良い波に乗れたのに今度はガン?~アイク・ケベックは負けない | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

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相模の風THEめをとのダンナ

いしはらとしひろです。

 

勝手に妄想ジャズストーリー③

遺作なのにエロいってどういうこと?

~アイク・ケベックのたくましさ 第3話

 

ジャズマン アイク・ケベックは本物のオトコだ!

 

ここまでのあらすじ


古いジャズ喫茶でお茶を飲んでいた僕の目の前に現れた、テナーサックス奏者 アイク・ケベックの霊。ちょうど彼の遺作「ボサノヴァ・ソウル・サンバ」のレコードを聴いているところだった。

亡くなる直前に録音したにもかかわらず、エロさと男っぽさをたたえた不思議な作品。そんなアイクさんが語り始めた。

ドイツからやってきてジャズのレコード会社「ブルーノート」を立ち上げたアルフレッド・ライオンの元でレコーディングをし、ヒットも飛ばしたアイクさん。やがて会社の仕事も手伝うようになり、順調に見えたのもつかの間。

ミュージシャン活動に陰りが出始め、麻薬にも手を出し、あっという間に落ち目になってしまう。

麻薬中毒からやっと抜け出せたある日、路上でアルフレッドと再会したアイクさん、再びブルーノートで仕事をしないかと誘われて………

 

第1話はこちらから

第2話はこちらから

 

「だってアイクは、なんでも気持ちよくやってくれてたじゃないか」

 へえ、そんな風に見てくれてたんだ。

 雲間からパッと日が射した。嬉しいじゃないか。オレはまた、アルフレッドと一緒に仕事をすることにしたよ。

 

 自分の演奏もしたいけど、あいつの役に立ちたかったんだ。

 

   タレントスカウト、レコーディングに関する諸々の手伝いや管理。以前と違って新たに加わったのはレコーディングの時のミュージシャンの送り迎え。つまりは運転手だ。ちょっとした雑用だっていっぱいやったよ。一緒に出荷するLPの検品なんかだってしたしな。

 レコーディング中に演奏的なところでメンバーが壁にぶつかったりすると、ちょっとアドバイスしたりなんてこともあった。

 一般企業に勤めていた経験のあるケニー・ドーハムなんかには「総務部長」なんて呼ばれたこともあったな。まあなんでもやることで、少しは役に立ったんじゃないかな。

 

 ミュージシャンの送迎は意外に面白かった。車の運転も好きだし。

 マンハッタンのどこかのホテルなんかで待ち合わせて、ニュージャージーにあるルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオまで送り届けるんだ。なに、車で30分くらいだからね。

 

 運転手を始めた頃、オレの中では新しい仕事の一つで、別に違和感はなかったんだが、前から知っているミュージシャンの中には「なんでお前が運転手やってんだ」と聞いてくるやつもいたよ。

 そうそう、ルー・ドナルドソンとバンドの若い連中を乗せた時なんかは、若いやつら、最初からオレをただの運転手だと思って、オレにちょっとえらそうな口をきいたんだ。そしたらルーが若いのを、ギロッと睨んで「いいか、このアイクはお前がオシメをしてる頃からな、お前の100倍は素晴らしい音を出してるんだ。口を慎め」

 また、よしゃあいいのに若いのが「じゃあなんで運転手なんかやってるのさ」なんて口答えするもんだから、ルーに思いっきり頭をこづかれてたよな。ははは。

 でも大事な仕事だろ。ミュージシャンのスケジュールをしっかり管理して、待ち合わせ場所を教えて、前の晩は飲み過ぎるなよ、なんてことも言い添えて。で、ルディのスタジオに送り届ける。レコーディング前のミュージシャンはナーバスになってるやつだっているから、冗談の一つも言って場を和ませる。

 これでもなかなか気を使うんだぜ。レコーディングの現場でも、さっき言ったようにやることはたくさんあるしな。楽器やアンプのセッティングなんかも手伝ったし。その日のレコーディングがいい出来だと、オレも嬉しかったよ。

