じこ報告書 -55ページ目

悔やみ

駆け寄るまでもなかった。
数時間前に見た姿と違うのは、一目瞭然だった。

男は…既に冷たくなっていた。



扉を開けると彼はいた。
部屋の中央で。
横たわった状態で。

その変わり果てた容姿に思わず絶句してしまう。

もう硬直が始まっているだろう…
それは容易に想像できた。

この状況下、思いの外冷静さを保てている自分に驚きを隠せない。
いや、この状況下だからこその冷静さなのか。脳裏にて意見が対立する。

どちらにしても、今そんなことを分析していること自体、何か滑稽でならなかった。



もう一度、あの時のことを思い返す。

最後に彼を見たのはオレだった。

扉を閉めながら、笑顔で彼を見送ったのを覚えている。
そして、近くで合図を待った。
数分後、彼と出会うことになっていたからだ。

ただ…
オレはその約束を破ることになる。

確かに、記憶の彼方で何か呼ばれているような気はしたのだが、
無念にも仕事帰りすぐに訪れた魔物の手に落ちてしまった。

扉は中から開けることが出来ない。
そして、彼は自分の状態を訴えることが出来ないまま、冷たく、硬くなってしまったのだった。



オレが悪かった。
オレが悪かったのだ…
オレが彼を…
本当にすまなかった…










すっかり変わり果てたトンカツを噛み締めながら、何故、あの時レンジを待ち切れずに眠ってしまったのかをくいてみる。

だが、この硬さ、このまずさ、そう簡単にはくいきれそうにもなかった。