働くこと、生きること…「迷子の王子 君たちに明日はない5」 | 鯖が行く!ゴルフ(+camp +ski +Diving)あっちこっち

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鯖的には傑作だと思う「ワイルド・ソウル」からのファンである垣根さんの人気シリーズがこの5巻目にして最終巻となりました。

働く者としてはいろんな場面で刺さってくるところがある本書はいつも面白おかしく読ませてもらっています。で、この5巻目もなかなかに味わい深いエピソードがある一冊でした。

 

「迷子の王子 ~君たちに明日はない5~」垣根涼介(新潮文庫)

 

 

≪内容紹介 from amazon≫

「会社を辞めて、これからどうするつもりなんですか?」リストラ面接官として村上真介が今回対峙するのは―鼻っ柱の強い美容部員、台湾に身売りした家電メーカーのエース研究員、ペースを狂わせる不思議ちゃん書店員。そして最後にクビを切られるのは、なんと真介自身!?変わりゆく時代を見据え、働くこと=生きることの意義を探す人々を応援する人気シリーズ、旅立ちの全四話。

 

鯖は基本的に短編集はあまり読みません。なんかちょっと物足りない感じがするためなんですけど、本書は基本的に完結型の短編で、基本的にはどの巻から読んでもまあそれほど問題はないっちゃないのですが、リストラ面接官であり、主人公の村上さんの成長物語としてみるなら、1巻から読んでいくほうが楽しめるシリーズになっています。

 

本書のエピソードはどれも面白くて、時代背景や個々人のアイデンティティや、多様性などなど、おそらくはかなり深く掘り下げた取材があってこそのリアリティと深みがあります。

 

例えばファイル1の「トーキョー・イーストサイド」に出てくる【知的背景】という言葉。

本書から抜粋すると、

 

『大学入学までに受験戦争に勝つための勉強しかしてこなかった者と、勉強しながらもいろんな趣味---例えば音楽を聞き、本を読み、いろんな国や土地柄を見たりして、大きく言えば人生のことなどを考え模索してきた知的背景を持つ者には、すでに入学時点で、表面的な学歴では同じでも、その内面の成熟度において目に見えない大きな差があるということです』

 

これはリストラ対象者の女性が学生時代に先生から講義で聞かされた話として出てきます。もうちょっと講義の話には続きがありますがそれは端折りますが、このことを自分自身に置き換えて考えてみてどうなんだろう?と振り返ることになりました。

 

さらに、まだ小学生の二人の子たちへの教育についても考えさせらえるところも多く、ううーんと読みながら唸ってしまいました。知識と知性を背景とした人間的な面白みや慈悲深さ、思慮深さを持った味わいある人間に育って欲しいと、懐が狭いことを自覚してる鯖としては子供たちに願っています。

 

結局、一人で生きていくために仕事をするわけですが、食っていくためだけの仕事にならないよう、どんな業種、職種であろうと自分が納得できるものを見つけてもらうためにも学校の勉強以外の知的背景を持てる子に育てなきゃなーと本書を思いながら感じました。幸いにして鯖は自分の仕事が楽しくてやりがいも感じてますが。

 

なんというか本書には、物語としてのストーリー展開を楽しむよりも、もっと切実な今や状況を常に自分と照らし合わせてみてしまう点において、とても面白いです。

もっとも、全てのエピソードが秀逸なわけではありませんが、それもまた人生って感じです。

 

物語の最後、主人公の村上くんの今後がなんかちょとムムム…?な気もしています。いい男なんだけど、まあ最後まで主要メンバーの村上、山下、陽子さんは自分的にはパっとしないまんまで、リストラされる側の人たちが皆愛すべき、味わい深いキャラたちでした。

 

ともあれ、これから働く人、今働いている人、多くの人になんらかの示唆を与えてくれる本シリーズをおススメしたいですね。

 

鯖評価 ★★★★☆(星4つ)

 


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