 

 ところでちょいと話が飛ぶが、お前、アメリカの医療費のこと知ってるか?馬鹿高いんだよ。

 日本みたいな国でやってる保険もなくてな。いや、なくはないんだけど、その保険自体も結構高い。当時の金持ちでない普通の黒人で、そんな保険に入ってるやつなんて、ほぼいなかったよ。なんでそんな話をしたかって言うとなぁ。

 

 ブルーノートはジミー・スミスやホレス・シルバーやアート・ブレイキーが売れてたおかげで、順調に伸びていった。オレも忙しかったよ。

 そんな忙しい中、1961年の夏の終わり頃。ちょっと胃の具合が変だったんで、医者に行った。胃は大したことなかったんだけど、肺にガンがあるのが見つかってな。

 でも、当時の大して金も持っていない黒人が、手術を受けるなんて結構大変なことだった。医療の技術だって今と比べたらアレだ。薬とかだって今よりはずっと少なかったろう。

 何度か通ううちに、こりゃダメかもな、と思うようになった。そんなの医者の口調とかを聞いてりゃわかるもんさ。ある日ガンの進行状況を詳しく教えろ、と迫ったら渋々教えてくれたよ。かなりまずい状況で、あと1年持つかどうかって言われちまって。

「でも希望を持っていきましょう」なんておためごかしの言葉は聞きたくなかった。なんだよ、せっかくいい感じになってきたのに。

 家に帰ってひとりで真っ暗になってたよ。まぁそりゃそうだよな、誰だって。

 

 で、アルフレッドに言ったんだ。

 ガンになっちまったから、あんたの役にはもう立てそうにない。仕事もやめさせてくれって。

 アルフレッドはさすがにびっくりしたみたいだった。だがオレの目をまっすぐ見つめて言うんだ。「アイク、君はブルーノートの、いや僕の大恩人だ。今、ここで君にいなくなって欲しくない。治療費を持たせてくれないか?」

「おいおいアルフレッド、気でも狂ったのか?もし手術3回とかになったらどうする?それだけでいくらになる?

 そんな金があったら、いいミュージシャンをさがして、いいレコード作るために使え。いいか、これはブルーノートのA&R担当社員としての、切なる要請だ」

「アイク、いやそれはダメだ。君にもっと生きてもらわなきゃ」

「おい、アル。それ以上くっちゃべると、オレはあんたのことを嫌いにならなきゃいけない。死ぬのは怖くねえよ。それより、そんなことで施しを受けるのがイヤだ」

 アルはしょげかえってうつむいてしまった。

 

 次の日の朝、ポストを見たら封筒が入っていた。アイクへと走り書きしてあるが、住所も書いてない。ってことは郵便屋を通さずに、自分でここまで来てポストに入れたってことだ。しかしこの封筒といい筆跡といい、アルフレッドと言うのは丸わかりじゃないか。

 中を見ると300ドル入ってた。当時の300ドルだからな。結構でかいよ。偉そうなことを言いながら、そいつはありがたくいただいたよ。

 何日かたって、アルから呼び出された。ブルーノートのオフィスに行くと、かしこまった顔のフランシス・ウルフとアルが待っていた。

「アイク。君をこき使うことに決めたよ。ブルーノートは病人をこき使うひどい会社なんだ。いいかね」

 ニヤリと笑うアルフレッド。

 オレも思わず笑っちまったよ。

「ほう、そんなひどい会社は労働監督署に通報しなきゃな」

「ここから君の体調次第だが、どんどんレコーディングをしていく。もちろん偉大なるサックス奏者のアイク・ケベックのだ。アルバムを作ろう」

「偉大なる、ってどこのどいつだ?」

「僕の目の前にマヌケ顔して立っているよ」

「マヌケとは言いやがったな」

 アルを軽くこづいた後は、3人で大笑いだ。

 

