「今日も一日疲れた」


なんて


アタシが言えるようなことじゃないけど


ふと口に出した言葉で


体の怠さが一気に増した気がした


真っ暗な夜の街を


自転車を押して歩く


「なんか、」


———孤独、だな…


暖房でほ照った体を


冬の風が少しずつ冷ましていく


(…………あ、)


暗闇の中にぼんやりと浮かぶソレは


「自動販売機、だ」


なんかちょっとテンション上がったかも、


なんて思いつつ自転車を押しながら駆け寄った


「わぁー…!」


おしるこ、コーンポタージュ、ココア…


でもやっぱり、


「蜂蜜れもん……!」


あった、


なんかテンション上がる


だが私のテンションは一気に急降下することになる


「………?」


値段の下に表示してあるソレ


「うわぁ!」


売り切れ、とか…


(ほんと、)



ついてないなぁ……


ため息をつきながら仕方なくココアを購入


「…………」


久しぶりの甘い感覚が頭をクラクラする


口に残る甘いそれが少し気持ち悪くなった


(やっぱり、蜂蜜れもんがよかった)


いまさら後悔しても遅い訳で。


仕方なく残りを一気に飲み込む


(甘、ったるい…)


お茶か何か買ってしまおうか、なんて衝動にかられつつもせっかく買ったんだもん


ココアに失礼だ


しん、と静まり返った暗闇に


コツリ、誰かが歩く音がした

その音にほんの少しの恐怖を覚えて


(……早く、帰ろう…)


自転車を押しかけたその時————


「……お嬢サン!」


「…………?」


突然に振り返る先には


「もったいないなぁ…そんな乱暴な飲み方…」


自動販売機に照らされてようやくその姿が確認出来た

黒いパーカーを羽織った茶髪の男


(なんか、



やばく、ない…?)


「あ、の」


「蜂蜜れもんがよかったの?」


「いや、あ、の」


「ココア、可哀相ジャン」


「………」


なんで私は知らない男に説教されているのだろう


しかも初対面なのに


なんか、ムカつくな…


確かにココア可哀相だけどさ!


「(……やばい、ほんとに殴りたくなってきた)」


「ケータイ、まさか電源落としてんの?」


「……え?」


「やっぱりねー」


その人はクスリと笑うと私の方を向き直した


「メールも、電話も繋がんなかったから」


もう一度笑みを見せた男


その瞬間、


私の脳裏に浮かんだ映像


——ソレは……



ココアにうるさい


綺麗な顔立ち


慣れたような喋り方


人を馬鹿にしたような笑み

ケータイを切っている事を知っている


———はっきりと解った


(まさ、か)


「思い出すの、遅いよ」


少し高い声


「何その顔」


笑いながらもはっきりと聞き取れる声


「鶴葉サン?」


私を呼ぶ、


あの大嫌いな声


「———栗稀」


「久しぶり」


「会いたくない」


自転車を押して帰ろうとしたその時——


「ケータイ、電源つけて」


「……っ?」


思わず振り返ると


ココアを手にした彼


「ケータイ、つけて」


「………」


「つけろよ」


栓が開く音がした


「…………なんで、」


「いいから、つけてみて」


どうやらもうそれを飲み終わったらしい


仕方なく電源をつけるとぽつり、と浮かび上がった


【メール受信 1件】


たった1件のメール


開くのを躊躇っていると


缶を投げ捨てる音がした


「…………っ」


[sub:







これで、終わり ]


