マイクロソフトがwindowsでOS界を席巻し、googleがchromeでブラウザを、
appleとgoogleがそれぞれiOSとAndroidでスマホOSをそれぞれ席巻し、その時勢において圧倒的優位を築いたように、ユーザーに常時使われるインターフェースやその標準基盤を獲得することはIT企業における最大のミッションとも言える。
PC、インターネット、スマホと世界のコミュニケーション方法を大きく変える媒体、技術の出現時、上記のようなシェア競争が発生したわけだが、それでは次の競争対象はなにかといえば、そのうちの1つがこの「チャットボット」ではないかと言われてる。
チャットボットとはその名の通り、文字入力による会話(チャット)を人の代わりに
自動対応するロボット(ボット)のことである。
AndroidのGoogleアシスタントや、iPhoneのSiriを想像すると分かりやすいかもしれない。
ロボットというとpepperくんのような物理的に存在する機械人形を想像するかもしれないが、IT用語としてのロボット(ボット)はあくまで人の代わりに命令に基きタスクをこなすシステムのことでありチャットボットというのも通常は先程挙げたSiriのように組み込まれたシステムの1つを指す。
チャットボットというもの自体は数十年前から存在していた。例えばwordやExcelなどに搭載されていたイルカを覚えている人もいるのではないだろうか。
彼も一種のチャットボットである。ただし、御存知の通り彼はあくまでヘルプページを検索するための媒介であり、それ以上のことは出来ない。
さらにインターネットの発達により、マイクロソフトが用意したヘルプページ以上に分かりやすい解説ページがネット中に出来てしまったことで彼の役目は2007年頃に終了した。今チャットボットを展開しようとしても、結局かのイルカくんのように不要な存在となるのでは、という疑問を持つ方もいるだろう。
しかしITはこの10年で大幅に進化を遂げ、チャットボットはまさにその恩恵を受ける存在であった。
本書では近い未来「チャットボットが全てのサービスのプラットフォームとなる」ということを主張している。
その論拠となるのは、スマホ、メッセージングサービス、AIの普及・発達に伴うチャットボットの進化である。
スマホのその強さは「アクティブ時間」と「即時性」にある。
ブランディングやホスピタリティなどを一旦脇に置き商業の仕組みを単純化すると、各サービスや商品の売上を伸ばすには有形・無形問わずいかにユーザに認知してもらうか、及びいかに素早く(確実に)ユーザーに購入してもらうかという点が重要となる。
まさに「アクティブ時間」と「即時性」が重要とされる部分だが、近年では更にそれを紹介(シェア)してもらうことで更なる認知拡大につなげるという点が重要な点として挙げられ、それこそアクティブ×即時の結果として排出される「シェア速度」というスマホの十八番能力である。
現代の10、20代のスマホ利用時間は平日休日問わず平均して100分を越え、情報の獲得、人々との交流の多くをスマホ経由で行っている。※1
それ故商品の認知についてもアクティブ時間が長いスマホ上での発生頻度が増大していることは想像に難くないだろう。
更に、「即時性」だが素早い購入という点でスマホに比肩する媒体はなかなか見当たらない。
amazonの1clickを利用したことがある人であればその便利さと恐ろしさが分かるだろう。AIDMAからAISAS・AISAへの変化など様々言われているが、プロセスの変化だけでなくそのプロセス間のスピードを、スマホは日単位から秒単位まで縮めたといえる。
amazonにしても以前は自宅でPCを開くという空間に縛られた部分があったが、現在ではスマホが常にポケットにあることにより何かが欲しいと思った瞬間すぐ買える。
今後は更に、詳細の確認、ネット上の口コミ、価格比較、注文などを各自がブラウザ検索を用いて収集する必要がある情報が、チャットボットへ商品名を告げればボットが上記各種情報を一瞬で収集表示し、申込みボタンまでが即座に表示される状態へたどり着けることが想定されるのである。
2008年、スティーブ・ジョブスがApp Storeを展開し、サードパーティのアプリが大量に出現、電話やメールに留まらず、地図、録音、読書、ありとあらゆるハードをアプリが飲み込みスマホの価値は爆発的に向上した。
そして2016年、マーク・ザッカーバーグはFacebookメッセンジャー用のチャットボットプラットフォームを展開。
全世界で10億人規模の利用者を有するこのメッセージングサービス上で、誰でもチャットボットを作成し公開することが出来るようになった。公開からわずか4ヶ月で2万以上のチャットボットが稼働を始め、例えば旅券やホテルの予約、デリバリーサービスやニュース、コールセンターなど、各社のホームページやアプリ上で対応していた業務が全てFacebookメッセンジャー上で行えるように変革しつつある。
日本ではLINE、海外ではメッセンジャーやwhat’s upなど媒体競争は続いているが、いずれにせよテキストで文章を投げかけ返答をもらうというプロセスを、我々は各種メッセージサービスにより抵抗なく自然に利用するようになっている。
前述のApp Storeとアプリの例のように、あらゆるビジネスをチャットボットが一元窓口として受付け、それに伴いチャットボットの価値が上昇し続けるという未来がなんとなく想像出来るのではないだろうか。
そしてAIである。
従来のチャットボットは「人工無脳」と呼ばれ、あくまで「用意した回答を条件に応じて出す」ことを目的とした存在だった。
現代ではそこに機械学習や深層学習といった学習、推測、文脈理解などのフローを組み込んだいわゆる「自然な会話」や「人間の思考と同様のプロセス」を再現できる機能を搭載し始めている。とはいえ現在は学習のための情報をAIに食わせる段階であり、google、Facebookその他多くの企業が自社の機械学習や音声認識のAPIを公開し、使用してもらうことで情報をかき集めている。
近い将来文字データのみならず、受け取った音声データ、画像データを分解、認識、整理、返答しその結果を蓄積、学習まで一息に行える仕組みが当たり前のように搭載されていくだろう。
このようにチャットボット、及びそれを支える機能、その周辺媒体が発展するに従い、チャットボットの重要性も高まっている。
チャットボットは各サードパーティが個々のサービスを提供する「サブボット」と、それらを取りまとめユーザーからのメッセージに応じて必要なサブボットを引き出す「ユニバーサルボット」という形態を取ると言われる。
前述したSiriやGoogleアシスタントがまさにそのユニバーサルボットのポジションなのであるが、同様にFacebookは「M」、マイクロソフトは「Cortana(コルタナ)」、Amazonは「Alexa(アレクサ)」※2と名だたる企業がそれぞれチャットボットとしての標準プラットフォームを目指し、今まさに研究開発とシェア獲得競争を繰り広げている。
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PC、インターネット、スマホ。ITの発展は新たな技術が登場し受け入れられたら一瞬で全世界に普及し、これまでの方法が取って変わられる。
その際に時流に乗れる人々は新しい便利なツールを使いこなすだけでなく、自身もサードパーティとしてサービスを提供したり、周辺ビジネスを立ち上げたりと様々なアクションが取れる。
5G、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、IoT。未来に台頭する技術は様々挙げられるが、その1つであるチャットボット。
次のIT変革に向けて考える、絶好の機会が訪れようとしているのではないだろうか。
※1:総務省「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 参考
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000064.html
※2AmazonはAlexa搭載の音声認識型宅内コントロールシステムを2014年に販売し海外で300万台以上を売りあげている。