よろこび製造所へようこそ!
相模の風THEめをとのダンナ
いしはらとしひろです。
ご好評いただいている、勝手に妄想ジャズストーリー。
ハンク・モブレイ、グラントグリーンに続く今回の主人公はアイク・ケベック。
1940年代から60年代前半にかけて活躍した、ジャズのテナーサックス奏者。と言ってもちょっと知名度は低いかもしれません。
途中、レコーディングよりもブルーノートレコードのA&Rとして働いている時期もあったり。
骨太で素晴らしいサックスを吹くのです。そして物語にふさわしいカッコいい生き様。書き手の「語りたい欲」を刺激する人でもあります。
40代、まだこれからと言う時に亡くなってしまうのですが、死の直前に吹き込まれた遺作も素晴らしい。
ではお楽しみください。骨太の「男!」素晴らしいテナーマン、アイク・ケベックの物語です。
遺作なのにエロいってどういうこと!?
~アイク・ケベックのたくましさ
勝手に妄想ジャズストーリー③
遺作というものがある。
音楽の場合であれば、生前最後に残した作品、アルバム、となるだろうか。ただ、最後の作品を作って、実際に亡くなったのはその何十年も後、と言う場合は、最後の作品ではあるかもしれないけれど、遺作という感じはない。
その人が現役で活動しているにもかかわらず、その作品を作ってちょっと後に亡くなった場合、と限定して良さそうだ。
特に本人が、「自分は間もなく死ぬかもしれない」と自覚していて作り、そしてそれが遺作になってしまうような場合は、作る方も渾身だろうし、聴く方もそこに「死を覚悟して作ったのだ」ということだけで、涙腺をあらかじめ緩ませてしまったりする。
ウォーレン・ジヴォンの『ザ・ウィンド』やデビッド・ボウイの『ブラックスター』などは、そういう作品だったと思う。闘病しながら、自らの死を予見しつつも最後の力を振り絞って作った音楽。
もちろん音楽として素晴らしいのだから、それだけで充分なのだが、どうしても聴く我々は「死が近いのを自覚していて、それを乗り越えて作るなんて……」という想いや物語を載せてしまう。
しかし、そんな聴き手の過剰な想いを、笑い飛ばしてしまう「遺作」もある。
今時、存在自体が珍しいジャズ喫茶で一人紅茶を飲んでいた。町で買い物をしていて、ちょっと歩き疲れたなぁと思っていたときに、たまたま「ジャズ喫茶 ブルー」という看板が目に入ったのだ。たばこのヤニで茶色く染まった壁。これも今時珍しい。店内喫煙可。
どうやらマスターひとりでやっているこの店の、隅のテーブルでお茶を飲んでいる。僕の知っている曲がかかっていた。ジャズは好きだけれど詳しくはない僕にとっては珍しい。
アイク・ケベックの『ロイエ』。カウンターを見るとアルバム『ボサノヴァ・ソウル・サンバ』のアナログ盤が立てかけてある。ってことは、アルバムのA面は聴けるってことだな。しかし、このジャケットの女の人、色っぽいな。
アイク・ケベック(1918~1963年)
アメリカのジャズテナーサックス奏者。1940年代から活動を開始し「中間派』と呼ばれるスタイルで人気を得る。この頃のヒット曲には『ブルーハーレム』がある。
キャブ・キャロウェイ楽団での活動の後、ブルーノートレコードとミュージシャンとして以外にもA&R、タレントスカウト、運転手などとして深く関わる。セロニアス・モンクやバド・パウエルをブルーノート社長のアルフレッドライオンに紹介したのも、アイク・ケベックである。
1961年から自身のリーダーアルバムの録音も始まり『ヘヴィソウル』『春のごとく』『ボサノヴァ・ソウル・サンバ』などの名作を残すが、1963年にガンにより亡くなる。
『ロイエ』いいなぁ。アルバムの一曲目。サックスの音が、軽く吹いているのに野太いんだよね。音色自体が気持ちいい。
それでさぁ、曲もいいんだけど、ジャケットも色っぽいんだけど、演奏も色っぽいんだよ。いや、はっきり言ってスケベな感じ。サックスパートが終わってギターソロになったら、絶対女のケツ撫でてるね、この演奏っぷりから察すると。
なんてことを考えていたら。