一通のメール


たった一文


「今日は、鶴に言いたい事があってきたんだ」


振り返ると淋しそうな顔をした彼


「何このメール」


「そのまんまだよ」


「………?」


「鶴葉、


これでおしまいにしよう」

——この言葉を聞いた時、何故か


苦しくなった。
自分の記憶では
付き合った回数計4回
騙されない
絶対、アイツには

もう2度とアイツに
恋なんてしない







【第1章*立場逆転】

「ほんっとリア充爆ぜろって感じですよねー」

こんなこと言えるのは非リアの特権だと勝手に思い込んでいるのは私、黒瀬 鶴葉だ

「鶴ちゃん、ここでそういう事言うのやめよっか…?」

…そうだった

ここは学習塾

私としたことが…

「でも、そう思わない?秋くん」

「ええ、俺も思います。本当、爆発すればいいのに」
「秋くんまで…」

正論をありがとう、秋くん
そんなことを言っているがここは一応学習塾

秋くんこと秋斗は先生のハルを挟んで隣にいる

「でもさ、鶴ちゃん彼氏いそうだよね!可愛いし」

「…いましたけどね」

「えっ!?いたの!?あれだけリア充爆ぜろとかいってたくせに!?」

「最悪な奴でしたけど」

そう吐き捨てたあと秋くんが爆発すればいいのにと言ったことを私は聞き逃さなかった

突然だった

秋くんがハルと過去進行形の英文について悩んでいるときだった

机の下

置いてある鞄を取ろうと手を伸ばしたとき

あらかじめサイレントモードに設定されていたケータイ

そのディスプレイに表示されていたのは

[maron-inform@×××.ne.jp]
「………」

検討はついた

私にメールしてくる物好きの奴などアイツしかいない
見つからないようにメールを開こうとすると…

「ケータイ禁止」

びくり、

上から声がした

「し…室長…」

口は笑っているが明らかに目が笑っていない

…怖

「ハル先生、鶴ちゃんサボってますけど」

苦笑いのハル

「すいません…」

急いでケータイをしまった
「鶴ちゃん、勉強しようか」
「はい…」

「確かに君は頭がいいけど気を抜いては駄目だからね」

「はい…」

「ハル先生、ちゃんと見てくださいね」

「は…はい…すいません…」
ハルは俯きながら答えた

「じゃあ、秋くんも頑張れな」

「……うっす」

そう言うと室長はその場から離れた

「…ハル、絶対あの室長ドSだよね」

そうこっそりと伝えた

「そ…そんなことないよ!」
授業中だから声のボリューム下げろって言ったのだれだよ

想像以上の音量

しかも立っちゃってるし

ハルは皆から視線が向けられていることに気づいたのか顔を真っ赤にして座った
「……と…とにかく水城室長はそんなんじゃないから…っ」

「(…動揺しまくりですよ、先生)」

プリントを印刷しに席を立ったハル

秋くんと私は確信した

「あれは絶対だね」

「ですね…しかも否定してましたからね、ハル先生」
「…リア充だな」

「完全に」

ふとハルを見ると真っ赤な顔で室長と話していた(話しているというよりはいじられているという感じだか)

秋くんと話していた

ハルは絶対室長と付き合っているのではないかと

だが今回の事で確定した

「「(リア充決定だな)」」

そんなことをお互いに思っているとハルが顔を押さえながら帰ってきた

「ハル、どうしたの」

「ななな…なんでも…ない」
明らかに何かあっただろ

そんなの目線を送っていると

動揺しまくりのハルは

「な…っ、何…!?」

「…プリントは?」

「…………」

すっかり忘れていたらしい
「……ハル、ドンマイ」

上から目線で声をかけてやった

こんなことをやっている私も相当Sなのかもしれない
なんて思った

涙目で俯いているハルに秋くんは

「先生、もう時間過ぎてるんで帰っていいですか?」
さらなる追い討ちをかけた

あの後

ハルの返事を待つ前に秋くんは席を立ちそのまま帰宅した

それを見てしまった室長はハルを虐め、

その隙に私はタイミングをみて塾を出た

例のメールを開いたのはそれから数時間後の話だった
「俺、誰だかわかる?」

一人、受信してからずいぶん時間が経ったメールを読み上げた

わかってる

わかってる

このメールを返してしまったら

たぶん、

きっと、

また私は繰り返しそうで…
「(…無視、無視)」

ケータイを閉じた

「…………」

閉ざされたケータイを見つめる

「……………」

…無理

気づいたら手にはケータイ
お人よしらしい私にはこんなこと無理だ

「………」

打つのにためらった

でも……

「………」

ささっと打ってケータイを閉じた

「(…無愛想だったかな…「知ってる」だなんて)」

そんなことを思っているとディスプレイに[受信完了]の文字が映った

「………」

「…そっか」

なんだよ、そっかって

…………

うん、そう二文字だけ打ってケータイを閉じようとすると

また[受信完了]の文字

「(…速)」

「……あー元気?」

なんだよ、

その内容がないメール

通信料の無駄だとは思ったもののやっぱり無理だった
「元気」

「そっか」

「何?」

「え?いや…別に…」

「じゃあさよなら」

「え!ちょっと待って!」
「…何?」

「…好きなヤツいる…?」
「…は?」

「あのさ」

「…」

「もし俺がまたお前の事好きって言ったらどうする?」

……はい?

