シカタナイ48 J(潤翔) | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

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【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

翔さんが纏っている空気が、なんだか柔らかくなった。
もしかして翔さんは俺のことが…、なんて勘違いしてしまいそうになる。
 
 
 
 
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
 
誰だろ。
翔さんはまだバイトをしている時間なはず。
それとも俺のことが心配で、早く上がってくれたとか?
やばい、めっちゃ嬉しい!
そう踊るような気持ちでベッドから下りて玄関へ急いだ。
 
「松元クーン!熱があるって聞いたけど大丈夫ー?」
「え、あ、ちょっ!」
 
おじゃましまーすと勝手に部屋に上がり込んでくるこの子は、こないだ店でキスしているのを翔さんに見られてしまった瑞原さんで。
フラフラする足元をなんとか踏ん張って、勝手に家へと上がり込むその後ろ姿を追いかける。
 
「なんで俺んち知ってんの…」
「店長に聞いた~♡」
 
彼女はそのまま勝手にキッチンに立つと、わざわざ家から持ってきたのかエプロンまでつけて、
 
「やーん、なんかインテリアオシャレ♡この冷蔵庫も可愛いー♡」
 
キャッキャ言いながら料理を始めた。
 
「出来たら起こすから寝てていいよぉ♡」
「はぁ…」
 
何かすげぇ頭痛くなってきた。
シカタナイと、言われる通りにベッドへと戻って布団に潜り込む。
目を閉じれば蘇ってくるのは翔さんの姿ばかり。
額に手を当てると、ジュッと音がしそうなほど熱くて、一度翔さんを媒介したウィルスが今や自分の中を犯しているなんて思ったら嬉しくてたまらない。
だけど風邪をもらっちゃうなんて思わなかったなぁ。
まぁ…熱が出て色気駄々漏れの翔さんを前にしたら、欲情する気持ちなんて抑えられるわけもないんだけど。
 
「松元クーン」
 
翔さんのことを考えながら、俺はいつの間にか眠っていたらしい。
瑞原さんに起こされて、あぁそうだったと彼女が家にいたことを思い出した。
 
「お粥できたよぉ」
「あー…、ありがとう」
「ふーふーして食べさせてあげようか?」
「いや、遠慮しとく」
 
釣れない態度に、ぶうっと口を尖らせる瑞原さんからお粥の入った小さめの土鍋を受け取って蓮華ですくった。
そして、自分でふーふーとそれに息を吹きかけながらもやっぱり翔さんのことばかり考える俺は、それをパクンと口に含んだ。
 
そーいや翔さんって、すげぇ不器用そうだけど料理できんのかな。
いや…やっぱあの人料理とか無理だ。
だってあの人がキッチンに立つ姿とか全く想像つかないし、あの人のキッチン、道具どころか食器すらなかったし。
 
「どした?美味しくない?」
 
ぼうっとそんなことを考えていた俺の顔を、瑞原さんが心配そうな顔で見上げている。
うわー、でたよ。
女子の得意技。
上目遣いで、瞬き多め。
これで瞳をうるっとさせてんだもん、彼女は上級者だ。
 
「ううん、すげぇ美味い」
 
さすがだねぇ、なんて言えば満足そうにするんだから相変わらず女なんてチョロいもんだ。
 
色白な肌にすらっと長い脚。
ハーフのような顔立ちの誰が見たって美人の部類に入る彼女。
ちょっと前までの俺なら、このままきっと唾をつけていたのだろうけど、こんなに魅力的な子が近くにいてもそうならないのは、やっぱ翔さんのせいだと思うんだ。
 
