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水辺の生物

料理人の私が飲食の世界に興味を持ってから今日まで見てきた「水」に関わる世界、その水辺に生息する生物たちの環境や生き様を書き記していきます。

過酷な内容のものも多く、不適切な表現が含まれる場合もありますのでご了承の上ご覧ください。

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先月頃に一人旅で福井県に行ってまいりました。北陸道は非常に走りやすい道で走るだけでも良い旅でございます。

いっそ石川までいけばさらにグルメを楽しめたのにという方もおられたのですが敢えて石川でなく福井だった事には少しばかり理由がございまして、北陸の小京都にまで行ってしまえば逆にグルメな食べ物など幾らでもありそうだと思ったからでございます。探求する事の楽しみは私20くらいの頃からずっと観ておりましたスタートレックネクストジェネレーションのピカード艦長が教えてくれました。未知なるものに勇敢に進む、これこそがジーン・ロッテンベリーが描いたスタートレックの魂、トレコンでございます。

話は戻しまして、私が思いますに

北陸に上がって行く近畿圏の人間にとって福井県が単なる通過点になっているのではないでしょうか?

では福井のグルメとは何なのでございましょう?

禅宗の本山永平寺の胡麻豆腐や越前蕎麦、当然石川と変わらぬ北陸の海の幸を堪能出来ると信じ飛び入りであるお寿司屋さんに入ってみました。入り口に書いてある事を読めば「当店の寿司は醤油など一切つけずそのままでお召し上がれます」というような事が書いてありまして私興味を持ち予約している日本料理屋に入るまでの時間にでも少し摘んでみようと入ってみたのでございます。

$水辺の生物-福井の寿司屋

土曜日の18時頃に先客なし、遅い時間の集客狙いのお店なのかと店内を見渡すとよくあるいかにも寿司屋らしい魚(もしくはその値段)を書いた木札もなく洒落ている訳でもない昭和な造りのお店で久しぶりにメニューや値段の付いてない店に入ったなと6人程掛けれるカウンターに座ると少し雰囲気の悪い(と申しましょうか?やる気のない感じの)親父が挨拶をしておしぼりを出してくれました。この後も食事をするので少しだけ摘みたいと言ったところ「わかりました」と何かを造り出す。北陸の魚といえばやはり鯖にノドグロや関西ではアコウと呼ばれるキジハタを思い浮かべ私その親父に「何か珍しいものありますか?北陸ならではみたいなもの?」と伺ってみましたが驚いたのはその親父のその質問に対する回答でした。

「今日びね、珍しい魚なんてないでしょ?どこでも流通してるしね。」

驚いた私はもう一度同じ質問を彼にしたが回答は

「魚なんてね、どこで食べても同じよ。」

このような狂った見識を持った大人がいるから現代に食育という教科が必要になったのだとビールをやりながら親父の仕事を待っておりますとイカと甘エビとヒラメと貝柱が盛られた刺身が供されまして見れば確かに我が家の近所の回る寿司屋でも出てきそうなクオリティのもので非常にがっかりはしたのではございますがまぁこれも未知なるものを探索する為の試練と食べておりますと

「お客さんが探しているような鮮魚、特に地のもの出すようなお店は福井どこ探してもないよ。まぁウチくらいの仕事してる店自体ないからね。」

断言されていました。

この断言は全福井県民を敵にまわすだろうな、きっと他に名店が沢山あるはずだとこの刺身だけで店を出ようかとも思いましたが寿司屋である以上親父のポテンシャルを最大に試せるであろう寿司を三貫お任せで握ってもらうことにいたしました。寿司を握っている間親父が何を気にしているのか独り言のように語っておりました内容は

「この店はね遅くても22時には閉めてるね、いくら客が食べたいって言っても22時には閉めてるね」

ご安心を、私そんな夜分までそちらにお邪魔はいたしません。口をひらくのが面倒だったので念力で送っておきましたが私の気持ち届いたでしょうか?

$水辺の生物
$水辺の生物

確かに悪くありません、左からトロ 明太子 アサツキネギ
どれも細かい仕事が施され醤油をつけなくとも良い味がするのです。

食べ終わります頃またもや親父が「こういう仕事は関西辺りにもないし東京でもほとんどやってないよ、こういうことができる人は少ないからねぇ...」とまた自慢話をしだした時のタイミングで私たち飲食業関係者の大敵の一つであるハエがカウンターにとまりまして私が条件反射でおしぼりでそれを抑えましたところ何ら礼をいうでもなく新しいおしぼりを私に渡し「まぁ飲食店は仕方ないからね」と保健所の担当者にでも伝えてやりたいような事を口走っておりましたがもうこれ以上話を聞くのも口を開けるのにも疲れた私は勘定だけをお願いしダレた刺身の盛り合わせと寿司三貫にビール2本のお代七千某を支払いこの店を後にいたしました。

井の中の蛙大海を知らずという方が若い人には多い気がするのですがこのようないい歳をした大人の職人がこの程度ではいけないのではないかと考えさせられる思いでございます。自慢は大いに結構でございますが身の丈を超えたものや自分の知らないことまで憶測で語ってしまうのはどうでしょうか?お客をなめているだけでなく業界をもなめている人間を私は好きになれませんがそのような不埒な人間がこの水辺の世界には確かに多いのも事実です。

しかしあの親父の言う通り福井にはこの店に勝るような、そして新鮮な地の海の幸を出す店がないのでしょうか?不安なままで私は予約していた日本料理屋へ重い足をはこんだのでございました。