何言ってるんだこの人は
まだ繰り返すというの?

また私を苦しめるの?

「どうもしない」

せっかく消えたと思ったのに

どうしてまた…

なんで

なんで

なんで私につきまとうの

[受信完了]

ディスプレイに映された文字

やめて

やめて

やめて

「俺、まだお前の事好きなんだ」

知らない

だから

(なんなのよ…!)

「言いたいことはそれだけ?」

「お前は?」

「何が」

「俺の事好きかって」
知らない

本当の気持ちなんて

知らない

知りたくない

再び流れる受信音

「(………)」

「なぁ………

教えてくれよ

……………鶴葉」

脳裏に焼き付いた淡い記憶
忘れたはずが

今、思い出す

(…………っ)

いやだ…

嫌だ…

イヤダ…

ケータイの電源を落とした
メールの返信なんてしないで

「もう……付き纏わないで」
アイツなんか

「嫌い」

——数回か繰り返した

アイツとの付き合いには

恋愛感情なんてない

愛なんてなかった

ただ、

お互いの孤独感を消すための

憎く

無意味な

言葉だけで表せられる

そんな恋

もう、

騙されない。

今、しっかり心の鍵を掛けた
*10

『結華……?』


—————
「あの、」


「はい?」


「何組ですか?」


「C組ですけれど…」


「よかったあ…!あの、教室何処か分かりますか?」

「…階段を上がって突き当たり右、はじから3つ目の教室です」


「………上がって…突き当た、」


「アハハ……」

「……?」


「すいません、あまりにもおどおどしてたんで」


「……酷!」


「すいません、あの、一緒に行きますよ」


「ほ…本当ですか!?」


「だって、このままじゃ着きそうもないし」


「あ、ありがとうございます!」


「棚瀬 結華(タナセ ユイカ)です!結華って呼んでくださいっっっ!」


「千尋です」


「千尋、くん」


「はい」


「よろしく、お願いしますっっっ!」


「こちらこそ」


事の始まりは


4年前の事


ちょっと蕾が多い桜の下


何気なく出会った


「棚瀬 結華」


これは


俺が高校に入る3年前の


ほんの少し


不思議な話


--------------------


「……結華?」


何で


「ヒロ、くん…か」


懐かしい


[久しぶり]


チャラー♪


[返信きたぁ…!^^メアド間違ってなくてよかったあ^-^]


[めんどくさいから変えてない。何かあった?]

チャラー♪


[高校変わっちゃったし元気かなぁーって!]


[そっちは?]


チャラー♪


[結は元気だよーっ^^]


[こっちも同じく]


チャラー♪


[相変わらずメール短いね^^]


[うるさい]


チャラー♪


[本当のこと言っただけですー(○`ε´○)=3]


[……悪かったな]


チャラー♪


[あのね、ちょっと言いたいことがあったんだけど]

[用件は?]


チャラー♪


[結ね、]


「……は?」


チャラー♪


[ゴメン!間違えてまだ打ってないのに送っちゃった(:_;)!]


[…………]


