僕が僕のすべて236 S | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

そうだよな。

池念の言う通り。

潤さんは帰国したばかりで、きっと俺の相手をしている暇なんてないはず。

だって彼は、これまでだって超が付くほど忙しくしていた。

だからきっと、帰ったばかりだから休むなんて選択はせず、バリバリに出社しているに違いない。

 

”おやすみ”

 

それ以降の連絡が来ないということは、俺のことを考える余裕もないって。

きっとそういうことだ。

 

だけど今夜ならもう……連絡してもいい……よな?

だって俺、早くあんたの顔見たいし。

 

なんて、結局潤さんのことばかり考えている俺は、仕事に追われているはずなのにまだまだ余裕が有り余っているってことなのかもしれない。

そんな事実に辿り着いてしまったせいで、益々自分がガキだってことを実感してしまって…すげぇ嫌になった。

こんな思いをするぐらいなら、潤さんのことを考える暇もないぐらい仕事人間になって……、そう……もっともっと大人になって。

そうして、澄ました顔で潤さんと再会してみたいものだ。

 

それに、もしかしたら潤さんだって俺がもっと大人になりたいと願っているのと同じように、こういう大人の付き合いがしたいとか思ってたりするのかもしれない。

年齢も考え方も、もっと釣り合う相手と……とか。

 

「松元さんにはもう連絡しました?」

「……いや、まだ」

「へぇ…、てっきり昨晩はわたしの悪口大会でも開催されてるのかと思ってました」

「そんなガキみてぇなことするかよっ」

「いやぁ、昨晩くしゃみが止まらなかったものでてっきり」

 

なんだかんだで池念は、潤さんのことをもっと思いやれ!という割には俺の心配もしてくれているらしい。

 

「今夜は邪魔しないのでゆっくり会えるといいですね」

「………」

「どうしました?」

「俺さぁ……向こうからの連絡を待ってみようかな」

「え?」

「潤さんって俺が言えばなんでも融通してくれるけど、なんかそればっかっていうか…、」

「つまり潤さんの気持ちを量りたい……、そういうことですか?」

「………まぁ、平たく言えばそう……かも」

「驚きです。まさかあなたにそんな駆け引きする余裕があったとは」

 

知念は吃驚したように目をパチクリさせて、だけど次にはその目を細めてこう言った。

 

「好きなようにすればいいとは思いますけど、自滅だけはしないでくださいね?」

 

自滅って。

確かにしてしまうかもしれない。

だって俺から連絡しなければ、きっと潤さんからの連絡なんて無いに等しい。

前に一緒に暮らしていた時には、飯の心配ぐらいはしてくれてたけど、今は一緒に住んでもないのだからそんな心配をする必要もないんだし。

 

はぁ……。

さっぱり自信ねぇよ。

 

こんなはずじゃなかったんだ。

本当だったら昨晩にでも無理矢理おしかけて、こんなもやもやなんて簡単に吹き飛ばせたはずだった。

そして俺は幸せいっぱいな気持ちで、ニヤける顔を必死に隠しながら撮影に挑んでたはずで。

 

それなのに。

 

「こんなんだから駄目なんだ!もっと余裕持て俺っ!」

 

そしたら潤さんも、もしかしたら俺のこと少しは見直してくれるかも。

そうじゃなきゃやってらんねぇ。