先取りする危険極まりない動きといえるだろう。(「週刊金曜日」2009年5月29日付752号p27)


このような、日本という国のあり方を根本的に変えてしまう「海賊対処法案」が制定されようとしています。国会の会期延長が確実になり、参議院で否決されたとしても衆議院での再議決で成立してしまう可能性が高いのです。
野党にはこの法案を成立させないために知恵を出し合い、論議を尽くしてもらいたいと思います。そのためには、衆議院では易々とこの法案を可決させてしまった民主党に性根を据え直して取り組んでもらうことが必要です。
なので、「海賊対処法案が参院で審議入り(東京新聞より) 」にも書きましたように、改めて民主党の支持者で尚且つ憲法九条改定に反対である方には、この法案を成立させないための取り組みを民主党に呼びかけてくださいますよう提案します。