チャラー♪


「返信はや、












………え?」



関係ないですが、今年一年ありがとうございました!
*9

「おーい、千尋?」

2階からおりてきた兄貴は上機嫌で鼻歌まで歌っている

『…何』

「甘い物ある?」

『何で』

「お姫様がまぁ、随分可愛くおねだりしてきたんで」
『ねぇよ』

「やっぱり…、買ってこいよ」

『……は?』

「頼む!」

『パシリとかまじ最低、何?俺の事虐めたいわけ?うわぁまじないわ。最低、最悪。まじないわ、うわぁまじないわ』

「わかったから!もういい!!」

『先輩連れてLu.liaにでも行ってくれば?』

「Lu.lia?」

『最近出来た、駅前の』

「あー!ナイスアイデア!千尋、ナイスな!」

『ぱしるなよ、人を』

「普段ぱしられる側の人間なんで!」

『はいはい』

普段ぱしられる側…か…

今家にいる兄貴は化粧もしてないし唯一違うとしたら髪の色が前より茶がかっているが素の兄貴だ

だがテレビに映る「栗稀」は兄貴ではない、ただの知らない人にしか見えなかった
……何か、

『…大変だな』

「は?」

『いや、何でもない』

「大変だと思うならいたわれ、お兄様を」

『(聞こえてたのかよ)』

『…いたわるわけねぇじゃん、阿呆』

「千尋口悪い」

『うっせ』

「…栗……?」

「鶴?」

「どしたの?遅かったから…」

「あぁ、ゴメン…!大丈夫」
「そう?あれ、弟くん、」

「鶴、出かけるか」

「何処に?」

「る、る…」

『あれ、[Lu.lia]リアル、ね』

「あ、リアルっつーの?」

「あ!あそこ?」

「鶴知ってんの?」

「うん紗々良(ササラ)と行ったの」

「サラ?」

「うん」

『…さっさと行ってこい』

「千尋、きっつ~」


「アハハ、じゃあね?弟くん」

『兄貴、宜しくです』


「任せといて!この人の扱いはなれてるから」


「鶴葉、やめてください、」
『じゃあ先輩宜しくっす』

「はーいっ、行くよ栗さん」

「千尋、留守番よろ」


『……はいよ』

……パタン

『(……は、あ)』

[受信完了]

『メール?』

カチ、カチ

[From:結華]

……まさか

カチ………

[久しぶり、ヒロ君]

『結…華……』
*7

「あのバカ兄貴っっ!」

ヤバイ

ヤバイ

ヤバイって!!

だって……

だって……!

「兄貴……っっ!」

「ん?」

「は…」

今目の前にいるのは、

「え、何?鶴葉かと思った?」

「………、」

「ははは…残念、宅配」

「ごめんね~お兄ちゃん」

「い、いえ……」

何故謝る、宅配のおじさん
「では、失礼します。ありがとうございました~またよろしくお願いします」

「ありがとうございました~」

ガチャ、パタン

「アハハ…千尋笑える」

「……うっせ」

「てか何で呼び止めた?」

「……自分の部屋行ってみろよ」

「はぁ?何で…、」

「………」

「ナイス、千尋」

「片付けろよ」

「お前に言われたくないな~」

「先輩にフラれても知らねぇから」

「………」

「ほら、手伝ってやるよ」

「ありがとう!弟よ!!」

「そのかわり、10万、な」
「は!!?」

「……フラれていいんだ。」
「…っ!わかった!わかった!そ、そのかわり、1万でご勘弁を!」

「……ッチ、わかったからさっさと片付けろよ」

俺は何故兄貴の為に片付けなんてしているのだろうか。

その答えを知るものには

まだまだ時間がかかることを、知らない

「…お人よし」

「……?」

そう、すれ違った誰かに言われた気がした、

ような気がした。

*8

「お邪魔します」

「ん」

なんだよ、「ん」って

「弟くん、お兄ちゃん借りるね?」

「あー返却しなくていいんで、持って帰ってください。」

「ちょ千尋最悪!」

「アハハ、仲良い」

「鶴葉!ほら、行くよっ!」
「じゃあ、弟くん」

「はい」

……

「キャラメル色のワンピにフリル、ねぇ…」

「うっわ!ちょ、優莉行きなり出てくんなよ、つか何でいんだよっっ!!」

「…は?相変わらず失礼ねー!近所何だから良いでしょ!?てか鶴葉先輩があんな格好とは…」

「お前の方が失礼だと思うケド?」

「最低」

「はいはい」

「あんたより1つ上何だけど」

「ちっさくてわかんなかったわ」

「最低!!お前、上井先生に言うからな!」

「ちょ、それやめて」

「残念だったな、後輩」

「まじでやめてください、先輩」

「逆らうなんて以っての外よ」

「…先輩面しやがって」

「何か言った?」

「いえ、何も」

「……はっ!」

「(鼻で笑いやがった)」

藤平優莉(フジハラ ユリ)

