美味しい、と聞いてじゃぁって財布の紐をどこまで緩められるでしょう?自分はそう舌が肥えてる方じゃないと思っていたので、例えば100円寿司とちゃんとした板前さんが出してくれる寿司の違いはわかっても、寿司屋の良し悪しがわかる事はあるまい、と思っていました。が。この店を知ったら最後、お金出して寿司食う時に躊躇するようになりました。良くわからない寿司に5回お金払うより、この店の暖簾を一回くぐる方が私にとっては遥かに幸せだからです。
お店の名前はあら輝。年に一度は何が何でも行きたいお店です。故あって余り多くのお客様をとりません。本当に心から寿司という食を愉しんでくれる人と万福の時を分かち合う事を大切にされているお店です。江戸前の握り寿司と質のいい御酒を少々、寿司ネタをアレンジしたあてをひとつまみ。それだけを頑固に護るとても気風のいい大将が出迎えてくれます。
仕事の都合で1時間も遅れてしまったのに苦笑しつつ迎えて頂き、まずは青森であがった平目とキモ、小あわびの柔らか煮、タコの旨煮。あおやぎは仄かな潮の香が上品で身の橙色がなんとも優美。ぴんと立った角が凛とした貴婦人のようでしなやかな見た目と柔らかで淡白な味が上品です。雲丹は根室の産。甘くて豊かな味が舌の上でミルキーにとろける心地好さ。
けれどなんと言っても絶品は鯖。昆布〆して軽くあぶってポン酢といりごまと青ネギが添えてあるのですが、昆布の味を殆んど感じさせないけれど生臭身の全くない、鯖の味120%増量!と言う感じの絶妙さ加減。ぱりっとしたごまとあぶり具合がまたぱりぱりもの好きの私にはたまりません。
頃合良く御酒を楽しんだ所で握りに移ります。白身は淡路島の鯛。しっかり歯ごたえと柔らかさがあいまって、瀬戸内出身の私にも大満足の逸品。マグロ赤みのしゃきっとした感じは赤みと中トロの丁度際の所、今評判の美味しい部位と言われています。続いてでた中トロのぽってりした甘味と脂身感が尚更一つ前の赤みの美味さも再認識させる、小憎い演出でした。そう来れば最後は大トロ。大トロというと下手な所ではあまりに重厚すぎておなか一杯もう結構、になるのですが、ここの大トロはたっぷりとジューシーなのに全く胸焼けしない美味さなのです。
今回のヒットは白子のあぶりでしょう。表面香ばしく中はとろとろにミルキーな白子にさっと醤油を塗って。これもしつこくなくてとろけるよう。続いて車海老は茹で上げの鮮やかな赤と歯ごたえのあるぷりっとした身が素晴らしい。白いか、こはだ、小柱がまたコリっとしていて小気味良い切れ味でした。
江戸前寿司らしい貝の煮物は今回浅利。普段のハマグリより少々濃い目の味付けが浅利の砂臭さを消して美味しかった。それから漬けと私的好物の焼き穴子。おまけでもう一度鯖といかを頂きました。
さて、これに一体いくら出しますか?(笑)
実はこのお店、以前は「えっ?いいの?」と思うくらいお安いお値段でした。今は事情があってお値段上げたのですが、いや、これで妥当だよと思うくらい美味しいお寿司なのです。ただお寿司が美味しいだけではなく、大将の人柄、寿司にかける熱意、愛情がとても居心地のいい空間を作ってくれています。その全体にこの値段なら惜しくない、と自分で思えるから財布の紐が緩むのです。
商品やサービスもそうですよね、安かろう悪かろうと買う人はどこかで思っています。この値段ならこれだけの内容を期待できる、その価値があるとおもわれれば、高くてもその商品はきっと売れるでしょう。そう言うサービス、商品を提供できるようになりたいものです。
今回1時間遅刻をしてしまったお陰で、お店にご迷惑をかけてしまいましたが、運良く後の部に余裕があったので結構遅くまで居座ってしまいました。お陰で後の部にいらした方がお土産にもっていらした絶品からすみのおすそ分けに預かってしまいました。今年はボラが不作でこれだけのサイズの物はなかなかない、と一見で口にしながら、口に入れた途端、全ての人が一瞬思わず「かーっ!美味い!」と膝を打ってしまうようなシロモノでした。遅刻したお陰でお相伴に預かれたとなんとも運のいい話でした。年末に最高のプレゼントを頂きました。大将、お隣のお客様ありがとうございました。