一方三草山の平家陣営においては議論が噴出していた。

このまま三草山で鎌倉勢を迎え撃って一門に恩を売って平家内部での小松一族の存在感を確保するか
鎌倉勢と和睦して三草山を通らせて院に帰参を申し込むか
との論議がいとまない。
小松一族の中で最も年若い師盛は一門への帰順を強く主張する。
一方最も後白河法皇に最も心を寄せる資盛は和睦を主張する。
他の兄弟たちは固唾を呑んでその論議を見守る。

師盛は言う。
「院に帰参など。我々が都落ちしようとしたとき誰もわれらを院にとりなしてくださるものなどいなかったではないですか。」
資盛は答える。
「しかし、今院の方から我が小松一族に帰参を打診しておられる。
院のお心を信じてみるべきなのではないか。」
師盛は資盛をにらむ。
「では、われらを院にとりなしてくださるものがいるとでもいうのですか!」
資盛は不敵に微笑む。
「それが、いるのだ。」
資盛はそっと文を一通取り出した。

それは彼等の妹または姉にあたる女性からの文である。
その姉妹は甲斐源氏の一人秋山光朝の妻となっている。
「此度の寄せ手の鎌倉勢に甲斐の者達が加わっているのはそなたたちは存じておろう。
その甲斐の者達はわしらとは縁が深い。その甲斐の者達が院にとりなしてくださるそうじゃ。」
一同はその文を奪い合うようにして読む。

「院に帰参しよう。所詮この一門の中にわれらの居場所はない。」
資盛は静かに言う。

その時三草山の陣の周りの色が急に赤く染まり始めた。
三草山の近くで炎があちらこちらにきらめいている。
その炎の数は急速に数を増していった。そして新しい炎は段々こちらに近づいてくる。

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その頃、丹波国に入った源九郎義経と安田義定、そして多田行綱に率いられた軍勢は
土地の案内のものを連れて三草山へと向かっていた。

休息の間義経に土肥実平は耳打ちをする。
「伯〇(老+日 ほうき)国は今大変なことになっているようですな。」
実平はここでにやりとする。
「さよう、都の方々から様々な知らせがいっているようですからな。
今回の御子にお味方された者達は院の覚えめでたからんと張り切っておられるようだ。」
義経が中原親能に命じて西国各所に文を発っさせた。
在地で平家に反抗したものの名を院に奏上するそしてそのお働きは院に奏上されるであろう、とその文には記されている。
ことに伯〇(老+日 ほうき)国で挙兵した院の御子と称する者の活動は活発である。その勢力はいまや伯〇(老+日 ほうき)国半分を押さえ隣国の美作国まで影響を及ぼそうとしている。

院の後ろ盾があれば安徳天皇を奉ずる平家に反旗を翻しても謀反人にはならない。
在地の豪族たちにもそのような計算もある。
反乱は伯〇(老+日 ほうき)国だけではなく西国各所に起きている。
平家に従軍している西国の豪族達も自らの本領のことが気がかりで帰国することを願っているものが後をたたない状態になるのことがたやすく予想される。事実福原の兵は日に日にその数を減らしているという話も聞いた。

在地豪族たちの争いは平家がいる播磨国や丹波国でもあった。
その国における平家の勢力伸張によって平家に近いものたちから圧迫されていた豪族もある。
その豪族達が今回の鎌倉勢の進軍の案内役を買っている。

休息も終わり義経たちは三草山を目指す。

その行軍は夜を徹して行なわれた。

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敵の主力が来るであろう生田口にはもっとも多くの兵を備えさせる。
その兵を指揮するのが総帥平宗盛の弟知盛と重衡。
他に一の谷口と山手口からも攻めてくることが予想される。
一の谷口は故清盛の弟忠度、山手口は清盛も弟教盛の嫡子通盛が大将軍となることと決した。
そして東から一の谷口、山手口をめざして来るであろう道の要衝にある三草山にも
進路を塞ぐべく兵を置くことにした。
その三草山には宗盛の異母系重盛の子らが当たることとなった。

二月四日福原において故清盛の法要が行なわれた。
その法要が終わるとすぐに臨戦態勢がしかれ将たちは残っている兵を率いて各配置場所へと向かう。
安徳天皇と三種の神器は海上に浮かぶ御座船へと移され、海上で宗盛や教盛らに護られることとなる。

小松一族と呼ばれる重盛の子らも三草山に向かった。
その小松一族の中には不満がくすぶっていた。
父重盛の生存中から清盛やその妻時子そしてその子宗盛とはあまりうまくいっていなかった。
重盛がなくなる頃にはその亀裂が決定的なものになっていた。
だが、それでもなんとか一門に合わせる努力をしていたがどうしても時子たちと溶け合うことが出来ない。
平家の都落ちに際しては平頼盛が行なったのと同様に都に留まりたかった。
だが後白河法皇との接触がうまくいかずやむを得ず一門と行動を共にする羽目になっった。
そのような状態であるから平家一門の中での小松一族の孤立感は深いものがある。
そこへもってきて今回三草山へ行けと言われた。
福原からは離れた場所にある。
この場所が彼等の孤立感をさらに深めた。

宗盛からは無理しなくても良い、敵の足止めをして時間を稼いでくれればそれで良いと言われた。
しかし、この場所は真っ先に敵と戦わなくてはならない最前線である。
主力は知盛らが率いる生田口に付けられ、小松一族の郎党以外あまり兵も付けられていない。ここを落とされたら敵に囲まれて自分たちは殲滅させられてしまうという恐怖感も起きている。

━━ 我々は捨石にされた。
密かにこのような想いを抱く。

そこへ一通の文が来た。
資盛宛てである。
後白河法皇からの文であった。
資盛はかつて何度も法皇の夜の床に召された。
その恋情は未だに冷めやらない。

その法皇からなにやら記された文が来たのである。

資盛は食入るように文を見つめていた。

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