俺より1つ上の先輩で

俺の家から徒歩5秒の場所に在る藤平家

ご近所と言うことで

何か用があるとき

何も用がないとき

しょっちゅう家に押し寄せる迷惑な奴だ

だが1つ上の先輩ということで

学校では先輩と呼んでいる
ちなみに、特に用はないのだが優莉が何故か俺に面倒を作るからあいつの名前を呼ばなければならなくなる。

あと、上井(カミジョウ)先生とは俺が入った部活の顧問だ。

「優莉、で何の用?」

「え?あぁ、何か委員長がね?」

「誰だよ、委員長って」

「あんたの部活の先輩の有泉だよ」

「先輩委員長なんだ」

「そう、それで有泉が明日先生が新入部員の確認したいから理科準備室Bに来い、って」

「げ!まじで?」

「アタシが嘘ついてどうすんのよ」

そりゃあそうか

「じゃあ、よろしく」

「うい」

「……帰るよ?」

「どうぞ?」

「最低」

「…は?」

パタン

なんだ、あいつ
*6

「やっほー千尋!愛しいお兄様のお帰りだぞ!(キラッ」

「うっざ!!!」

目の前から消え去れ

今すぐに

「なんだよ、反抗期かぁ?」

「まず、自分でお兄様とか言うな気持ち悪い」

「なんだよ、気持ち悪いとか!」

「鏡見てみろ、鏡を!」

「え、イケメンしか映っていませんが?」

「じゃあ眼科行け、今すぐ」

「全否定!!酷いっっ!」

「黙れ!!うっせ!」

「……まぁまぁ千尋」

「母さん、この人の口どうなってんの」

「どうなってんのって、」

「prettyじゃないか…!」

「うっせ!ハゲろ!」

「こら、千尋!口悪い!」

「……怒られてやんの」

コイツ、まじで黙れ

「栗稀、いつまで休みなの?」

「ん、大体二週間くらい?でもまぁ、どうせ引き戻されるケド」

「ざまあみろ」

「黙れ、弟」

「こら、栗稀もやめなさい!」

「(…怒られてやんの)」

兄貴が帰ってきた

久しぶりに家の中がにぎやかになって母さんは喜んでいる

そういえば……

「おい、そこのハゲ頭」

「そろそろ殴るぞ、弟」

「……ったく、兄貴」

「なんだい?弟」

「………」

「キモいとか思っただろ」

「…………」

「安心しろ、自覚済みだ」

「自覚してんならやめろよ」
「……悪のりだ」

「………でさ、兄貴の彼女ってさ」

「お、お前もそういう事が気になる年頃か」

「………」

黙って兄貴のケータイを持ち上げる

「……ん?」

そして、

「ちょ…?」

兄貴目掛けて

「え……?」

ケータイを振り下ろ、

「うあああっっ!ごめんってば」

「ちっ、残念」

「……で、何ですか!」

逆ギレ?

「兄貴の彼女ってさ、鶴、」
「鶴葉だけどって、会っただろ?前に」

「いや、会ってない」

「……でそれが?」

「いや、」

「惚れた?」

「全然」

「酷い」

「てか、今日家に来るって」
「はぁ!?いつ!」

「もうすぐ来るんじゃないかな」

「ちょ!くそ兄貴…」

[ピンポーン…]

「あ、来たかな」

緊急事態発生
*5

え、

えっと

「……まじで、すか!?」

「はははっ!え、昨日の時点で気づいてるのかと思ったわ!」

まじかよ、

全然気づかなかった…

「てか覚えてない感じ?何回か家言ったんだけど」

「あ…、あぁ!!凄い前…」
「うん。でも弟くん居なかったよね」

「はい……」

「って、敬語辞めない?将来お姉さんになるんだから」

「はい…って、え?」

ん?

…今なんて?

お姉さん?

「ははは…冗談よ、冗談」

「ははは…ははは…は…」


「今日帰ってくるのよね、ホント、自由人なんだから」

先輩もかなりの自由人だと思うが…(コホン

「ホント、こっちの都合も考えて欲しいです」

「あ、また敬語」

「……あ…」

「お姉さんじゃなくても敬語じゃなくていいから…!、ね?」

「……はい」

「じゃあね、弟くん!…あ、葵くんだっけ?ばいばい!」

「さよな…」

「さようなら!!鶴葉先輩!!」

うわっっ

コイツの存在忘れてた

「声でかい」

「ごめん、ごめんっっ!…ってか!!聞いた!?葵くんだってさ!!」

「あー、うん」

「ヤバイ、俺今日頑張れる」

頑張れなかったのかよ

「…………」

「葵くん、か」

「なんだよ千尋」

「いや、なんでもない」

「なんだよ、気になるな」

「なんでもねぇよ…遅刻するぞ、葵」

「よし!鶴葉先輩パワーで今日も頑張りますかっ!」
でかい声でなんて恥ずかしい事を

「千尋、走るか!」

「よし、行くか!!」

弟くん、か……

なんだか厄介な事になりそうだ

「千尋遅い!」

「っるせぇな……」

俺の朝は今日も

自由人の兄貴と

爆弾発言をした先輩、

そしてやたら声のデカイ葵によって

[ぶち壊し、なう。]

