それにしてもマジでなんもねぇ部屋だなここは。
"近々、海外に引っ越すつもりだったから
仕事…辞めるつもりだったんだ。
ちゃんとケジメっての?つけるつもりだった
それは逃げるとかそういうんじゃなくて……、海外でもう一度勉強し直そうと思って"
なんでだよ。
潤さんあの時俺に、ごめんなって、ちゃんと分かったって言ってくれたじゃん。
俺は馬鹿みたいにその言葉を信じて……ずっと待ってたんだ。
それなのにまた勝手に一人でどこかに行こうとしてたなんてさ……ずりぃよ。
俺は、好きって気持ちだけでどこまでも強くなれる気がしているのに、潤さんという人間は、俺に関することだけ……どんどん弱くなってしまう。
「なんで好きなだけじゃ駄目なんだよ……」
好きだからこそ相手を幸せにしたいと思う気持ちは同じなのに。
つか、俺以外のことはなんだってバリバリできちゃう人なのに。
俺はただ…強く抱きしめてくれればそれで。
そして好きだよって、翔って、そばでそう囁いてくれるだけで十分なんだよ潤さん。
あぁ今すぐに会いてぇ。
とはいえ今夜も智くんのライブ中だ。
つまり潤さんが帰ってくるのはきっと昨晩ぐらいの時間になるのだろう。
そんなことを考えていたら、何もないこの部屋に恐怖を感じてきた。
もしもこのまままたあの日のように……、
"翔、ここに寝泊まりするのは、今夜で最後だ"
俺の前から姿をくらましたら。
潤さんの言っていたように外国に行かれてしまったら。
それこそもう、二度と会えないかもしれない。
そんなのぜってぇ嫌だ。
今すぐにでもここを飛び出して、ライブ会場まで走って潤さんのことを捕まえたい。
だけど今の状況でそんなことができるはずもなく。
俺が単独で動けば事務所はもちろん、ライブ中の智くんにまで迷惑がかかってしまう。
でも潤さんがこのまま帰ってこなかったら……。
"こっちこそ、ありがとうな"
怖いけれど。
居ても立っても居られねぇけど。
それでも俺は、あの人に必要とされてあの人のそばにいられることを信じてここで待つしかない。
***
それから、どのぐらい経っただろう。
マイナスのことばかりを悶々と考えてしまうのが嫌で、床の上に直接置かれただけのマットレスに横たわって目を閉じている間にすっかり眠ってしまった。
だけどふっと意識が戻ったのは、玄関の開く音が聞こえた気がしたから。
今の今まで眠っていた身体を無理くり動かして飛び起きた。
そして玄関に向けて走って、そしたら靴を脱ぎかけの潤さんがびっくりした顔で俺を見て。
「翔」
そう言うから俺は、そのまま潤さんに向けて飛びかかった。
「おかえりっ」
「ただいま。つか起きてたのかよ」
「待ってた」
「ったく、無理しやがって」
無理なんかしてない。
俺にとっちゃ、あんたがいないほうが無理なんだ。
「帰ってこなかったらどうしようって思ってた」
「…………」
「でも帰ってきてくれた」
「不安にさせてごめん」
そうだよ俺はずっと。
あんたが突然ポッと消えてしまうんじゃないかって怖くて。
どこかこうしていても、これが現実じゃないような気もしてて。
もしかして夢なんじゃないかって……思ってしまうのがすげぇ嫌で。
「……実感したい。ちゃんとあんたから愛されてて、必要とされてるって…」
「うん」
「もう、道具とかそんなもんなくてもいいからさ、」
「翔、」
「シよ」
そうして俺は潤さんの首へと腕を回して、そっとキスをした。

