「八日目の蝉」で知られた角田光代さんの作品です。
↑は読んだつもりでしたが、鯖ブログチェックしたら未読でしたね。ドラマだけ見てたんだなと。
てなわけで、角田作品はどうやら初めて読んだようですが、本作はなんとも不思議な読後感を与えてくれた、不思議な一冊でした。
「ツリーハウス」 角田光代(文春文庫)
≪内容紹介 from amazon≫
じいさんが死んだ夏のある日、孫の良嗣は、初めて家族のルーツに興味を持った。出入り自由の寄り合い所帯、親戚もいなければ、墓の在り処もわからない。
一体うちってなんなんだ?この際、祖父母が出会ったという満州へ行ってみようか―。
かくして、ばあさんとひきこもりの叔父さんを連れた珍道中が始まる。伊藤整文学賞受賞作品。
当初、文庫の背表紙にあった↑のあらすじを読んで、満州へ旅立った3人の珍道中を描いたロードムービー的な、山あり谷あり、引きこもりのおじさんが立ち直るような感動巨編的なものかな、と思っていたら、全然違う、もっと多重構造的な、かなり重厚な物語でした。
3世代にわたる家族の物語ですが、際立った盛り上がりだとか、奇跡の何か、とかはなく、市井に生きる、ふつうの人々を丹念に追った物語であり、それぞれの歴史背景に振り回されて、それでもなんとか生きていく、それは普通のようで、普通でない、皆それぞれが持つ一つ一つの生きざまであり、物語なのだ、と考えさせられる作品でした。
多少の起伏はありますが、なんとも不思議なテンポで紡がれていくお話しなので、説明しようとするとかなり退屈な感じすらしますが、なぜかそうした「飽き」を生まない引力のようなものが本作にはあって、とても不思議でした。
自分のルーツを考えるきっかけにもなりますが、自分が自分の子や、さらにその先の子孫らのルーツにもなっていくって考えると、なんだか頑張って生きなきゃなあという気になるし、自分が生きている間に残せるものってたいしたことはないのだろうなあ、ならばどう生きるべきなのかなあ、などと考えさせられました。
万人にウケるとはちょっと考えにくい作品ですが、自分が今いる時間軸ってものを、再確認させてもらえた点において、静かだけれど、この本って実はとんでもなくスゴイんじゃないかって気がします。
角田さんの他の作品も読みたくなりました。
鯖評価 ★★★★☆(星4つ)