そう、ツイッターに呟いた。
*4

「千尋ーっっ!」

時刻は8時をまわった所

アイツの声は周りの住宅地に迷惑だ

訴えられろ

今すぐに

片耳にしていたイヤホンをとるとアイツの話に耳を傾けた

「…おはよ」

「おっはぁ!何聞いてたの?」

「何でもいいだろ」

「何?嫌らしいのでも聞いてた!?」

何嬉しそうにしてんだコイツ
「……inform…」

「あ!インフォ?相変わらずブラコンだなぁ…」

「ブラコンじゃねぇ、黙れ、ハゲ」

「ハゲてない!!酷い!千尋クンの馬鹿っっ!」

馬鹿でいい

マジでハゲろ

「…でも本当好きだな、千尋」

「悪いか」

「……やっぱブラコン…」

「殴るぞ」

「すいません」

inform

通称インフォ

三人組の男性ボーカルユニット

その中の一人

インフォの中で特に人気をはなっている

栗稀(リツキ)

そして、俺の兄だ

「リツキクン千尋に似てカッコイイよな」

「(……反応しにくい…)」

話の話題が尽きたようで葵は黙ったまま俺の隣を歩いた

沈黙は嫌いだ

先程しまったばかりのイヤホンを取り出してまた耳につけると例のアーティストの音楽が流れ出した

[♪気づかれないよう空を仰ぐふりして涙を流した。君の隣いつまでも傍にいたい]

「(相変わらず凄い歌詞だな)」

……

兄貴とはもう一年以上会っていない

一年前に家に帰ってきたがマネージャーらしき人物の登場で兄貴の休日は呆気なく終わった

今ではテレビのバラエティー番組や音楽番組で見るだけだ

連絡は来るが俺が気づいた時に連絡しても通じず再び連絡がくるのは一ヶ月後くらいだ

だが、

そんな兄貴が今日の昼頃帰ってくるという

連絡がきたのは昨日の事

本当、自由人め

まだ授業がないため今日は昼前には帰れる

せっかく葵と遊ぼうと思ったのに

「………うん、うん…」

………?

隣を見ると電話をしながら登校している、

「鶴葉先輩!!!!」

隣にいた葵が急にデカイ声をだした

鼓膜破る気か

やっぱり迷惑だ

訴えられろ、今すぐに

「うん、ってえ!!?」

だから葵うるせ…

って……え?

今度大声を上げたのは、

「……先輩?」

「え!??」

びっくりした顔でこちらを見ている

「アハハ…ごめんね?大声出しちゃって…」

「いえ…」

「びっくりしたでしょ?」

「あー、まあはい」

「何その怠そうな返事ー!」
「すいませ、」

「やっぱりそういう所栗稀に似てるよね」

「あー兄貴すか…」

「うんうん」

「………ん?」

ちょっと待って

今、

なんて?

