「おねーちゃぁん・・・・・」


「はいはい、どうしたの?」


「頭、撫でて・・・・」


「いいよ」


「ぎゅってして・・」


「ん・・・」


「そーちゃんって呼んで・・・」


「そーちゃん」



さかのぼること30分、総悟の部屋に入った陽は唖然とした

顔を真っ赤にして大きな瞳を潤ませた総悟がこちらを見つめて

「おねーちゃん」


と呟いたのだ


土方は彼女がドン引きすると思っていたが正反対。

陽はパァァっと笑顔になり総悟を抱きしめたのだ


「そーくん・・・・可愛いっ」


「おねーちゃん・・・・」


どうやら総悟は今までの姉不足がさく裂したらしい

陽の肩に顔を埋めて目を細めている


「は、陽・・・・?」


「土方さんっ、そーくんは私に任せてください!!」


土方は今まで見たこともないような陽の嬉しそうな顔に根負けし、自室へと戻った



そして現在、陽は抱きついてきた総悟の頭を撫でている

18歳の男とは思えないような綺麗に整った髪に頬を摺り寄せた



「そーくん、頭痛くなぁい?」


「ん、大丈夫・・・・」


「じゃぁご飯食べよっか」


「・・・・うん」



あまりにも愛くるしい顔で返事をするので、彼女は笑みが絶えなかった

山崎に頼んでご飯を持ってきてもらう

陽に抱きつく総悟の姿を見て山崎は顔を赤くしたが、状況を知るとニコリと笑い部屋を出た



「ご飯1人で食べれる?」


「・・・わかんない」


「じゃぁお姉ちゃんが食べさせてあげる」


総悟はコクンと頷いて口を開けた

陽は白粥をスプーンにとり、彼の口へと移す


「おいしい・・・」


「よかったー」



食べ終わると、お腹がいっぱいになったのか総悟は布団に潜り込んだ

そしてちらりと顔を出し、


「一緒に寝て・・・」


と控えめな声で呟いた


陽は優しく微笑むと布団の中に入る

総悟は安心したのかすぐに眠りにつく



「よっぽどお姉さんに会いたかったんだね・・・・」



彼の唯一の肉親だという姉。

どうやら数年前、武州に残してきたのだという

噂によれば土方の恋仲だったとか



そう思うとなぜか

陽の胸はズキリと痛んだ・・・・・・・・・・・・





「か、風邪ですか・・・・・?」


珍しく休暇をもらった陽のもとに、土方から電話が来ていた


『あぁ。総悟の野郎、風邪しょっ引きやがったんだ』


「そうですか…。わかりました、急いで向かいますね」


『悪ィな、せっかくの休みだってのに』


「いえ、そー君は私の弟みたいな存在ですから」


『ありがとよ・・・・。それと・・・少し問題があるみてーなんだ』


「問題・・・ですか?」


『まぁいい。来てくれたらわかる』


土方はそう言うと電話をきった

いつもはしゃいでる総悟がどうやら風邪をひいたらしい

まるで何時も土方に悪戯をしているから天から与えられた罰のようだ

陽は電話越しにクスリと笑うと黄緑色の着物の上に、深緑の羽織を被った


「銀時、今日は屯所に泊まるかもしれないから戸締りよろしくね」


”屯所に泊まる”という言葉を聞いた瞬間、ソファに寝そべっていた銀時跳ね起きた


「はぁぁぁぁぁぁぁ?!あんなむさっ苦しいところに泊まるなんてお父さん許しませんっ」


「いや、私銀時の子供じゃないし…」


「とにかく!! 泊まるなんて許さねーからな俺は!!」


「でも土方さんが困ってるし…」


陽が土方さんと呟くと、銀時は一層顔をしかめた


「マヨマヨマヨマヨ言うなァァァァァ」



子供のようにじたばたと暴れる銀時に、陽の何かがプツンと音を立てて切れた

・・・・ような気がした

彼女は銀時の前に立つと、ふわふわの天パを掴んだ




「うっさいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」


陽の怒鳴り声は1キロ先まで聞こえたそうだ

久しぶりに見る陽のキレ気味に銀時はオドオドとし始める


「は、陽ちゃぁん?」


「あんた何歳!? こっちは仕事なのよ!そー君が風邪ひいてるの!!駄々こねてる暇があったら仕事の1つや2つやりなさいッ!!!!」


「え、ちょ、あ、すんません・・・・・」


すっかりしょげてしまった銀時を陽は一息ついて見下ろした

そして笑みを浮かべ、今度は優しく頭を撫でる


「1日だけだから。ね? おとなしくしてたらお菓子買ってくるからさ」


銀時は笑顔につられて笑顔になると彼女を抱きしめた


「いってらっしゃい」


「いってきます」




歩くこと5分弱、見慣れた屯所の前に土方が立っていた

時計を見ながらそわそわとしている


「土方さん?」


陽が声をかけると、驚いた顔をしてから薄く笑った


「遅かったから厄介事に巻き込まれたかと思ったじゃねーか」


「すみません、銀時がなかなか放してくれなくて」


土方はその情景を思い浮かべたのかクスリと口角を上げる


「そー君の様子はどうですか?」


「あぁ、それが問題なんだけどよ・・・・・・・」


意味深にため息をつく土方を不思議そうに見る陽にはまだ本当のことを知る余地もなかった・・・・






陽side



「父上ぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」


私の金切声は燃え盛る炎によってかき消される

目の前にはメラメラと輝きながらかつて過ごした家を覆う炎

そして、月に照らされて怪しく輝いている父が私に託した刀



「いやァァァァァアア」



私は自我を失い、後ろから暴れる私を抑え込む銀時の腕を引っ掻く

大小様々な傷がある彼の腕からは薄らと血が流れた


「落ち着け陽!!!」


「離してぇぇぇ!!!」



目が、頭が、胸が、燃える様に熱い

炎の前では、晋助と小太郎と村人が懸命に消火を行っている



「陽!! 俺達は先生と約束してんだ!!」



私の頭は朦朧としてきた

炎にかき消されない程の大声でこちらに呼びかける銀時の顔が歪んでくる





彼が次の言葉を発した時、私は意識を失った


最後に見えたのは、




『陽、貴方はとても優しい子よ。誰にも負けないくらい』


『侍に男も女もないのです。己の魂を突き通す。それが侍ですよ』




懐かしい、母と父の姿だった________________


















「っ?!」



昔の夢を見た

思い出したくない、真っ赤な夢


『絶望』


何度それを味わった事か・・・


私は隣でぐっすりと眠る銀時の寝巻を掴んだ



「大切な人は・・・・、もう失いたくないよ・・・ッ」


静まり返る万事屋に響いた声は、溶け込んで消えてしまいそう

雨が降る


止まない雨が降る


私の心から、眼から、雨が降る



怖い



私は、刀に触れることができない


何も護れない、ただの役立たず



「泣くな・・・・」



眠っていると思っていた銀時が私を見つめる

その瞳は、何もかもを見透かすように綺麗な紅色



「泣くな・・・・陽」


私は自然と彼の胸に沈んだ

大きな胸板でしっかりと受け止める彼は昔を振り返らないのだろうか



「もう、刀なんか持たなくていいんだ。ただ…心の底から笑っててくれればいい。それで・・・いい」



私は銀時の背中に手をまわした

そして、ぴったりと隙間1つつくらない程に抱き着く



『            』



そう呟いた声は君に届いただろうか________