「この席、座らせてもらうぞ」と声がした。
なんだよ、他にも空いている席あるじゃない。というか、はっきり言ってガラガラです。顔を上げると中年の黒人。ハンティングをかぶってジャンパーを肩に引っかけている。
あ、このパターンはひょっとして。
「アイク・ケベックだ。お察しの通り」
うわお。アイクさんのアルバムを聴いているところに、本人が現れるなんて。ハンク・モブレイさん、グラント・グリーンさんに続いて3人目だ。もちろんアイクさんもとっくに亡くなっている。アイクさんの霊がやってきたんだ。
「アイク霊、なんて言うなよ」と言いながらアイクさんは笑う。
このところ立て続けに僕の前に現れるジャズメンの霊は、僕の脳内に直接話しかけてくる。
「わ、わかりました。あの、なんか、飲みますか?」
「そうか、ここはカフェだからな。今、オレの姿はお前にしか見えていないし、声もお前にしか聞こえていない。みんなに見えるようにしていいか?」
「いいと思います。これからあなたと色々と喋ることになるんですよね」
「ああ、そうだ」ってことは、アイクさんの姿が見えないと、僕だけが独り言をべらべら喋っているように聞こえてしまう。
「みんなにも姿を見せて上げてください。そうすれば珈琲も飲めますよ」
「おお。久しぶりの珈琲。じゃあ、皆さんにも姿をお見せしてっと」
アイクさんの姿がより立体的に見えるようになった。声は相変わらず脳内に直接入ってくる。マスターを呼び、珈琲を一つ注文する。マスターは自分の気がつかないうちに、客が席に座っているのをいぶかしく思わなかったのかな。
「日本にはこんな店があるんだな。古いジャズを聴かせながら珈琲を飲ませる店が」
「ええ、さすがに最近は少ないですけど」
「アナログ盤ってのがまた懐かしいな。音もいい音だ」
そうでしょう、日本が誇るべき文化ですよ、これは。
「グラントから話を聞いたんだ。で、オレもちょいと話をしたくなってな」
やっぱり。まぁ、アイクさんはグラントさんとも共演しているしな。
「あいつのソウルフルな音は大好きだったね、オレも」
「ええ、僕も大好きです。ところでアイクさん。今かかってる『ボサノヴァ・ソウル・サンバ』、これ亡くなる直前に吹き込んだアルバムですよね」
「ああ、そうだよ」
マスターが珈琲を持ってやってくる。アイクさんを横目で見ながら「砂糖とミルクはこちらに」と言って、すぐにテーブルから立ち去る。目の前に座っているこの人が、今かかっているLPの主人公だって気がついていないみたいだ。
「そりゃ、今ここでオレの顔が誰か、すぐ分かる奴はいないだろうよ」アイクさんは苦笑いする。
「アイクさんのお話、聞かせてください」
アイク・ケベックは目をつぶって少し考えこんだ。
今日はここまで。
4回連続のストーリーです。
次回は、なぜかアイクさんが運転手をしているところから、物語が始まります。お楽しみに!
勝手に妄想ジャズストーリー
①優しさのテナーサックス ハンク・モブレイの物語
②グラントグリーンの物語
【相模の風THEめをと情報】
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11月22日(日) いい夫婦の日
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*リアルライブ
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ご予約をいただいた場合は、一日以内に予約確認の返信を致します。
料金は当日精算で大丈夫です。
*有料配信
ツイキャスより配信します。
観覧方法は後日お知らせします。
18時30分より開演
映像はアーカイブとして当日より2週間保存しますので、
当日見られない方も後日鑑賞できます。
今年になってたくさんできた新曲の数々と、ライブができない間に練り上げたサウンドとネタ(笑)あなたの耳と体がよろこびます。
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