その後も結華さんは、それはそれは楽しそうにドラマの感想を話して聞かせてくれた。
まるでさっき華絵さんと話していた時間のデジャヴだ、なんて思いながら。
それでもこれまで関係者以外の感想とか聞いたことも無かったから、なんだかとてつもなく新鮮で。
だってその表情は作り物なんかじゃないって見ただけで分かるぐらい、どっちも瞳をキラッキラにさせてすげぇ嬉しそうなのがすげぇ印象的で。
その先に自分がいるなんて、なんだか嘘みたいだ。
だってさ、ぽっとでの俳優じゃん。
俺なんか。
そう、少し前までは夢も希望もなくてただフラフラしていた。
こんな世界に自分は無縁だと思っていたし、今こんなに充実した日々を過ごしているだなんてあの頃の俺は絶対に信じない自負もある。
「あぁ何時間あっても話したりない。だけど今から出かけなきゃならなくて……あのっ、また遊びに来てください!」
「はい」
「絶対ですよ!じゃあまた」
結華さんははにかみながら小さく手を振って潤さんの部屋を出ていった。
潤さんはそんな結華さんの様子に苦笑している。
「ごめんな。いつもはもっと冷静なんだけどおまえを前にしたらテンションぶち上ってたな」
「ううん、俺もすげぇ嬉しかったし楽しかった」
「そう?」
「うん」
ならいいけどって潤さんはポリポリとうなじを掻いて、
「なんか飲み物持ってくるわ。喉乾いた」
そう言ってペタペタとスリッパの音をさせながら部屋を出ていった。
ここに来るまでは、好きの大きさなんて気にしてあーだこーだ一人で悶々と悩んでたのに。
何故だろう、今は少しどこかスッキリとしている。
そのうちトレイを手にした潤さんが戻ってきて、部屋の中はあっという間にコーヒーの香ばしい香りに包まれた。
「おまえはラテな」
「ありがと」
手渡されたカップを口に含むと、ミルクの甘さとコーヒーのほのかな苦みが口の中に広がった。
潤さんの淹れてくれるコーヒーを飲むとなんだかすげぇ気持ちが落ち着く。
やっぱり俺は、この人の作ったものを体内に取り入れながら生きていたいって強く思う。
「うめぇ」
「そう?良かった」
「つか、スタバのコーヒーよりこっちのが断然うまい」
「ふ、バカだなおまえ、なわけねぇだろ」
「マジだし」
「じゃあ…だとするとあれかな」
「ん?」
「こっちにはすげぇ愛情が詰まってるから」
好き過ぎて胸が詰まる。
辛いよ潤さん。
だって、好きってきっとさ、思いの強い方が負けなんだ。
だから潤さんはいつだって凛としていて、俺ばっかがこんなにクヨクヨとしてて。
そもそも立ってる次元が違うんじゃないだろうか。
「なぁ翔?」
「うん?」
「おまえが何に悩んでるのかなんて、きっと俺には一生経っても分からないんだろうけどさ」
「?」
「でもどんな形であろうと俺はおまえのこと全力で応援してるから」
「潤さん…」
「だからもっと自信持って欲しい。おまえはいつだってどこか自分に自信なさそうで臆病なとこがあるけどさ……全然そんなことないから」
あ。
この言葉。
確かどこかで。
「おまえの真っすぐ過ぎなところとか、真面目過ぎなところとか、なのにどこか真逆なところとか、そういうの全部ひっくるめて俺はおまえのことが好きだから」
「潤さ……、」
そうだよ。
これ。
前にも聞いたことがある。