ルイスは2003年版の自伝の中で「片翼のエンジンを失った場合には、もう片翼のエンジン出力を上げるのではなく、下げると機の傾きを修正できる」と書いています。もっともらしい響きの内容なのですが、これもはやり「見事にデタラメ」なのです。4基のエンジンのうち、左翼の2基エンジン共が停止した場合、生きている右翼エンジン2基の出力を落とせば、高度を保つことができず、海へ堕ちていってしまいます。「パイロット訓練マニュアル」に記されている正しい対処方法は次の通りです。生きている翼側の内側エンジンの出力と回転を若干「上げ」、外側エンジンは逆に若干「抑える」というものです。そうすることにより、機の左側への偏向を修正可能なのです。ルイスザンペリーニという人物は、言うことが「一から十までデタラメ」なのです。デタラメさにおいては「ミスターパーフェクト」と言えるかもしれません。
今回もプロペラフェザーについての話です。2003年版ルイスの自伝とアンブロークンでは、航空機関士が、いきなりフェザーボタンを押したことになっています。しかしながら「B-24パイロット訓練マニュアル」を参照すると、上の二番目の絵の通り、フェザーボタンを押すのは正操縦士の役割になっています。航空機関士には、コックピットの外で別の役割があるのです。面白いことに、映画版「アンブロークン」では、若干、ここの描写が「修正」されています。正操縦士と副操縦士は席を交代していませんし、航空機関士も、フェザーの手順を正しく行っているように見えます。映画版の製作スタッフは、ここでのルイスとローラの話が「デタラメ」であることに、気付いていたということになります。(映画でも、間違い、デタラメが満載ですが)
今回は「航空機関士がいきなりフェザーボタンを押した」というルイスの「デタラメ話」です。プロペラのフェザーというのは、間違ったプロペラをフェザーにした場合、墜落の危険性があるので、非常に慎重に行われる作業です。「B-24パイロット訓練マニュアル」を参照すると、上の2番目の絵のように「危険を回避するための手順」が設けられています。まず、該当エンジンのスロットルレバーを引き戻して、出力を落とします。この際、間違ったプロペラをフェザーにすると、すでに停止しているプロペラに加え、同じ翼の、もう一つのプロペラ出力が落ちるため、飛行方向の偏りが大きくなります。そのため、その時点で、間違いに気づくことができます。ですので、まず、該当エンジンのスロットルを戻して、確認作業を行った上でフェザーボタンを押すという手順が定められています。ルイスの「デタラメ話」においては、航空機関士が「いきなりフェザーボタンを押した」ということになっています。しかしながら、いくら新人航空機関士であっても、搭乗員11名の中で、機体のメカニズムに一番詳しいのが航空機関士なのです。ルイスの話は、あり得ないと言ってよいでしょう。ちなみに、1956年版のルイス自伝では、航空機関士がフェザーにする前に2番エンジンが停止したという話になっています。「航空機関士のミス」という話になったのは、2003年版のルイス自伝からです。どこまでもいい加減な話なのです。
2003年版のルイス自伝とアンブロークンの中では「飛行中、正操縦士と副操縦士が席を交代した」ということになっています。これは1956年版の自伝の中には無かった話です。ルイスとローラは、その理由として「副操縦士が正操縦時としての経験を積むため」としています。しかしながら、B-24のコックピットというのは「並列複座式」であるため、正操縦士席、副操縦士席のどちらでも操縦できるようになっています。したがって、飛行中に席を交代しても意味がないのです。副操縦士が正操縦士としての経験を積むということであれば、「離陸、着陸を含めた、任務全体を通しての役割の交代」でなければ、意味がないのです。ということは、やはり、この話もルイスとローラのデタラメということになります。
ルイスの虚言癖が良く表れているのが「墜落時の状況」についてのルイスの話です。米軍爆撃機B-24については、調べれば「ルイスの話が本当かどうか」を確認ができるので、ひとつひとつ確認していきましょう。まず、「グリーンホーネットはジャンク機だった」というルイスの話の真偽です。文林堂「世界傑作機B-24リベレーター」を調べてみると、B-24Dの出荷日は、サンディエゴ工場では1942年5月から。タルサ工場では同年7月から。となっています。ルイスの乗っていたB-24D「グリーンホーネット」の墜落日は1943年5月27日です。計算すると、「グリーンホーネット」は「出荷後1年未満」の「新しい機体」であったことが確認できます。したがって「ジャンク機だった」というルイスの話は、全くの「デタラメ」であることがわかります。
ルイスは、墜落の際に命を落とした戦友、航空機関士についての悪口も言っています。1956年版の自伝ではエンジン不調のみを墜落直接の原因としているのですが、2003年版の自伝では、「青二才の航空機関士が、気負って間違ったフェザーボタンを押し、2番エンジンが停止し、墜落した」という話に変わってしまっています。これも「明白なデタラメ」です。まず、フェザーボタンを押すのは、航空機関士の役割ではなく、正操縦士の役割です。また、フェザーボタンを押す前に、該当エンジンのスロットルレバーを戻すプロセスがあるため、「いきなり、フェザーボタンを押す」ということはありません。そもそも、航空機関士には、プロペラをフェザーにする際には「コックピット外で、他の役割」があります。そして、何よりも、経験不足とはいえ、その爆撃機の技術的な事に関しては、搭乗員11人の中で、航空機関士が一番詳しいのです。「フェザーボタンを間違って押す」という行為に関しては、「一番あり得ない搭乗員」こそが、航空機関士なのです。ルイスの話を精査すると、何ひとつ「事実と確認できることがない」のです。