「ご馳走様」
「どういたしまして」
「ありがとね。でも、ちょっと本格的に寝たいからそろそろ帰ってもらっていい?」
 
そう頼めば、
 
「うん分かった……じゃあ後片付けしてから帰るね」
 
その言葉に正直助かる、むしろそうして欲しいと思ってしまった。
だって病み上がりでキッチン片付けんの辛いし。
 
その時。
ピンポーン
またインターホンの音がして、今度は誰だよ。
店長のやつ他にも個人情報漏らしてんじゃないだろうな…なんて思う俺よりも先に、
 
「はーい!」
 
ちょっ!瑞原さん勝手に出ちゃったよ。
 
「え!佐倉井クン?」
「えっ、翔さん!?」
 
考えるよりも先に体が動いていた。
バタバタと音を立てて玄関まで走っていくと、そこには確かに翔さんが立っていて、
 
「店長に、おまえが熱が出て仕事休むって聞いたから…」
「来てくれたんだ!?」
「でも、先約いんなら帰るわ」
「待って!」
 
思わず翔さんの腕を掴む。
 
「瑞原さんもう帰るとこだから!」
「…いや悪いって」
「いいから上がってよ!」
「俺はいいって…」
「いいからいいから!」
 
嫌がる翔さんを無理やり部屋に引きずり込んだ。
悪いとは思ったけど、瑞原さんにはカバンとコートを押し付けて、
 
「今日はありがとう、またね」
「え、ちょっと片付け」
「いいからいいから。じゃーね」
 
そう言ってぐいぐいと家から追い出した。
玄関の鍵をかけたところで一気に力の抜けた俺の体はへなへなと崩れ落ち、
 
「大丈夫か?」
 
そんな俺を翔さんが抱きかかえる。
ベッドまで付き添ってくれた翔さんは、お粥の食べ残しを見つめながら呟いた。
 
「さっきの…おまえがこないだ店でキスしてたやつだよな?」
「…うん」
「付き合ってんの?」
「なわけねぇだろっ」
 
慌てて否定する。
でも、頭でっかちな人だからそう簡単に信じてくれそうもないよな。
せっかく来てくれたのにこのまま帰ってしまいそうで怖くて、体キツいけど横にならずにベッドに腰掛けたままでいる俺。
 
「店長に住所聞いたらしくて、心配して来てくれたみたい」
「へぇ…そうなんだ」
 
そう言いながらも、翔さんはどこか納得していないような表情をしている。
 
「じゃあ、なんで俺には連絡しなかった?」
「それは…」
「俺が来たら邪魔だからだろ」
「だから違うってば!」
 
そんなわけ、あるはずないじゃん。
 
「翔さんが…」
「俺がなに?」
「俺のことどう思ってんのか知りたくて…」
 
だって、あんたは俺のこと。
好きだって一度も言ってくれたことないじゃん。
キスして、身体に触れて、俺があんたに好きだって言うことは許すけど。
でもだから…それってどういうことなんだろうって不安で…だから。
 
「俺は…今すげぇムカついてる」
「…ごめん」
「なんなんだよ。熱が出て?仕事休んで?いつもくだらねぇことでも連絡してくるようなやつなのに連絡もなくて?心配で来てみれば女連れ込んでて。で、あれなに?粥作ってもらって食わしてもらって?」
 
何なんだよってまた翔さんが口を尖らせた。
 
「これで俺が来なかったら、ヤることヤってたんじゃねーの?」
 
ねぇ、翔さんそれってさ。
それって。
 
「翔さん、もしかして…妬いてる?」
 
この間は調子に乗るななんて腹を蹴られて家から追い出された。
もしかしたら、今日もうそうして怒って帰ってしまうかもしれない。
でも、この嫌じゃない胸の痛みは、多分勘違いなんかじゃないって思ってる。
 
「……妬いてる」
「え?」
「めちゃくちゃ妬いてる」
 
思わず翔さんの背中に覆いかぶさって、その首に腕を回した。
翔さんが苦しいって言うまで、ぎゅっと力を込めて。
 
「翔さん…好き」
「ふは、おまえそればっか」
 
そう言って俺の方を振り向いた翔さんの唇にキスをして、それを素直に返してくれるのがすげえ嬉しくて。
キスをしたまま、ゆっくりと床の上に倒される。
 
「今度は俺が」
 
そう、翔さんの手が俺の身体をまさぐり始めた。
ウエストの中へと滑り込む手のひらに神経を集中していると、さわさわと敏感な場所にたどり着く彼の指先。
中に潜り込んだその手に握られて刺激を与えられれば、それは否応なしにムクムクと主張を始めるから、俺は期待にぎゅっと目を閉じた。
 
「はっ…はっ…、」
 
息が苦しい。
翔さんが俺を握ってる。
それだけで頭が真っ白になりそうなぐらい気持ちいい。
今までの経験の中で断トツにイイ。
 
「はぁっ…翔さ…ん、イイ…、」
「ふっ、そりゃ良かった」
 
だけどどこか頭の片隅で、このままイかされるよりも翔さんを抱きたいと思った。
どこからそんな体力が湧いてきたのか俺は体勢を起こして翔さんへと覆いかぶさり、反対に彼の身体を床の上へと押し倒す。
目をまんまるくして俺を見あげる翔さんに、
 
「翔さんを抱きたい…、」
 
俺はそう呟いた。
 
 
 
 
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