…………

「せんぱ…」

葵がこちらを興味津々に見つめている

「あれ、言ってなかった?」
「っ、」

「私、貴方のお兄さんの彼女だって」

嫌な予感、

的中なう。
*3
入学式が終わり教室にもどった

しばらくすると担任が来て明日からの説明をしてくれた

「なぁ千尋ー」

嫌だな

またくだらない話に付き合わされる

「……何」

躊躇いながら短く返事をした

だがそれが気に入らなかったらしい

「……なんでめんどくさそうなの」

「めんどくさそうじゃなくて面倒臭い」

「最悪!千尋クンひっどーいっ!」

酷くて結構

「だから何?」

「いや…」

「何?」

「え…」

「さっさと言えよ」

「………」

気持ち悪い…コイツ

女子かよ

「…帰っていい?」

「駄目駄目!聞いてよ!」

「…さっさとして…」

「あのさ」

「………」

「鶴葉先輩の教室いかね…?」

「………は?」

そんなん一人で行ってこい
「頼むよー!!」

「嫌」

「なんで」

「嫌だから。面倒臭い」

「もしかして…照れてる?」
「殴るぞ」

「暴力反対」

「黙れ」

「もー!!行こうよ!」

……この後何回かくだらない会話が続いたが自動的に割愛

割愛は正解だ

長い、長い、長い

アイツの話は長い

そしてくだらない

ちなみに今俺は

アノ先輩の教室の前にいる

背後に女子のようなアイツ

……行こうっていったのはお前やろ…

「……おい…」

「ん………?」

「出てこい、今すぐに」

「嫌だ」

「じゃあ帰る。サヨナラ」

「嘘!!出ますからっ」

果てしなくコイツは面倒臭い
「ほら、さっさと行くz…」
「誰かお探し?」

少し笑ったように

突然の登場に血が引いたのがわかった

「………えっと」

チラリ、葵を見る

「……」

目線があってない!!

大丈夫か!コイツ!!

「…君達随分目立ってるよ?ここの階は3年以外立入禁止だから」

「……そうなんです、か」

「あー、でご用件はなんでしょう?」

「えっと、」

葵、どうにかしろ!

気づかれないように葵の左足に蹴りを入れる

……無反応!

馬鹿!

阿呆!

「えっと……」

もう一度葵に蹴りを入れる
今度は一発目より強く

いった、葵の声が聞こえた
よし、意識が戻った!

いや、意識はあったか!

「コイツが先輩に用があるって…」

葵の腕を掴んで先輩の前に持っていく

「ちょ!千尋…!!っ」

「??」

状況がよくわかっていない顔をしている、先輩

「(じゃあ、後は宜しく)」

葵に小声で伝えるとその場から離れた

千尋、と呼ぶ声が聞こえが無視。

聞こえてない

聞こえない

知らないっと!

まだ慣れない校内を一人走る

何も知らないふりで帰ろうとした所

葵に捕まって

めちゃくちゃ面倒臭かった
そんなこんなで俺の長い一日が終わった

だが

これから始まる悲劇を俺は勿論、

葵さえも知らなかった
「千尋、バイバイ」

初めて名前を呼んでくれたと思ったのに

あれが最後なんて

先輩、もう一度

——俺の名前を呼んで

*1
桜が舞う4月

入学したての俺の前に現れたのは

長い髪を結い、同級生らしき男子生徒に告白されていた先輩であった

「千尋、何見て……あ!?」
「黙れ、葵」

俺の隣に現れたのは

小学校からの親友、

藤咲葵(ふじさき あおい)だった

「まさか…のぞき見!?」

「…は?」

マジで黙れ、コイツ

そんな趣味があったとは、と葵は俺を見て言う

「(だから違うっつってんの…)」

「てかさーあの髪の毛長い先輩、黒瀬 鶴葉先輩やん」
「は?なんでお前そんなこと知ってんの?」

「…え?逆にお前知らんの!?超有名じゃん!」

知らねぇよそんなの。

「やっぱり黒瀬先輩モテるんだなー」

葵の情報によると黒瀬 鶴葉は美人で有名で、そのため先輩目当てでこの学校に入学してきた生徒も少なくないそうだ

「…大変だな」

「…は?」

「いや、なんでもねぇ」

「何千尋、黒瀬先輩気になるの?」

「全く?」

「つまんねぇ…」

つまらなくて結構だよ

黒瀬先輩…か…

「おい!そこの一年!入学式はじまんぞ!!」

「うぃーす」

生活指導の先生について行きながら後ろをふと振り返ると笑顔の先輩がいた

「(……黒瀬 鶴葉…)」

騒がしい一年が始まろうとしていた




*2
「入学おめでとうございます。これからの学校生活に…」

ながったらしい校長の挨拶
もっとまとめてから話せよ
「なぁ……!千尋!」

「……何…」

「鶴葉先輩!生徒会にいんだぜ!かっけ……」

「だから何?」

「だから何って…!お前…」
「何?お前、あの先輩の事好きなの?」

「は!?」

「まさかお前も先輩狙いでここ入ったとか?」

「……悪いかよ!」

「………」

「なんだよ!!」

「別に……」

「…思春期の男子ですから」
何自分を納得させようとしてんだ、こいつ

「……はいはい」

「……これで話を終わります。それでは1年生から退場してください。」

「葵、帰ろうぜ」

「おう」

人の流れに流されながら体育館を後にした

葵と俺は同じクラスになりホームルームがようやく終わった