 結局、オレの体が続く限り、今までの業務は続けることになった。おう、なんでもやるよ。

 アルはオレのレコーディングを最優先に考えてくれていたようで、レコーディングの前後は、それ以外の仕事を減らしてくれた。お陰でアルバムの構想を練る時間も取れたよ。

 アルに聞いたら、絶対そんなことないって否定するだろうけれど、レコーディングすれば、オレにギャラを払うって事で、名目の立つ金を余計に渡せるし、もしレコードが売れたら、印税ってやつも少しは入ってくるしな。医者代がかさみそうなのはわかってるから、気を遣ってくれたんだろうな。素直に嬉しかったよ。

 

 だからこそ、アルフレッドのためにも最高の音楽を作りたかった。もちろんオレ自身のためにも。

 考えてみたらオレがブルーノートに録音したのは、SPの頃が最初だから、あくまでも一曲単位の録音。2年前にシングル盤用のセッションをしたことはあるけれど、LPが主流になってからは当たり前になっている「アルバム」って言うスタイルで録音したことがなかった。

 と言っても力んだからっていい曲ができるわけでも、いい演奏ができるわけでもない。とりあえず自分にすぐできることとして、空いている時間には、たくさん練習したよ。あんなにやったのは、若い頃、ピアノからサックスに転向しようかなって決めた時以来かも。

 もちろん、かなりの確率で死が近い、って自覚するのは愉快なもんじゃない。でも、ジタバタしてもしょうがないだろ。やれることをやるしかねえ。

まだ、体は動く。できる限りのいい音楽を記録として残しておきたい。オレが死んだ後に誰か一人でも聞いてくれたら、それで良し、と思ったよ。あ、アルとフランシスとルース(アルフレッドの夫人)は除いてだ。あいつらはオレのアルバムを世に出す前に、誰よりも早く聴くはずだからな。

 ここから作るアルバム、何枚できるかわからないけど、さっきは一人でも聴いてくれたらなんてカッコつけちまったが、そうだな100人くらい、ちょっと真剣に耳を傾けてくれたら嬉しいね。これでもかつてはヒット曲なんてのも、出したことあるんだから。ちょっとやる気なんてやつも顔を出してきた。

 

 

 

 

 

今日のお話はここまで。

やっとブルーノートでの仕事も軌道に乗り始めたアイクさんなのに、無情なガン宣告。

ブルーノート社長のアルフレッド・ライオンの温情で「病人なのにこき使われる」ことに。

アルバムのレコーディングも約束され、体とは裏腹にやる気に満ちたアイクさん。

いよいよ次回は最終回です。

お楽しみに!

 

アイクさんがここから作るアルバムも素晴らしいんですよ。

明日はたっぷり紹介できるかな。

 

勝手に妄想ジャズストーリー

①優しさのテナーサックス ハンク・モブレイの物語

第一話はこちらから

第二話はこちらから

第三話はこちらから

 

②グルーヴの権化 グラント・グリーンの物語

野生の緑」はこちらから読めます

 

 

【相模の風THEめをと情報】

相模の風THEめをとの映像はこちらから見られます


11月22日(日) いい夫婦の日
相模の風THEめをと結婚14周年記念ライブ!
久々のリアルライブ+有料配信ライブ

*リアルライブ
相模大野カフェツムリ
神奈川県相模原市南区相模大野6-15-30-2
地図アプリ~「相模大野 カフェツムリ」ですぐ検索できます。

 

この日はお客様の間隔や換気にも気を使いつつ開催
予約限定8名様
18時開場 18時30分開演
価格 3000円+飲食オーダー
ライブは二部制で、途中休憩&換気タイムを入れます。
リアルライブ観覧予約はこちらから
ご予約をいただいた場合は、一日以内に予約確認の返信を致します。

料金は当日精算で大丈夫です。

*有料配信
ツイキャスより配信します。
観覧方法は後日お知らせします。
18時30分より開演
映像はアーカイブとして当日より2週間保存しますので、
当日見られない方も後日鑑賞できます。

 

 

今年になってたくさんできた新曲の数々と、ライブができない間に練り上げたサウンドとネタ(笑)あなたの耳と体がよろこびます。

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