東京新聞5月29日11面「消費と暮らし」欄に、「医療をまもる 丹波の「革命」(上)」とのタイトルで、兵庫県丹波市の「県立柏原(かいばら)病院小児科を守る会」の活動が紹介されていました。
転載するには記事が長すぎるので経緯を説明しますと、昨年四月に県立柏原病院小児科の医師が改善されない勤務医不足に絶望して退職を申し出たことをきっかけに地元紙の丹波新聞が若いお母さんたちの座談会を企画し、そこに集まった人達が中心となって「県立柏原病院小児科を守る会」がつくられました。最初は小児科医招聘を求める署名活動を行いましたが、県の担当者に「どこも大変なので柏原病院だけ特別扱いはできません」と退けられ、その後は住民啓発が活動の中心となりました。キャッチフレーズは、「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」の三つです。具体的な行動も起こし、感謝の言葉の寄せ書きを病院に届けたり、ステッカーを作製したり、病気の重大性を見分けるための小児救急の冊子を作製したりしました。その結果として、小児科の時間外診療は前年同期の44%に減少し、逆に受診者の入院率は9%から18%に上がり、軽症の受診者が減少したことがわかります。医師も退職を思いとどまり、今年四月からは二名の小児科医が「丹波で働いてみたい」と志願してきたとのことです。
詳しくはこちらをお読みください。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2008052902013322.html
今日お会いした現場の看護師さんが話してくれたことによると、やはり小児救急に対応している医療機関にとって「コンビニ受診」は悩みの種だそうです。近所の小児科が診療している時間帯にはそちらを利用し、そこで緊急性があると診断された場合に救急外来を利用するようにしてほしい、そのためには地域の小児科との連携が必要だということでした。
柏原病院の事例から学ぶべきことは、医療従事者の苦境を患者さん・利用者さんが理解し、何とかしようと行動を起こしてくれるならば、医療従事者にとって大きな助けになるということと、患者さん・利用者さんの行動は自発的なもので、多くの人から理解と賛同が得られるようなものでなくてはならないということでしょう。
救急外来はいつでもどんな症状でも対応するべきだと思っている人に、同じ患者の立場から「夜にたくさんの人が診察してもらいに行ったら、お医者さんも看護師さんも休み時間を取れなくなって疲れ切ってしまうんだよ。だから、本当に必要な時だけかかるようにしようよ」と言ってくれるなら、医療機関から「コンビニ受診を止めましょう」と機関紙などで呼びかけるよりも理解される可能性は高いでしょう。そして、口コミだけではなく、具体的にコンビニ受診をしなくてもすむような病気の重大性を見分ける資料をつくったということも大事なことだと思います。そして何より、そういった活動が患者さん・利用者さん自身の発想として生み出されたということが重要です。人から押し付けられた考えではなく、自分達で考え出したことだからこそ確信をもって活動することができ、共感も得られたのでしょう。
医療機関の側からできるのは、「こういった問題があります」と発信することで、それに対してどのような行動を起こすかは患者さん・利用者さん自身が決めることです。そしてそれは、これまでに医療従事者が患者さん・利用者さんとどのような関係を築いてきたか、これからどのような関係を築きたいという姿勢でいるのかによって決まるのでしょう。
東京新聞の「医療をまもる」は毎週木曜日の連載で、今回の続きは6月5日に掲載される予定です。