さて、この『駅』を作文の視点で歌詞を読んでみようという試みです。作文の視点というのは、記述を
{物・出来事・行動} {感覚・認知} {感情・思考(思う)} {思考(考える)}
見覚えのあるレインコート 黄昏の駅で胸が震えた
早い足取り紛れもなく 昔愛してたあの人なのね
ここは、
物「レインコート」⇒ 感覚「胸が震えた」⇒ 認知(まだ感情・思考ではない)
の記述になっています。「あのひと」とわかる前に「胸が震えた」が書かれているところが味わいです。
『え?』となる⇒胸が震える⇒ガン見する⇒あのひととわかる
という心情の流れが時系列に沿ってきれいに描写されています。
ここは一歩間違えると、「昔愛していた彼を見かけたから胸が震えた」と、『原因-結果』で記述してしまいそうです。これは説明にはなっているのですが、心理的な流れとは逆の記述になるので、かなり違和感があります。
仮に、『胸が震え』なかったとしたら、レインコートの人は『どうでもいい人』になってしまうわけで、『あの人』はこの場面で登場すらしなかったと思われます。だから、あえて言えば、『胸が震えたからあの人』なのです。
さらに、この登場の場面で「黄昏の駅」という場所情報と時間情報をさらっと盛り込んだのもすごいです。そうか、ここで言うのがいいのか。
「見覚えのある」は前振りとして、歌詞の冒頭で聞き手の感情にフックを掛け、「昔愛していた」で回収している感じでしょうか。
<サビ1>
なつかしさの一歩手前で こみ上げる苦い思い出に
言葉がとても見つからないわ
貴方がいなくてもこうして 元気で暮らしていることを
さりげなく告げたかったのに
続くサビ1は、『認知』から『情動』『思考』へと記述が進んでいます。ここで一旦、Aメロ1+サビ1でまとめると、ほぼ
モノゴト・行動⇒感覚⇒感情⇒思考
の流れで綴られています。この緻密な表現で、聴く者の気持ちを一気に引き込んでいます。さだのおかはすごいと思うのですが、どうでしょう。
続けましょう。
<Aメロ2>
二年の時が変えたものは 貴方のまなざしと私のこの髪
それぞれに待つ人の元へ 帰っていくのね気づきもせずに
モノゴト(客観情報)です。どう回収される、又は読み手が回収するのでしょうか。
<サビ2>
一つ隣の車両に乗り うつむく横顔見ていたら
思わず涙あふれてきそう
今になってあなたの気持ち 初めてわかるの痛いほど
私だけ愛してたことも
サビ2は、
行動「乗り」「見ていた」⇒ 感情「涙があふれそう」⇒ 思考「わかる」
という流れで、ここも同様の流れで非常にキレイに記述されています。かくして、歌詞のクライマックスはこの「わかる」に着地してくるのです・・・が・・・
解釈に関しては項を改めましょう。ここでは、以前書いた『もう試験に出ない小論文』
との不思議な符合を見てみましょう。
お孫さんは「風が吹くから木が揺れる」と解釈したわけです。常識的には「木が揺れるから風が吹く」なのですが、これ、『あの人だから胸が震えた』と『胸が震えたからあの人』の関係に似ていませんか?
以上、『作文』としての視点で見てみました。解釈はまたあらためて。